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[サッカー&シミュレーション技術]ワールドカップをますます熱狂させるVARシステムとセンサ技術

サッカーは競技者数も観戦者数も世界的にきわめて多い人気スポーツ。4年に1度開催されるFIFA(国際サッカー連盟)主催のワールドカップは、世界32チーム(2026年からは48チーム)が一堂に集い、サッカー王者を決定する選手権大会。およそ1か月近くにわたり、グループリーグと決勝トーナメントの熱戦が繰り広げられ、全世界が興奮のるつぼと化します。
近年はスポーツの世界にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています。ファウルなどをビデオ判定するVAR (Video Assistant Referee)システムに加えて、2022年のワールドカップ・カタール大会からは、トラッキングカメラやボール内部のセンサを活用した、半自動オフサイド技術も導入されました。

カタール大会での日本-スペイン戦の勝敗を決定づけたVARシステム

2022年のワールドカップ・カタール大会で、VARシステムの威力を、全世界の観衆にまざまざと見せつけたのは、グループリーグの日本-スペイン戦におけるプレイでした。VARというのはビデオ・アシスタント・レフェリーの略語で、スタジアムの屋根近辺に設置された12台のトラッキングカメラや、ピッチ周囲の多数のウルトラスローカメラなどで得られる映像から、プレイをビデオ判定するシステムです。日本-スペイン戦においては、日本の三苫薫選手がゴールラインのギリギリでボールを折り返し、これを田中碧選手がゴールに押し込み、日本チームが2対1で強豪スペインから貴重な勝利をもぎとり、決勝トーナメントに進出することになりました。三苫選手が折り返したボールは、目視ではゴールラインを割ったかのように見えました。しかし、VARシステムの映像からは、わずか1mmほどですが、ライン内におさまっていることが判明し、レフェリーの確認により得点としてカウントされたのです。

ボールや選手たちの位置を毎秒50回トラッキングする。このほかにも、ウルトラスローカメラなど、多数のカメラがピッチ周囲に配置されている。

センサを内蔵したボールによるオフサイド判定

VARシステムは2018年のワールカップ・ロシア大会から導入されましたが、2022年のカタール大会からVARシステムをサポートするかたちで追加されたのが半自動オフサイド技術です。オフサイドとは、攻撃側はパスを受ける選手の場所から相手ゴールまでの間に、相手チームの選手がキーパーを含めて2人以上いる必要があるというルールです。副審は攻防の最前線であるオフサイドラインとパスボールの出方をたえずチェックする必要があり、きわめて判定が難しいのです。この問題のソリューションとして導入されたのが、半自動オフサイド技術です。ボールの中央に小さなIMU(慣性計測ユニット)を内蔵させ、VARのトラッキングカメラと連携してオフサイドを判定するシステムです。

半自動オフサイド技術
ボールと選手の位置情報をトラッキングカメラで検出。ボールが蹴られた瞬間をIMUで検出し、3Dアニメーションにしてオフサイド判定する。

IMUは加速度センサとジャイロセンサ(角速度センサ)を組み合わせ、動きや振動、衝撃などを検出する慣性センサ(イナーシャルセンサ)の一種です。カタール大会の公式ボールには、先進のMEMS(微小電気機械システム)工法で製造されたIMUを内蔵したボールが採用されました。
慣性センサの原理について簡単に説明します。力学の「慣性の法則」により、静止している物体あるいは等速直線運動をしている物体に外力が加わると、慣性力が作用して元の状態を保とうとします。自動車の発進・制止時に、体が後ろのめり・前のめりになるのも、慣性力が作用するからです。また、移動する物体に回転が加わったときも、元の状態を保とうとする慣性力が働きます。これは「コリオリの力」と呼ばれ、その大きさは回転にともなう角速度(回転速度)に比例します。FIFA公式ボールでは毎秒500回、加速度と角速度を検出してデータをVARルームに送り、映像データと連携させてオフサイドの判定を行っています。最終的には審判により判定されるので「半自動」のシステムですが、この技術により従来のような目視による誤審は、ほぼなくなったといわれます。IMUは今後、バスケットボールやラグビーボールなどにも採用されていくと見込まれています。最先端のセンシング技術により、スポーツ観戦の楽しみ方が大きく広がりそうです。

MEMS加速度センサとMEMSジャイロセンサの原理と構造

先進のMEMS工法による加速度センサとジャイロセンサの原理を説明します。MEMSとはMicro Electro Mechanical System(微小電気機械システム)の略語で、半導体製造の微細加工技術を応用し、シリコン基板(ウエハ)上にセンサやアクチュエータなどの可動部や回路などを一体形成する技術です。
MEMS加速度センサもMEMSジャイロセンサも、シリコン基板の上のバネによって支えられた振動子を形成した構造となっています。また、振動子の周囲には、くし形の可動電極が形成され、これらはくし形の固定電極と隙間をへだてて組み合わされた構造となっています。いずれもコンデンサマイクと同様の原理を応用した静電容量式と呼ばれる検出方式です。 下図のようにMEMS加速度センサに加速運動が加わると、慣性力によって振動子は加速度方向に変位し、可動電極と固定電極の間の距離が変わって静電容量が変化するため、それを検出して加速度の大きさを計測します。

MEMSジャイロセンサでは、振動子をたえず振動させておきます。センサに回転が加わると、振動体の振動方向と垂直にコリオリの力が働き、可動電極と固定電極の間の距離が変わるため、その静電容量の変化から角速度の大きさを計測します。

MEMSセンサは微小で繊細な可動部を内蔵するため、ウエハからダイシング(切断)してチップ化するときに、ゴミなどが可動部に詰まると故障の原因になります。そこで、チップ化する前工程のウエハ段階で封止して可動部を保護するWLP(ウエハレベルパッケージング)という技術が導入されています。WLP技術にはさまざまな手法がありますが、TDKの慣性センサには、TDKのグループ会社であるInvenSense社の「Nasiri(ナシリ)プロセス」と呼ばれる独自工法が採用されています。これは信号処理回路を形成したCMOSウエハを、センサ部を形成したMEMSウエハで蓋をするようにかぶせて封止すると同時に、電気的に接合してワイヤボンディングの工程を省くという画期的な工法です。

MEMSセンサの製造コストの半分以上は、パッケージングとテストによって占められるといわれます。Nasiriプロセスは、従来、MEMSセンサの開発のネックとなっていた設計や試作、パッケージングやテストに関わる時間やコストを大幅低減する革新的な技術です。TDKの慣性センサは、スマートフォン、ドローン、ロボット、自動車など、さまざまな分野で活躍しています。

TDKのIMU(慣性計測ユニット)の製品例

MEMS加速度センサとMEMSジャイロセンサを一体化した小型・高性能の慣性計測ユニットです。3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサからなる6軸IMU、さらに気圧センサを組み合わせた7軸IMU、3軸磁気センサ(電子コンパス)を組み合わせた9軸IMUなど、多彩な製品をラインアップして提供しています。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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