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8. カーボンナノチューブとは?構造や作り方を解説

カーボンナノチューブとは?その構造や作り方

 「ナノテクノロジー」の「ナノ」は、10億分の1を表す単位。とても小さな世界のことかと思いきや、「カーボンナノチューブを利用した明るく省電力で寿命の長い電球」や「カーボンナノチューブを使った超省電力の大型フラットディスプレイ」など、私たちの生活に身近な製品にもナノテクノロジーによる技術革新の波はやってきています。

ナノテクノロジーとカーボンナノチューブの関係

 ナノテクノロジーとは、ナノメートルのとても小さなスケールで物質を操作することによって、物質に全く新しい機能を実現する技術です。ナノテクノロジーによって実現できることは、例えば以下のようなことです。 連邦議会図書館の全蔵書のデータを角砂糖の大きさの記録媒体に収める。 鉄より10倍強い新材料を開発して全ての乗り物を軽くし、燃費を向上させる。 コンピューターの計算速度を100万倍以上あげる。 がん細胞を検知し、遺伝子や薬物をその細胞に狙い撃ちで送り込む。 太陽電池のエネルギー効率を2倍にする。  

これらは、2000年1月に、米国大統領による教書「国家ナノテクノロジー優先施策(National Nano-technology Initiative :NNI)」に示されている具体的目標の例です。ナノテクノロジーで作り出される素材や物質の新機能が、日常生活に大きなインパクトを与えることが分かりますね。  

ナノテクノロジーには2つのアプローチがあります。一方は、今までに使っていた部品や機械をどんどん小さくしていく「トップダウン」のアプローチ、もう一方は、原子や分子を正確に組み合わせることで新しい機能をもつ素材を作り上げる「ボトムアップ」のアプローチです。今回とりあげるカーボンナノチューブは、ボトムアップアプローチで発見・研究がすすめられている代表的な物質のひとつです。  

カーボンナノチューブがなぜこれほどまでに注目されるのでしょうか。その大きな理由は、炭素という地球上に豊富に存在する原子を材料としているにもかかわらず、さまざまな有用な性質を持つ物質だからです。ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛とも呼ばれる、鉛筆の芯の材料)はどちらも炭素からできていることはよく知られています。これらの違いは、物質を構成する炭素原子の結合の仕方によります。このように、同じ原子でも結合のしかたによって異なる物質を「同素体」といいます。  

カーボンナノチューブも炭素だけからできているので、ダイヤモンドや黒鉛の同素体です。他にもダイヤモンドや黒鉛の同素体としては、フラーレン(C60)というサッカーボール型の物質もあり、これもナノテクノロジーで注目されている素材です。ダイヤモンドや黒鉛のような、地球上にありふれている物質と同じ材料で出来ていても、ナノテクノロジーで加工されると、ユニークな性質を持つ物質になるのです。

カーボンナノチューブの構造

カーボンナノチューブは、「グラファイトを筒状に丸めたもの」とよく言われます。グラファイトは、炭素原子が六角形の網目を作るように平面状に結合した膜を重ねたような形をしています。カーボンナノチューブは、この膜を筒状に丸めたような形状をしています。

カーボンナノチューブの興味深い点は、網目に対してどの方向に丸めるかによって、その電気的な性質が異なるということです。向きによって、電気を完全に通す導体になるか、電気抵抗をもつ半導体になるかが決まるのです。

一重のチューブを「単層カーボンナノチューブ」、同心円状にチューブが重なった構造のものを「多層カーボンナノチューブ」と呼びます。  

導体のカーボンナノチューブは、高密度の集積回路の配線用導線として利用することができます。また、半導体のカーボンナノチューブは、次世代のシリコンとして、小型高性能のCPUや電子部品の素材として活用できるのです。

【 上記画像提供先 】 ■ 驚異の新素材カーボンナノチューブ(K.SATOH's official website)

カーボンナノチューブの作り方

カーボンナノチューブは、1991年、当時はNECの筑波研究所に勤務していた飯島澄男博士によって発見されました。最初は、アーク放電法によるフラーレンの合成中にできた煤のような堆積物の中から見つけ出されたカーボンナノチューブですが、現在は主に3つの製法で作られています。

(1)アーク放電法

2本のグラファイトの電極間を軽く接触させた状態で高い電流をかけると、電極間が白く発光する「アーク放電」が発生し、高温になる陽極側の炭素が蒸発します。触媒を電極のグラファイトに混合しておくと、反応容器に付着する煤として単層カーボンナノチューブや2層カーボンナノチューブができます。純度の高いカーボンナノチューブができますが、量産化には不向きな方法です。

(2)レーザーアブレーション法

グラファイトに触媒を混ぜたターゲットにレーザーを照射して炭素を蒸発させ、高温下でカーボンナノチューブを成長させます。チューブの直径を制御しやすいのが特徴ですが、大量生産には向きません。

(3)CCVD法

高温にした金属などの触媒粒子に、炭化水素ガスを反応させて生成します。純度の高いカーボンナノチューブを大量に作るのに適した方法です。

【 関連情報リンク、ならびに上記イラストのモチーフ出典 】

■ 信州大学工学部 遠藤研究室 > カーボンナノチューブの生成法

■ 三重大学工学部 電子材料工学研究室(畑・佐藤グループ)

 

カーボンナノチューブの将来

電気的な性質を応用した素材としても有用なカーボンナノチューブですが、モノを作るための材料としてみた時も、次のような優れた特徴があります。

軽い(アルミニウムの約半分)

丈夫(鋼鉄の20倍、特に繊維方向の引っ張り強度はダイヤモンドより強い)

弾力性がある(チューブなのでしなりがある)

内部に分子をな内包することでさまざまな性質を持つデバイスとして活用できる  

チューブの中に分子を取り込む性質の応用として注目されるのが、水素燃料電池への活用です。水素は、地球上に豊富に存在し、かつ水以外の廃棄物を出さないクリーンなエネルギーとして注目されていますが、コンパクトなスペースに安全に貯蔵することが難しいという問題点があります。ところが、カーボンナノチューブの中に水素を吸収することで、安全に水素を持ち歩ける燃料電池の形にできるのではないかということで研究が進められ、実際にカーボンナノホーン(円錐形の特殊な形のナノチューブ)を電極とした燃料電池が開発されています。充電なしで数日間使えるパソコンや電気自動車などが開発される日も近いかもしれません。  

カーボンナノチューブでロープを作ると、直径1cmで1200トンの重さに耐えられるという、従来の素材に比べてまさに桁外れの強度のロープが作れます。建築物や自動車など、強度としなやかさの両方が求められる分野の素材としての応用が期待できます。  宇宙開発の分野でもカーボンナノチューブは期待されています。ロケットの機体や内部の配線、コンピューターなどをカーボンナノチューブで作ることで、ロケットを軽量化し、より遠くへ飛べるロケットを作ることが可能になるからです。今年の4月、NASA(米航空宇宙局)は、ライス大学に対して、今後4年間にわたって1100万ドルの資金を提供し、カーボンナノチューブを用いた電線の試験開発を支援すると発表しました。2010年までに、長さ1メートルの量子ワイヤーの試作品を完成させる計画です。  

マイクロチップから宇宙船まで、まさに小さなものから大きなものまで動かす、ナノテクノロジーの「米」とでも言うべき物質が、カーボンナノチューブなのです。

【 関連情報リンク 】

■ Tech-Mag 2003年3月号/特集/空想から現実に変貌するナノテク 21世紀前半のキー・テクノロジーに

■ Tech-Mag 2003年4月/特集/ハードディスクの中のナノ宇宙

■ Tech-Mag 2003年5月/特集/磁気記録の密度限界に挑戦続く ■ Tech-Mag 2003年6月/特集/ヘッド技術は先端半導体レベル

■ Tech-Mag 2004年4月/特集/ナノテクノロジーが切り開く近未来 どこでも情報発信・受信も実現へ

■ Tech-Mag 2004年5月/特集/ユビキタスとナノテクノロジーの相関関係とは ■ Tech-Mag 2004年6月/特集/先進国同士がナノテクノロジーを追究 ユビキタス社会に向けて事業化競争に

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