テクのサロン
4. 家のテレビが映らなくなる? − 地上波デジタル放送の真実 −
4月を前にして、進学、就職、転勤などで新しいテレビの購入を検討されている方も多いのではないでしょうか。そんな時にちょっと気になるのが、「地デジ(地上波デジタルテレビ放送)」対応です。今月の「テクのサロン」では、「地デジ」についてみてみましょう。
手紙が電子メールに、銀塩フィルム式カメラがデジカメに、そしてパソコンやケータイ電話……。とにかく生活家電や電子機器は、すべてがデジタル化しています。いちばん身近なテレビだけがアナログのままだった、というのも面白いですね。用途が広がり、さらに便利になるのですから、むしろ期待が大きい技術の進化といえましょう。
なぜデジタル化が必要になったの?
「地上波テレビ放送」とは、1チャンネルから62チャンネルまでのテレビ放送を指します。使用している電波の周波数は、大きくは1〜12チャンネルが利用するVHS帯(70〜222MHz)と13〜62チャンネルが利用するUHF帯(470〜770MHz)に分かれています。宇宙空間にある衛星からの電波を受信する衛星放送と異なり、地上にある放送施設から発信される電波を、地上にあるアンテナで受信するので、「地上波テレビ放送」と呼ばれます。
デジタル化が必要になったのは、日本でテレビ放送が開始された1953年に比べると、現在では飛躍的に電波の用途が増え、周波数帯が不足してきたからです。デジタル化により利用チャンネルを整理し、テレビ用に割り当てる電波を40チャンネルにまで減らして、残りの帯域を通信や他のサービス用に再割当することが目的です。
地デジは2003年12月から放送が開始されました。徐々にエリアは広がりつつあり、2005年末の時点では、日本の総世帯数の約6割で、地デジの放送が受信できるようになっています。現在の計画では、2011年7月にアナログテレビ放送が終了し、完全に地デジにシフトすることになっています。つまり、2011年7月までに、地デジが見られるようにテレビや受信機を買い換える必要があるというわけです。
地デジタルのよいところ
とはいっても、お役所の都合だけでテレビを買い換えないといけないのは納得できないですよね。もちろんそんなことはなくて、地デジには、視聴者にとってもさまざまなメリットがあります。
高画質のハイビジョン放送が楽しめる
地デジでは、ハイビジョン放送が標準になっています。現在のアナログテレビ放送は、画面の縦横比が4:3、走査線(画像を作る線)の数が525本だったのですが、ハイビジョンでは縦横比16:9のワイド画面、走査線数は1125本と2倍以上になります。走査線数が2倍というとわかりにくいですが、大まかにいえば、画面のきめの細かさが2倍になるということです。
画面がきめ細かくなるということは、送信されるデータ量も多くなるということです。デジタル化により、画像を圧縮することができるので、従来のアナログテレビ放送と同じ帯域幅でより高画質の画像を送ることが可能なのです。同じ理由で、音声も従来のアナログテレビ放送よりも高音質になり、2ヶ国語放送でもそれぞれステレオで楽しむことができるようになります。
また、アナログ放送に比べ、デジタル放送ではノイズに強くなります。受信状況が多少悪くても、ゴーストなどの画像の乱れが発生しにくくなります。
マルチチャンネルが楽しめる
地上波デジタルでは、1つのチャンネルを分割して、複数の番組を放送することができます。例えば現在、スポーツ中継などで試合時間が延びると「放送延長」で次の番組の放送開始時刻が繰り下がり、録画予約がうまくいかないといった問題がありますが、地上波デジタルでは、分割したチャンネルのうちの1つでスポーツ中継の続きを放送し、残りのチャンネルで予定通りの番組を放送するといったことが可能になります。
また、同じ番組でも、手話や字幕などを入れたり、高齢者向けに聞き取りやすい音声で放送するなど、さまざまな人に配慮した放送が実現できます。先月の「テクの雑学」で紹介した「ワンセグ」も、マルチチャンネルの1つです。
データ放送が楽しめる
地デジでは、画像・音声と一緒に、データも放送されており、リモコンのボタンをおせばいつでも見られます。データの内容は、局によってもちろんさまざまですが、番組に登場するお店や商品の詳しい案内や、天気予報などの地域情報をデータ放送で見ることができるようになります。朝の忙しい時間に、天気予報のコーナーを待たなくても、データ放送でいつでも見られると便利そうですよね。
番組参加ができるようになる
地デジでは、テレビに電話線を接続して、テレビ局と双方向の情報のやりとりが可能になります。視聴者参加型のクイズ番組が増えたり、リモコンで購入操作ができるテレビショッピングなど、より便利になります。
EPG(電子番組表)が標準に!
現在もハードディスクレコーダーや一部のテレビには搭載されているEPGが、地デジでは標準になります。画面に表示される番組案内をリモコンで選ぶだけで見たい番組を選んだり、自分の見たい番組を検索して選ぶといった操作が簡単になります。
地デジを見るには
デジタル化により、テレビ放送に割り当てられる周波数が62チャンネルから40チャンネルに減るという話をしました。具体的には、現在の13チャンネルから52チャンネルまでが、地デジで使われる帯域ということになります。
この放送を見るためには、対応した受信機と、UHF用のアンテナが必要になります。受信機は、地上波デジタル対応のテレビの他、地上波デジタル対応のテレビチューナーを現在使用しているテレビに接続して楽しむこともできます。ハイビジョンの高画質を楽しむには、テレビ側にD3端子またはD4端子が必要になります。
現在のアナログテレビ放送はVHF帯の1〜12チャンネルを使用しているケースが多く、VHF用のアンテナしか設置されていない家庭やマンションも多いと思います。受信機を購入する時には注意が必要です。また、多くのケーブルテレビ局で地デジ対応のサービスも開始されます。自宅でケーブルテレビを利用できる場合は、こちらを利用するのもよいでしょう。
また、地デジは、従来のアナログテレビ放送と異なるチャンネル(周波数)で放送されます。例えば関東の場合、従来アナログで1チャンネルで放送されていたNHK総合はデジタルでは27チャンネルに変更されます。チャンネルの変更による混乱を避けるため、放送局では、あらかじめ地上波デジタル対応のテレビやチューナーのリモコンの数字ボタンに、放送局を自動的に割り当てる仕組みを採用しています。
なぜ全国すべてのエリアですぐに見られないの?
地デジ用チャンネル(周波数)はUHF帯を利用しますが、UHF帯は現在、アナログテレビ放送で使われています。地デジ用のチャンネルを確保するために、地域によっては、電波の混信を避けるため、従来のアナログテレビ放送で使用しているチャンネルを、別のチャンネルに移動する必要が出てくる場合があります。この変換を、「アナアナ変換」と言います。
アナアナ変換の対象となっているエリアでは、地デジを見ない人でも、従来のアナログテレビ放送を見るために必要になります。作業の内容は、テレビチャンネルの再設定、アンテナの交換や方向変更、環境によってはブースターやフィルタの設置などが必要になります。
工事は、国から指定を受けた社団法人電波産業会(ARIB)が計画に沿って無料で実施します。「アナアナ変換作業をしないとテレビが見れなくなります」等といって工事費を騙し取る詐欺も発生しているようですので、十分に注意してください。
B-CASカードって何?
ところで、地デジの開始にあたって、一番問題になったのは、「コピー防止技術をどうするか」でした。デジタル放送をハードディスクレコーダーやDVDなどのデジタルメディアに録画すると、オリジナルと全く同じ品質の映像が記録できてしまいます。もちろん家庭で個人的に楽しむだけなら全く問題はないのですが、これを元にして番組の違法コピーが出回ることになっては問題です。そこで、地デジでは、コピー防止技術として「B-CASカード」を採用しました。
B-CASカードには、利用者の情報や、契約情報などが記録されています。地デジの電波は暗号化されて放送されており(スクランブル放送)そのまま受信しても見ることはできません。受信機は電波を受信すると、B-CASカードに記録された情報を元にスクランブルを解除していいかどうかを判断し、コピー制御情報とあわせて実際の映像信号を復元します。
【 上記画像提供ならびに関連情報リンク 】
■B-CAS(株式会社ビーエス・コンディショナル アクセス システムズ)
つまり、B-CASカードがなくては、録画ができないのはもちろん、スクランブルを解除して普通にテレビ番組を楽しむこともできないのです。B-CASカードはテレビやチューナーに必ず同梱されているはずなので、なくさないように注意してください。
最近のテレビ関連の新製品では、地デジ対応がクローズアップされています。買い替えの機会があれば地デジを視野に入れて選ぶのもいいですが、2011年までは、従来のアナログテレビ放送も楽しめるので、慌ててテレビを買い換える必要はまだありません。この機会に地デジ対応テレビで新しい番組を楽しむか、もう少し待ってから買うか、じっくり考えてみてくださいね。
著者プロフィール:板垣 朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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