テクのサロン

2. いまさら人に聞けないブロードバンドのあれこれ

いまさら人に聞けないブロードバンドのあれこれ

ほんの数年前までは、一部のパソコン好きな人の趣味だったインターネットも、ブロードバンドの普及により、すっかり一般の家庭に入り込んでいます。新聞に「ブロードバンド」という文字がない日はありません。そこで今月の『テクのサロン』では、日ごろなんとなく使っている「ブロードバンド」について解説してみました。

ブロードバンドとは何か

ブロードバンドとは、速度の速い通信回線と、その回線を利用して、大容量データを活用するさまざまなサービスです。ブロードバンドに対して、速度の遅い回線のことをナローバンドといいます。  

「ブロードバンド」はそのまま訳すと「広い幅」という意味です。幅が広いと高速な通信が可能になるのは、道幅の広い道路ほど短時間で多くの車が通過できるのと同じ原理です。1車線の道では1度に1台の車しか通れませんが、3車線の道なら1度に3台の車が通過できます。通信で「速度」といえば、一定時間に送受信できるデータの量のことを指します。つまり、一定時間に多くのデータが送受信できる=通信速度が速い、ということになるのです。  

ブロードバンドを利用して高速のデータを送受信できるということは、動画や音楽など、容量が大きなデータも高速に送受信できるということです。ナローバンドによる接続が一般的だった時はメールやホームページの閲覧が中心だったインターネットの利用も、最近の一般家庭へのブロードバンドの普及により、動画や音声などのコンテンツを提供するサービスが続々と登場しています。

ブロードバンドを実現する3つの接続技術

■ケーブルテレビ 

インターネットの仕組み 他のサービスとの違いは、電話網を使用しないでネット接続をしている点。極端に言うと、通常の電話契約をしていなくても、インターネットにつなげられる、ということでもある。TV契約と同時に申し込むと安くなるケースが多く、自宅がケーブルサービスの対象エリアであれば、メリットは大きい。

【ケーブルテレビ】  

日本の家庭で利用できるブロードバンドのさきがけとなったのが、ケーブルテレビの回線を利用した「ケーブルテレビインターネット」です。ケーブルインターネットの第1号「武蔵野三鷹ケーブルテレビ」が商用サービスを開始したのは、1996年10月にさかのぼります。

ケーブルテレビは、ケーブルを使って、テレビの放送を配信するサービスです。このケーブルの空いている周波数帯を使って、上りと下りの双方向の通信を行うことで、インターネット接続サービスを実現しています。パソコンとケーブルの接続にはケーブルモデム(通常はケーブルテレビ局からレンタルする)を使用して、データ信号を放送用ケーブルで送受信できる形に変換します。下り方向の通信に比べて、上り方向の通信は、各家庭からの通信が合流していく形で基地局に接続される形のネットワークなので、ノイズが混入しやすく、通信速度が低くなります。そのため、上りは遅く、下りは速い非対称な速度でのサービスが一般的です。  

ケーブルテレビインターネットが普及し始めた当時は、インターネットへの接続は、モデムやターミナルアダプタを使用して、ネット利用時だけ接続する「ダイヤルアップ接続」が一般的でした。インターネットを長時間利用するヘビーユーザーから、従量制の電話料金に対して不満が出てきたため、夜間だけ通話料金を一定にする「テレホーダイ」や、特定番号への通話料金を定額にする「フレッツISDN」などのサービスが脚光を浴びていました。その時期に、ケーブルテレビというネットワークを使って、インターネットにも高速常時接続の環境を実現したという点で画期的でした。現在は、300社以上のケーブルテレビ事業者が、インターネット接続サービスを提供しており、2004年9月末現在で約280万契約の利用がされています(総務省発表「ブロードバンド契約数等の推移」による)。

 

【ADSL】

■ADSLの仕組み

現在、最もポピュラーなインターネット接続方式。自宅に引いてある電話回線を、接続局側で設定し直してもらうだけで済む。契約プロバイダーから割り当てられるモデムを接続し、通常電話とネット接続の2つに分ける(スプリッタを使用)。最近は接続基地局から4km以上でもサービスが可能となり、対象エリアも全国的に広がっている。

ケーブルテレビが先鞭をつけた日本のインターネットですが、自宅のあるエリアでケーブルテレビサービスが実施されていなくては、利用が困難です。また、マンションなどの集合住宅では、建物ごとケーブルテレビ敷設の契約が必要であり、利用が難しいケースもありました。ブロードバンド普及のきっかけとなったのがADSLサービスです。中でも、2000年12月からNTTが提供を開始した「フレッツADSL」は、アナログ電話回線さえ敷設されていればどこでも利用できるサービスとして、サービスエリアの拡大と共に爆発的に普及しました。  

ADSLは、音声通話に使用しない高周波の帯域のアナログ信号を使って、データを送受信する技術です。データのデジタル信号を、ADSLモデムを使って高周波のデータ信号に変換し、電話線で送受信します。音声信号とデータ信号は、家庭内と電話局の両方に「スプリッタ」という機械を設置し、周波数の違いを利用して分離します。  

電話による通話でも、遠距離との通話ではノイズが入りやすくなるように、ADSLによる通信でも、電話局との距離が長くなればノイズが入りやすくなります。特に、データ伝送に用いる高周波のアナログ信号は、ノイズに弱いという欠点があります。そのため、電話局からの距離が遠い家庭では、ノイズのため通信速度が低下したり、場合によってはサービスそのものの提供が困難になる場合もあります。  

2004年9月末時点で、ADSL接続サービスの契約数は1280万件余りとなっています(総務省発表「ブロードバンド契約数等の推移」による)。ADSLは、現在の日本のインターネット接続の主流であると言えるでしょう。

■光ファイバー通信の仕組み

別名FTTH(ファイバー・トゥー・ザ・ホーム)。ADSLの場合、同じ接続基地局を使用する近隣と電話回線を共用する為、時間帯によっては混み合うケースがある。光の場合は専用線を引き込むため、大容量を占有できるメリットがある。唯一の問題は、本編にもある通り“ラスト・ワンマイル”、すなわち自宅側で設置が不可能になってしまうインフラ的な問題が起こること。

【光ファイバー(FTTH)】  

まだ普及がはじまったばかりですが、ブロードバンドの大本命と言われているのが光ファイバーによる接続です。ケーブルテレビインターネットやADSLが、最大でも下り数10Mbps程度の速度なのに対し、光ファイバーを利用した接続では100Mbps以上の高速な通信が可能です。

光ファイバーによる通信は、電気信号を変換機を使って光信号に変換します。光信号とは、光の点滅で情報を送る信号のことです。点滅の速度を高速にしたり、さまざまな色の光を混ぜて使うことで、通信速度を向上することができるのです。光ファイバーを使った家庭向けの通信サービスのことをFTTH(Fiber To The Home)と呼びます。政府は、2010年を、一般家庭への光ファイバー網の普及の目標としています。  

そもそも、日本の通信サービスの基幹網は既にほとんどが光ファイバー化されており、そこから各家庭までの間をどうやって光通信にするかという「ラスト・ワン・マイル」の問題さえクリアできれば、一般家庭でFTTHを利用するのはそう難しくはありません。2001年夏のNTT東日本による光接続サービス「Bフレッツ」の提供開始から、サービスエリア拡大と共に利用者が急増しており、2004年9月末現在のFTTHの契約数は203万件余りとなっています(総務省発表「ブロードバンド契約数等の推移」による)。サービス提供事業者も、通信事業者の他、電力会社や有線放送事業者などが参入しています。  

とはいえ、特に都会では配線の関係上新たにケーブルを引き込むことが困難だったり、集合住宅などで、技術的には可能でも費用負担の問題で住民の総意が得られず、回線の光化が困難になるなど、「ラスト・ワン・マイル」問題の解決は簡単ではありません。しかし、家庭のインターネット通信の高速化と光化は時代の流れであり、最終的には家庭のインターネット接続は、FTTHに移行していくと考えられます。

ブロードバンドと常時接続で実現できること

【 関連情報リンク 】

■Tech-Mag 2004年12月上旬号/テクの雑学/小さく分けて送ると、安くなる?? 簡単にわかるIP電話のしくみ/

 ブロードバンドサービスのもう一つの特徴が「常時接続」であるということです。常時インターネットに接続されているということで、大容量コンテンツの利用以外にもさまざまな可能性が広がります。  

ブロードバンドサービスを提供する各社が、目玉サービスとして宣伝しているのが、IP電話サービスです。これは、電話端末間の通信経路の一部にインターネットを使用することで、電話の通話料金を安くしたり、同一プロバイダーのサービスの利用者間では無料通話ができるようになるサービスです。  

また、インターネットに常時接続されていることで、インターネット上のサーバーにデータを蓄え、どこからでもネットワーク経由で引き出せる「ネットワークストレージ」の仕組みが手軽に利用できます。家庭、会社、客先、サテライトオフィスなど、どこにいても同じデータが活用できることで、ホームオフィスの可能性が広がります。  

ブロードバンドを利用している家庭では、複数のパソコンをネットワークで接続する「LAN」を構築して、どのパソコンからもインターネットを利用できるようにしています。家電製品をインターネットに接続することで、新しいサービスが考えられます。例えば、テレビ番組をハードディスクに録画する「ハードディスクレコーダー」をネットワークに接続することで、EPG(電子番組表)を自動更新したり、ネットワーク経由で録画予約をするといったサービスは既に実現されています。他にも、今までになかったさまざまなサービスが考えられそうです。

ブロードバンドサービスの問題点と課題

ブロードバンド普及を考える上で忘れてはいけないのが、地域格差の問題です。ブロードバンドを語るとき、私たちは、通信環境が充実している都会のことにばかり目がいきがちですが、主に地方の過疎地域では電話局からの距離が遠すぎてADSLが利用できないなど、ブロードバンドサービスが利用しづらい環境がまだまだあります。無線を利用した高速通信技術などの研究が進められていますが、同時に行政による施策が必要とされています。  

また、もう一つの問題が、「デジタルデバイド」です。デジタルデバイドとは、パソコンやインターネットを使いこなせる人と使いこなせない人の間で、情報格差が生まれたり、受けられるサービスの量や質に差が広がり、その結果所得の差が生まれたり、教育や就業などの機会が均等でなくなるという現象です。ブロードバンド普及を進めていくにあたっては、パソコンやインターネットに触れる機会がなかった人々や、新しい機械の導入に積極的でない層をどのように取り込んでいくかが課題となります。

【 関連情報リンク 】

■Tech-Mag 2004年10月下旬号/テクの雑学/「電線」から「光線」へ?  ‐光回線は、いまや重要な社会インフラに‐/

■Tech-Mag 2004年11月下旬号/テクの雑学/コンセントからインターネット?  ‐ 新たなインフラ=電力線通信の正体 ‐

■Tech-Mag 2003年11月号/特集「高品質ブロードバンド環境を支える電子部品」

著者プロフィール:板垣 朝子(イタガキアサコ) 1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける 著書/共著書 「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム) 「誰でも成功するインターネット導入法?今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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