パワーエレクトロニクス・ワールド

第7回 スイッチング電源のノイズ対策

従来のリニア電源にかわり、電子機器の電源の主流となったのがスイッチング電源。小型・軽量・高効率というすぐれた特長をもちますが、スイッチング電源ならではのやっかいな弱点もあります。半導体素子により電流を高速ON/OFFする方式であるため、高周波のノイズを発生することです。スイッチング電源の技術史は高効率化のための熱との闘いとともに、ノイズとの闘いでもありました。スイッチング電源には多種多様なノイズ対策が投入されています。

EMC対策の4手法(反射、吸収、バイパス、シールド)を駆使したスイッチング電源

電子機器のノイズ対策のことをEMC対策ともいいます。ノイズ問題にはEMI(電磁妨害=エミッション問題)とEMS(電磁妨害感受性=イミュニティ問題)があり、この双方を両立させる考え方をEMC(電磁的両立性)といいます。つまり、「他のシステムにノイズ障害を与えず(EMI)」「他のシステムや自らが出すノイズの影響を受けず(EMS)」というのがEMCです。
スイッチング電源はEMC対策の基礎や応用を知るうえで格好の機器です。というのも、スイッチング電源は他のシステムからの伝導ノイズの入口であるとともに、負荷側(IC回路など)にノイズを送り出す出口となっているからです。また、スイッチング電源は自らがノイズ発生源にもなっています。このノイズは“伝導ノイズ”とし電源ライン上に流れるだけでなく、“放射ノイズ(有害電磁波)”となって、自らや他の電子機器に悪影響を及ぼします。EMC対策なしにスイッチング電源は使い物にならないといって過言ではありません。
EMC対策には、(1)反射(LCフィルタなどでノイズ成分の伝導を阻止)(2)吸収(フェライトコア、チップビーズなどでノイズを吸収して熱に変換)(3)バイパス(コンデンサやバリスタなどでノイズをグランドに流し去る)(4)シールド(放射ノイズを金属ケースでグランドに流したり、フェライトなどの電波吸収材で吸収して除去する)という4つの手法があります。
AC-DCスイッチング電源を例に、パワーエレクトロニクス機器のEMC対策を考えてみます。AC-DCスイッチング電源は、商用交流を整流・平滑してからDC-DCコンバータにより一定電圧の安定した直流に変換して出力する装置です。入力側・機器本体・出力側それぞれにEMC対策がほどこされます。
まずは入力側です。商用交流は電力供給ラインであるとともに、雷サージや他の電気・電子機器からの高周波ノイズやパルス性ノイズなど、さまざまな伝導ノイズの入口になっています。そこで、こうしたノイズの侵入を阻止するため、入力側には電源用EMCフィルタ(ラインフィルタ)が接続されます。電源用EMCフィルタは機器内部で発生して外部に流出するバックノイズ(帰還ノイズ)を抑制する役割も果たします。

電源用EMCフィルタにおけるコモンモードチョークの働き

電源ラインや信号ラインを流れる伝導ノイズには、“ディファレンシャルモード”と“コモンモード”という2タイプの伝導モードがあります。ディファレンシャルモードノイズは、2本の導線を往路・復路として伝わるノイズです(ディファレンシャルとは電流方向が互いに異なるという意味)。電源電流や信号電流はディファレンシャルモードです。このためノーマルモードとも呼ばれます
対策がやっかいなのはコモンモードノイズのほうです。たとえば電子機器内部で発生した放射ノイズは、金属ケースや床などに微弱なノイズ電流として流れて他の電子機器に侵入します。これをコモンモードノイズ電流といいます。電源ラインや信号ラインの往路・復路とは無関係に侵入し、2本の導線を同じ方向に流れるところがディファレンシャルモードノイズとの違いです。コモンモードノイズは電圧レベルは低いものの、広範囲に伝播するのが特徴です。近年、ICやLSIの駆動電圧は約2V〜1V以下にまで低電圧化してきているため、ICやLSIの誤動作をもたらすコモンモードノイズへの対策は、電子機器のEMC対策の中心となっています。
ディファレンシャルモードノイズはインダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせたLCフィルタで低減できますが、コモンモードノイズには効果がありません。そこで、電源機器の入力部にはコモンモードフィルタとコンデンサを組み合わせた電源用EMCフィルタが必須となります。コモンモードフィルタは環状のフェライトコアやアモルファスコアに2本の導線を同じ方向に巻いたもの。コモンモードノイズ電流は同方向に流れるため、コア内部に発生する磁束も同方向となり、大きなインピーダンスを示してノイズの侵入を阻止します。また、コモンモードフィルタの両側のコンデンサ(Xコンデンサという)は、ディファレンシャルモードノイズを低減、出力側のコンデンサ(Yコンデンサという)はコモンモードノイズをグランドに流して低減します。 機器組み込みタイプやインレットソケットタイプなど、TDKでは用途に応じた多数の電源用EMCフィルタをラインナップしています。

トータルEMCソリューションが電源機器の入口から出口までをサポート

電源機器本体にも、さまざまなEMC対策が講じられています。AC-DCスイッチング電源では、交流を整流・平滑してもなお、交流の“名残”ともいうべき、うねりのような電圧変動を残しています。また、直流電圧を変換するDC-DCコンバータ部では、この電圧変動に高周波のスイッチングノイズが重畳します。さらに2次側の転流ダイオードからもスパイクノイズと呼ばれる急峻なノイズが発生して重畳します。バッテリの直流を利用する機器では、交流周期のうねりはありませんが、やはりDC-DCコンバータ部で高周波のスイッチングノイズやスパイクノイズが発生します。こうしたノイズを低減するために、コンデンサ(C)と抵抗(R)とによるCRスナバ回路が、トランジスタや転流ダイオードに並列に挿入されます。
回路基板パターンの設計上で注意が必要なのは、トランスやチョークコイルなど、コイルをもつ電子部品の配置です。コイルの漏れ磁束(リーケージ・フラックス)が他のコイルと磁気的に結合してノイズを誘導してしまうからです。また、配線に大電流が高速でON/OFFすると、配線がもつインダクタ成分によりノイズが発生します。電子部品のリード線さえ影響してくるので、リード線はできるだけ短くする必要があります。この点、積層セラミックチップコンデンサのような表面実装タイプのSMD部品はリード線をもたないので有利です。
ループ状の配線路に高周波電流が流れると、ループがアンテナのように機能してノイズを放射します。したがって配線路のループ面積はできるだけ小さくなるように設計します。小型電源では全体を金属ケースで覆うのも、放射ノイズを電磁シールドして、外部に漏出させないためです。出力ケーブルもアンテナとなるので、フェライトコアやクランプフィルタなどが放射ノイズ対策として使用されます。
AC-DCスイッチング電源はEMC対策の見本市さながら、実にさまざまなノイズ対策が投入されています。それを概観的にまとめたのが下図です。同じ回路図でも配線パターンや部品レイアウトによっても、スイッチング電源の性能は大きく異なってきます。電源は入口から機器本体そして出口までの一貫したEMC対策が必要です。TDKではこれをトータルEMCソリューションと名づけ、電波暗室によるノイズ測定などを含めた総合的なサービスとして提供しています。

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