パワーエレクトロニクス・ワールド

第9回 スイッチング電源のエネルギー伝達を支える電子部品

自動車の主役がエンジンであるとすれば、電源の主役はトランス。従来のリニア方式の電源に使われていた重くて大きなトランスは、スイッチング電源においては、軽く小さなものとなりました。また、何よりもエネルギー変換効率においても格段にすぐれるのがスイッチング電源の特長。トランスの設計が電源の性能を左右するといっても過言ではありません。

コンデンサばかりでなくコイルもエネルギーを蓄える

人間が摂取した食物はグリコーゲンや脂肪として体内に蓄えられ、筋肉や脳の活動に使用されます。電子機器においてエネルギーを一時的に蓄える役割を担うのはコンデンサやコイル(インダクタ)です。コンデンサは蓄電器とも呼ばれるように、電荷を蓄えることが基本機能の1つ。複数のコンデンサとICによる簡易なDC-DCコンバータもあります。充電したコンデンサをICのスイッチングでつなぎかえて電圧変換するDC-DCコンバータで、チャージポンプ式と呼ばれます。携帯電話のディスプレイのバックライト用電源などに使われますが、チャージポンプ式は簡易ながら大電流出力は苦手で効率もあまりよくありません。このため、携帯電話などではコイル(パワーコイル、パワーインダクタ)を搭載した小型DC-DCコンバータも多用されています。では、コイルはなぜエネルギーを蓄えることができるのでしょうか?
コンデンサとコイルは正反対の性質をもっています。直流を通さず、交流を通すというのがコンデンサのもう1つの基本機能です。コイルはこれとは逆に、直流をスムーズに流すものの、交流に対しては抵抗のように振る舞います。その原理は電磁誘導です。交流のような変動する電流に対して、コイルはその変動を妨げるように磁束を発生させて起電力(電圧)を生み出します。これを自己誘導現象といい、そのときのコイルの働きの大きさをインダクタンスといいます。
交流に対して抵抗のように使われるコイルは、流れを“ふさぐ・詰まらせる(choke)”という意味からチョークコイルと呼ばれます。蛍光灯の安定器も1種のチョークコイル。スイッチを入れてからグロースタータの接点がOFFとなった瞬間、安定器のコイルは、蓄えたエネルギーをいっきに放出して蛍光管を点灯させます。
コイルのインダクタンスはコイルの巻数とコイルを貫通する磁束に比例します。チョークコイルのコアには、ケイ素鋼やフェライト、センダスト、アモルファス合金などの軟磁性体が使用されます。こうした磁性体はスポンジが周囲の水を吸い込むように、磁束をよく吸収するため、コイルのインダクタンスを高めて小型化することができます。飽和磁束密度はどれだけ多くの磁束を吸い込めるかを表し、透磁率は磁束の吸い込みやすさを表します。

コアの“磁気飽和”はなぜ避けねばならないのか?

ケイ素鋼板のような鉄系のコア材料は、飽和磁束密度が大きいので電磁石やモータ、柱上トランスの鉄心などとして多用されています。ところが、スイッチング方式の電源では数10kHz以上の高周波の電流が流されます。このためチョークコイルやトランスのコアには金属系材料は使えません。というのも金属系のコアは電気抵抗率が低いために、発熱によるエネルギーロスが大きくなってしまうのです。これを鉄損といいます。そこで、スイッチング方式の電源のコアには、フェライト、センダスト、アモルファス合金などが用いられます。
コアに巻線をほどこしたコイルにおいて重要なのは“磁気飽和”という現象です。磁性体の磁化過程を表す曲線として、独特なS字ループを描くヒステリシス曲線(B-H曲線)というものがあります。ループの傾きが透磁率を表し、透磁率が高いコアほど小電流ですばやい立ち上がりを示します。
チョークコイルとしてはトロイダル(ドーナツ状)のコアに巻線をほどこしたものが多用されます。トロイダルコアは閉磁路なので、周囲に漏れ磁束(リーケージ・フラックス)が発生しません。ところが、巻線に流す電流をしだいに大きくして、コアに加えられる磁界を強めていくと、コア内部の磁束密度は上昇してやがて頭打ちになります。この値が飽和磁束密度です。飽和磁束密度を超えて、コイルに大電流が流れるとスイッチング素子を破壊したりするおそれがありますが、コアにギャップを入れると、これを回避することができます。空気の透磁率はコア材の透磁率より格段に小さいため、磁気抵抗が大きくなって、磁気飽和を防げるのです。また、これによってチョークコイルの小型化も図れます。ただし、ギャップから漏れ磁束が生じるため、そのための対策が必要になります。漏れ磁束が他の部品と磁気的に結合すると、ノイズなどのトラブルの原因となるからです。

絶縁型DC-DCコンバータにはON/OFF方式とON/ON方式がある

トランスも電磁誘導を利用したパワーデバイスです。1次巻線の磁束変化をコアを通じて2次側に伝えると、2次巻線に起電力が発生します(相互誘導現象)。中〜大容量のDC-DCコンバータの多くは、トランスを用いて入力側と出力側とを絶縁しているため絶縁型とも呼ばれます。絶縁型DC-DCコンバータは、入力から出力までのエネルギーの伝達の違いにより、ON/OFF方式とON/ON方式に大別されます
ON/OFF方式はスイッチング素子がOFFのときに出力側にエネルギーを伝え、ON/ON方式はスイッチング素子がONの状態でエネルギーを伝える方式です。これだけでは何のことやらわかりませんが、トランスやチョークコイルの働きの違いをみるとよく理解できます。
たとえば、出力がおよそ50W以下の絶縁型DC-DCコンバータの多くは、RCC方式あるいは自励式フライバック・コンバータと呼ばれるON/OFF方式のDC-DCコンバータです。スイッチONにより、1次巻線に流れる電流によってトランスコアには励磁エネルギーが蓄えられます。このとき2次側にはまだエネルギーは伝達されませんが、スイッチOFFとなったとたん、コイルの自己誘導現象により巻線に起電力が発生し、エネルギーが出力側に伝達されます。 RCC方式はトランスの1次側のベース巻線の電流をスイッチング素子に送って発振させる方式です。発振回路を別に内蔵させた他励式と異なり、部品点数が少なくてすみますが、トランスのコアが磁気飽和するとスイッチング素子を破損するおそれがあります。このためコアにギャップを設けたトランスが使われます
ON/ON方式であるフォワード・コンバータやプッシュプル方式、ハーフブリッジ方式、フルブリッジ方式などのDC-DCコンバータでは、スイッチON時にトランスを通じて入力側から出力側にエネルギーが伝達される方式です。励磁エネルギーは小さいためトランスにギャップは設けません。この方式で重要な役割を果たすのが2次側のチョークコイルです。スイッチOFF時にはトランスの巻線の電流がとだえますが、このときチョークコイルに蓄えられていたエネルギーが放出されます。
電源の入力から出力へのエネルギー伝達に、トランスやチョークコイルがいかに大きな役割をはたしているかが、おわかりいただけたでしょうか。TDKでは低コアロス・高特性の各種フェライトコア材を豊富にラインナップ。さらには先進の磁気シミュレーション技術などにより、コア形状や巻線パターン、シールド設計なども最適化。パワーエレクトロニクス機器の小型・軽量・高効率化を力強くサポートしています。

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