パワーエレクトロニクス・ワールド

第10回 地球にやさしい省エネ社会のための電源技術

CO2排出の削減や脱石油をめざし、ガソリン車にかわる電気自動車の開発が精力的に進められています。また、電気自動車とともに、太陽光や風力といった自然エネルギーの利用技術は、これからのエコ社会のキーテクノロジーといわれ、米国をはじめとする先進各国は“グリーン・ニューディール”政策を積極的に進めようとしています。

HEVの省エネにも貢献する車載DC-DCコンバータ

電気自動車には積載したバッテリ(繰り返し充放電できる二次電池)でモータ走行するピュアEV(狭義の電気自動車)、モータとエンジンを併用するHEV(ハイブリッド車)、燃料電池(1種の化学発電機)を搭載して発電・充電しながらモータ走行する燃料電池車などがあります。こうしたクリーンカーの開発レースで先頭を走っているのはHEVで、家庭で充電できるプラグインHEVも登場しています。ピュアEVは機構がシンプルですが、現在のところバッテリがネックとなって航続距離が短いのが難点。 燃料電池車は技術的な問題から乗用車としての普及はまだ先とみられています。
電気自動車に搭載されるバッテリとしては、ニッケル水素電池が主流ですが、今後リチウムイオン電池が主流になると思われます。バッテリの性能の指標としてエネルギー密度というものがあります。重量あるいは体積あたり、どれくらいの電気エネルギーを取り出せるかを表すもので、エネルギー密度が高いほど小型・軽量のため多数のバッテリが積載可能で、航続距離も長くなります。
エネルギー密度においてリチウムイオン電池はニッケル水素電池を上回り、得られる電圧も高い(3.5〜4V)のが特長。EVやHEVのモータには効率化のために約200〜300Vの高圧が用いられるので、この点においてもリチウムイオン電池は有利です。ただし電解液に引火性の有機溶媒が使われるので安全性を十分に確保する必要があります。なおポリマーリチウムイオン電池というのは、電解液をゲル状のポリマー(高分子化合物の重合体)に置き換えたものです。
現在の自動車にはさまざまな電装機器が搭載され、走る電子機器とも呼ばれています。こうした電装機器の多くは低圧(14V)で動作するため、HEVにおいては高圧のメインバッテリから低圧に変換して補機バッテリ(14V)に充電されます。この電圧変換の役割を担うのがHEV用DC-DCコンバータです。パワーウインドウやパワーシート、カーナビなど、自動車が利便性が高まるほど電装機器の消費電力も急増し、バッテリの負担が大きくなっています。このため、さらなる省エネとバッテリ負担の軽減は、HEVの大きな課題となっています。
先進の熱解析シミュレーションを駆使した放熱設計などにより、高効率・低ノイズ・高信頼性を実現したのがTDKのHEV用DC-DCコンバータです。DC-DCコンバータの発熱ロスのひとつにトランスのコアロスがあります。TDKでは25℃〜120℃という広い温度範囲で低損失特性を保つ新開発フェライトPC95材を採用して、コアロスの大幅軽減も実現。内外のHEVに採用され、その性能は高い評価を得ています。
従来の鉛蓄電池にかわる小型・軽量・長寿命のバッテリとして、リチウムイオン電池はUPS(無停電電源装置)においても採用されています(詳しくは本シリーズ・第8回をご参照ください)。また、太陽電池や風力発電などが家庭でも利用されるようになると、発電したエネルギーをいったん蓄えておくバッテリが必要となります。このバッテリにも、大容量でもコンパクト化できるリチウムイオン電池が活躍しそうです。

PWM(Pulse Width Modulation/パルス幅制御)による電圧安定化のしくみ

エレクトロニクス機器はCO2を排出しないとはいえ、さまざまなパワーロスにより熱を発生します。発熱対策と省電力は電源に課せられた永遠の使命。とりわけネット社会の発展により、このところ急増しているのがIT関連の電力消費量です。IT機器の排熱や冷却用電力も加わり、このままでは2025年頃には日本全体の電力消費量の4分の1をIT関連が占めるようになると推計されています。そこで、電源のさらなる効率化のために、デジタル制御技術がこのところ熱い注目を浴びています。従来のアナログ制御からデジタル制御に置き換えて電源の効率化を図れば、省電力化が図れて発熱も少なくなり、冷却に必要な電力を低減できます。数100W以上の大容量電源において、とくに大きなメリットがもたらされますが、携帯電話をはじめとするモバイル機器のバッテリ節約にも期待が寄せられています。
デジタル制御の紹介の前に、現在のアナログ制御のしくみをDC-DCコンバータを例に簡単に説明します。DC-DCコンバータをはじめとするスイッチング方式の電源は、直流電流を高周波のパルスにしてトランスに送り、電圧変換する方式です。得られる電圧はパルス幅によって決まるため、PWM(パルス幅制御)と呼ばれます。しかし、出力側の負荷の変動に影響されて、一定であるべき出力電圧は不安定になります。この問題を解決するために、出力電圧の変動をフィードバックして誤差をなくします。これが安定化回路です。
下図のように、まず出力電圧を検出して基準電圧と比較して、その誤差をエラーアンプ(誤差増幅器)で増幅し、アナログコントローラに送ります。アナログコントローラでは発振器から送られてくる一定周期の三角波を利用し、エラーアンプからの信号電圧に応じたパルス幅でスイッチング回路に送ります。このフィードバックによってDC出力電圧の安定化が図れます。しかし、きめ細かな電圧制御はアナログ方式では限界があり、デジタル制御が電源技術の新たなトレンドとして登場したのです。

デジタル制御による電源のさらなる進化が始まっている

電源のデジタル制御には、通信系のデジタル制御を意味する場合と、PWM(パルス幅制御)の回路をアナログからデジタルに置き換えたものを意味する場合があり、これら双方を含むものはフルデジタル制御と呼ばれます。
通信系のデジタル制御というのは、下図のようにデジタルインタフェースを通じて、パソコンから信号を送り、電圧、電流、温度などの変化に応じて電源をコントロールする技術です。またアナログ制御の検出比較回路や制御回路を、A-DコンバータとDSP(デジタルシグナルプロセッサ)で置き換えたのがフィードバック系のデジタル制御です。
デジタル制御は最新の技術ではなく、デンセイ・ラムダ(現・TDKラムダ)では1980年代からUPSに採用しています。UPSは停電時でもシステムがダウンしないよう、瞬時に商用交流からバッテリに切り替えるシステムです。このときバッテリの動作状態をオンラインでモニタしたり、商用交流への復帰などの制御をデジタル化することで、スピーディできめ細かなコントロールを可能にします。
デンセイ・ラムダでは電気通信大学と共同で、DSPを用いたフルデジタル制御のスイッチング電源技術を2005年に開発し、“インテリジェントパワーサプライ”と名づけたクォーターブリックサイズの絶縁型DC-DCコンバータの試作機を製作。現在、周辺技術の開発やアプリケーションの調査を進めつつ商品化を目指しています。また、TDKでもフラットパネルディスプレイのバックライトをデジタル制御するインバータのデモを2005年のCEATECで行い、注目を集めました。
省エネは現代社会における重要課題。そのためのキーテクノロジーとして、デジタル制御はこれから大きく成長しようとしています。電源のアナログ制御とデジタル制御の違いは、たとえていえばテレビのアナログ放送とデジタル放送の違いのようなもの。画面で視る番組内容に変わりはなくても、データ放送や視聴者が参加できる双方向番組、ワンセグ放送などは、デジタル放送ならでは機能です。それと同様に、電源のデジタル制御は高効率化による省エネ効果ばかりでなく、デジタルならではのさまざまな可能性を秘めているのです。
地球にやさしい省エネ社会に向けて、エレクトロニクス社会のさらなる発展に向けて、パワーエレクトロニクスの役割はますます重要になっています。TDKおよびTDKラムダの電源技術の展開に今後もどうぞご期待ください。
*本シリーズは今回をもちまして、ひとまず終了させていただきます。ご高覧ありがとうございました。

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