パワーエレクトロニクス・ワールド

第6回 さらなる高効率化を目指す電源技術の最前線

リニア方式からスイッチング方式へとシフトしたことにより、電源は革命的な高効率化と小型・軽量化を実現しました。スイッチング方式の電源の進化は今なお続いています。パワーエレクトロニクスは損失(発熱ロス)との闘い。損失の低減によるさらなる高効率化を目指して、搭載部品や回路には、さまざまな技術と工夫が投入されています。

スイッチング電源の損失はどこで生まれるか?

電子機器の電源として使われるAC-DCスイッチング電源は、100Vの商用交流から直流を得るAC-DCフロントエンド(整流平滑回路)と、得られた直流を必要な電圧に変換するDC-DCコンバータ部(安定化回路を含む)からなります。リニア方式よりも格段に高効率とはいえ、 AC-DCスイッチング電源の効率は一般に80%前後にとどまっています。個々の回路部品の損失は、通常1%弱〜数%程度ですが、それらが集まりトータル効率は80%前後となるわけです。
一般的なAC-DCスイッチング電源を例にあげれば、損失が大きいのは半導体素子とトランスです。スイッチング方式は、100Vの交流をまずダイオード(ブリッジ整流器など)で整流します。ここで約2%の損失が発生し、整流後の平滑コンデンサでも0.5%程度の損失が発生します。
整流平滑して得られた直流は、スイッチング素子によってパルス化され、高周波トランスによって電圧変換されます。スイッチング素子としてはパワートランジスタよりも抵抗の小さなパワーMOSFETが使われるようになりましたが、大電流が流れるために、ここでも約2%の損失が発生します。
トランスも損失の大きな部品です。高周波のパルス電流がコイルに流れるたびに、コア内部では急激な磁束変化が起きます。トランスのコア材としてフェライトが使われるのは、鉄系のコア材は高周波領域では渦電流損失により発熱が大きくなって使用できないからです(電磁調理器で鉄鍋が発熱するのと同じ原理です)。しかし、フェライトは高周波損失が少ないとはいえ、2%程度のエネルギーがコアロスとして奪われるため、できるだけコアロスの小さなフェライト材が求められます。また、コアロスを小さくすることは高効率化とともに、トランスの小型・軽量化にもつながります。フェライトの特性は周波数や温度によっても変化するので、適切なフェライト材の開発も重要です。ここにも長年にわたり蓄積したTDKのフェライト技術が生かされています。DC-DCコンバータ部でも半導体素子や平滑コンデンサ、制御ICなどで損失が発生します。

DC-DCコンバータのイノベーション“同期整流方式”

電源の効率化というのは家計のやりくりにも似ていて、少しでも安いものを求めて出費を抑えるように、できるだけ高効率な部品や回路で損失を抑えます。しかし、“安かろう、悪かろう”では元も子もないので、性能や信頼性、コストなどとのバランスも考慮しながら電源は設計されます。近年、DC-DCコンバータにおいては効率95%近くのものまで開発されるようになりました。この革新的な高効率化をもたらした技術の1つが“同期整流”という回路方式です。その原理をバックコンバータ(ステップ・ダウン・コンバータ)を例に簡単にご説明いたします。
本シリーズ第3回でご紹介したように、バックコンバータではスイッチング素子がONのときチョークコイルにエネルギーを蓄え、スイッチング素子がOFFとなるとチョークコイルに蓄えたエネルギーを放出する方式です。このときダイオード(転流ダイオードという)によって、電流の流れは一方向に保たれます(下図)。ところが、ダイオードにはスイッチングのたびに大電流が流れるため、損失はかなり大きなものとなります。また、回路の高速化にともなう低電圧化にもダイオードでは対応できなくなってきたため、ダイオードにかわって低抵抗のパワーMOSFETが使われるようになりました。パワーMOSFETはスイッチング素子としての機能をもつので、2つのパワーMOSFETによるスイッチングを制御ICによって同期させるのが同期整流方式のバックコンバータです。
同期整流とは、たとえていえばT字路の交差点で、信号機なしに自動車をスムーズに通過させるような方式。2方向から自動車が合流すれば、渋滞や衝突事故が起きたりします。しかし、もし2方向からの自動車が必ず交互にタイミングよく進入するようにコントロールすれば、渋滞も衝突事故も防げます。それと似たような考え方で、2つのパワーMOSFETを交互にタイミングよくON/OFFするのが同期整流です。この回路方式により、DC-DCコンバータの効率は従来回路とくらべて大幅にアップ、ヒートシンクさえ不要になり小型化も推進しました。また、バッテリ使用時間の延長にも効果的なため、モバイル機器の小型・高効率DC-DCコンバータなどとして、さかんに採用されるようになっています。

損失もノイズも低減する“ソフトスイッチング”という設計思想

同期整流回路には“ソフトスイッチング”という考え方も導入されています。これは通常のスイッチング(ハードスイッチングという)では少なからぬ損失が発生するからです。スイッチングによる電圧波形や電流波形は方形波が崩れた台形状なので、ON/OFFの切り替え時に波形の一部が重なり合い、これがスイッチング損失となるのです。この重なり合いを減らそうというのが“ソフトスイッチング”。電圧や電流がゼロとなるタイミングを見計らってON/OFFする技術です。
2つのパワーMOSFETが同時にONにならないような“デッドタイム”を中間に設けて、同期させる方式も工夫されています。また、電圧波形と電流波形の位相(フェーズ)をうまくシフトしてずらせば、重なり合いによる損失を低減することもできます。これは“フェーズシフト”と呼ばれる技術です。ソフトスイッチングには、いくつも回路方式が考案されています。少ない部品点数で電圧や電流をタイミングよく制御するのが技術ポイントです。
前述したバックコンバータは非絶縁型のDC-DCコンバータの例ですが、トランスを用いた絶縁型のDC-DCコンバータでも同期整流方式は導入されています。図に示すのはフライバックコンバータにおける簡易な同期整流回路の例です。通常のフライバックコンバータと異なるのは、トランス2次側に補助巻線を設けてパワーMOSFET(Q2)に接続されているところです。トランス1次側のパワーMOSFET(Q1)のスイッチングがOFFとなると、トランスコアに蓄えられたエネルギーが放出され、補助巻線に電圧(誘導起電力)が発生して、パワーMOSFET(Q2)のゲートがドライブされるしくみです。同期整流回路が低コストで実現できるのが利点です。
めざましい高効率化を達成しているとはいえ、スイッチング方式の電源にもやっかいな短所があります。それはスイッチングによって発生する高周波のノイズです。電源のノイズ対策については次号でご紹介しますが、ソフトスイッチングはスイッチング損失ばかりでなくノイズの発生が少ないという利点ももちます。このため、最先端の電源技術として注目され、近年、急速な技術進歩を遂げています。

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