パワーエレクトロニクス・ワールド

カーエレクトロニクスにおける3Dホールセンサ・ソリューション

近年、カーエレクトロニクスの進展とともに、車載用センサの需要は急速に拡大しています。とりわけ、各種ペダルやバルブ、シフトレバーなどの位置検出を担うセンサの高精度化や小型化ニーズが増しています。さらにHEV/EVの市場拡大、燃費改善、排ガス削減などに向けては、低消費電力かつ2D/3Dの検出機能をもつポジションセンサが求められています。こうした先進の市場ニーズに応え、TDKミクロナスが新開発したのが、3DホールセンサHAL 39xyです。

フレミングの左手の法則とローレンツ力

電磁気学を学ぶ初歩で必ず登場するのが、有名な「フレミングの左手の法則」です。磁界の中で導体に電流を流すと、導体に力が加わります。イギリスの物理学者・電気工学者であるJ・フレミングが、ロンドン大学の教授をしていたころ、学生たちはしばしば間違って覚えるため、左手の指を利用して考案した記憶法です。親指、人差し指、中指をそれぞれ直角になるようにして、人差し指が磁界の向き、中指が電流の向きとすると、親指が力の方向となります。この力は電磁力と呼ばれ、モータを駆動させる原理となっています。

電流は電子の流れなので、電子が磁界中を移動する場合でも、同様の力が働きます。これはオランダの物理学者H・ローレンツの名にちなんで、ローレンツ力と呼ばれます。根本的に電磁力の同じものですが、電流はプラス(+)からマイナス(-)側に流れると定義されているので、負の電荷を電子の移動方向と電流方向は逆になるので注意が必要です。

ホールセンサの基本原理

ホールセンサは磁気センサの一種で、自動車や産業機器、家電機器、ICT機器など、さまざまな分野で多用されています。まずはホールセンサの原理について概説します。

導体(金属や半導体)に電流を流し、電流に垂直な方向に磁界を加えると、電流と磁界の双方に垂直な方向に電圧が誘起されます。これは1879年、米国の物理学者E・H・ホールが発見した現象で、ホール効果と呼ばれます。
当時はまだ電子の存在が確認されていませんでしたが、のちに磁界中で移動する電子には、ローレンツ力が作用して進行方向が曲げられるため、導体内部に電位勾配が発生して、それがホール電圧として観測されると説明されるようになりました。

ホールセンサの種類と特長

現在、実用化されているホールセンサは、半導体のホール効果を利用した磁気センサで、主なホール素子用の材料として、化合物半導体(InSb、GaAs、InAsなど)およびシリコンがあります。InSbは高感度ながら温度特性に劣り、GaAsは温度特性にすぐれるものの感度が低いというようにそれぞれ一長一短があります。また化合物半導体のホール素子は出力電圧が10から数100mV程度で、一般にアンプによって増幅して使用されます。この場合は、増幅回路などのICが必要になり2チップ構成となります。

これに対して、シリコンのホールセンサは、化合物半導体よりも感度は低いものの、LSIなどの半導体製造技術により、同じシリコンウエハにセンサ素子と増幅回路や信号処理回路、メモリなどを1チップにまとめて作り込めるのが大きなメリットとなっています。小型で信頼性や価格面などに優れ、また感度やオフセットの調整や温度特性の補償が可能で使いやすいため、各種ホールICとして多用されています。

TDKミクロナスのホールセンサの種類

ドイツ南西部のフライブルクを本拠地とするTDKミクロナスは、LSI製造プロセスの主流となっているCMOSテクノロジーを活用したホールセンサのパイオニアです。累積出荷個数は40億個以上にものぼり、車載用センサを中心に、世界各地のカーエレクトロニクスメーカーに製品を提供し、高い評価を獲得しています。TDKがミクロナスブランドで提供しているホールセンサには、次のような種類があります。

●ホールスイッチ
ホールセンサは一般に磁石と組み合わせて使用されます。磁石が近づくと、センサは磁界を検出して、ある閾(しきい)値を基準にハイ/ローを切り替えて出力するのがホールスイッチです。スイッチング動作の違いにより、ユニポーラ型(単極検出)、バイポーラ型(両極検出)、ラッチング型(磁極変化の検出)などがあります。
【主な用途】開閉スイッチ、ブラシレスDCモータの転流用、回転位置の検出用など。

●1Dホールセンサ
90°または180°までの回転角度の検出やストロークの検出、また電流測定に用いられます。
【主な用途】自動車の各種ペダルの回転角度検出用、ステアリング・トルク検出用など。

●2D/3Dホールセンサ
1Dホールセンサが磁気密度をスカラー量として計測するのに対して、磁束の密度および方向をベクトル量として検出し、センサ内部で信号処理することにより、高精度の角度情報や位置情報を出力するのが2Dホールセンサおよび3Dホールセンサです。360°の回転角度の検出やストロークの検出に用いられます。

【主な用途】自動車の各種ペダルの回転角度やストローク位置検出用、シフトレバーの位置検出用など。

ホールセンサはさまざまなタイプがあり、目的に応じて適材適所で活用されています。
本記事では、TDKミクロナス独自の3D-HALⓇテクノロジーにより新開発し、HALⓇの商標で販売している、3Dホールセンサの新製品であるHAL 39xyの概要と、車載センサとしてのアプリケーションを中心に解説します。

自動車用2D/3Dポジションセンサの需要が拡大

自動車のさらなる安全・省エネ・快適走行に向け、ISO26262(機能安全)などに対応するとともに、優れた機能性と柔軟性を備えた2D/3Dポジションセンサの需要が拡大しています。こうした市場ニーズに応え、TDKミクロナスが新開発したのが、3DホールセンサHAL 39xyです。

ホールセンサは基本的にチップ面に垂直な磁界(Z軸)を検出します。磁束の密度と向きを3次元で計測する3Dポジションセンサを実現するには、チップ面に平行な磁界(X軸、Y軸)を検出する工夫が必要です。TDKミクロナスは、複数のホール素子で構成されるホールプレートアレイにより、X軸・Y軸・Z軸の3軸(3D)の磁界を計測できるようにしています。

また、3Dの磁界計測とともに、ホール素子の組み合わせを選択することで、ストローク位置検出や360°回転角度検出など、4つの計測が可能です。1つのデバイスで、4つの計測を優れた精度で実現できるのは、設計者にとって大きなメリットとなります。

パワートレイン系やボディ系、シャーシ系においては、各種ペダルやバルブ、シフトレバーなどの位置検出を担うセンサの高精度化や小型化ニーズが増しています。さらにHEV/EVの市場拡大、燃費改善、排ガス削減、省スペース化などに向けては、ISO26262(機能安全)などに対応するとともに、優れた機能性と柔軟性を備え、低消費電力かつ2D/3Dの検出機能をもつポジションセンサが求められています。そこで、ホールセンサの世界的な専業メーカーであるTDKミクロナスが新開発したのが、3DホールセンサHAL 39xyです。

X-By-Wire(エックス・バイ・ワイヤ)に最適

近年、自動車の制御システムは、従来の機械式から電子制御に置き換える“バイ・ワイヤ”方式(シフト・バイ・ワイヤ、ブレーキ・バイ・ワイヤ、ステア・バイ・ワイヤなど)の導入が進行しています。たとえば、スロットル・バイ・ワイヤは、アクセルペダルの踏み込み位置をポジションセンサが検出し、ECUがアクチュエータに電気信号を送ってスロットルバルブの開閉を制御します。

また、シフト・バイ・ワイヤは、シフトレバーの位置をポジションセンサで検出し、電気信号で伝達してトランスミッションシステムをコントロールさせるシステムです。シフト・バイ・ワイヤの採用は、シフトレバーに連結した機械的部品を不要にするとともに、シフトレバーそのものもジョイスティックのように小型のものですむようになります。
ただし、シフトレバーが小型化すると、操作角も小さくなるため、より高精度なポジションセンサが求められます。TDKミクロナスの3DホールセンサHAL 39xyは、シフトレバーの小さな操作角による変位も高精度で計測することが可能です。

外乱磁界補正機能を搭載

3DホールセンサHAL 39xyは、3Dの磁界計測に加えて、外乱磁界の補正機能を搭載したことも大きな特長となっています。
電子化が進んでいる自動車では、車載電装機器からさまざまな磁界が発生します。とりわけHEVやEVにおいては、駆動モータに大電流が流れるため、ワイヤから発生する磁界が、ホールセンサ用の磁石の磁界に干渉しやすい環境にあります。
自動車の安全走行のために、こうした外乱磁界の影響を抑えることがホールセンサに求められます。従来は、磁気シールドや強力な磁石を用いたり、1Dホールセンサから2Dホールセンサに切り替えることで対応してきましたが、3DホールセンサHAL 39xyでは、ホールセンサそのものに外乱磁界を補正する機能を搭載させることで、この技術課題をクリアしました。これによって、磁気シールドの部材も不要となるうえ、使用する磁石も安価なものですむなど、コスト面でも大きなメリットをもたらします。
TDKミクロナスでは、3DホールセンサHAL 39xyに様々なデジタル出力インタフェースを備えた製品ラインアップの拡充を図るとともに、冗長性を備えたデュアルダイ・タイプやコンデンサ内蔵タイプなどの開発も進めています。

《3Dホール・ポジションセンサHAL 39xyの主な特長》

●外乱磁界補正を備えたプログラム可能な3Dホールセンサ
●内蔵した複数のホール素子の組み合わせをレジスタで選択することで、以下の4つの計測が可能
・外乱磁界補正を施した直線位置検出
・外乱磁界補正を施した360°回転角度検出
・磁場振幅勾配を含む外乱磁界補正を施した180°角度検出
・X軸、Y軸、Z軸を使用した3D磁界計測

TDKは磁性技術で世界をリードする
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