テクノロジーの進化:過去・現在・未来をつなぐ
5G: 接続を変革する技術
5G ネットワークとは何か?
5Gとは、第5世代のモバイル通信技術であり、4G LTEネットワークの後継技術です。5Gは、従来の世代と比較してはるかに高速なダウンロード速度、高い接続密度、そして極めて低い遅延(ローレイテンシー)を実現します。
5G の公式規格は、3GPP (3rd Generation Partnership Project=第三世代パートナーシッププロジェクト)によって確立され、2018 年に最初の5G仕様が完成しました。4Gが新しいセルタワーの建設を必要としたのに対し、5G は既存のインフラを利用し、新たにミリ波(mmWave) を含む新しい周波数帯で動作します。
では、5G は実際に何を意味するのでしょうか? 5Gは膨大なデータトラフィックを高速に処理できるため、自動運転車やIoTデバイス、4K/8Kビデオストリーミング、AR/VRアプリなど、さまざまな先進技術を可能にします。
4Gと5Gの違い
4Gと5Gの違いは、主に通信速度、遅延性、同時接続可能なデバイス数です。これらの違いは、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与えます。
● 通信速度
5Gは4Gに比べて高速です。具体的には、5Gの下り最大速度は20Gbpsに達することができ、これは4Gの最大速度である1Gbpsの約20倍です。このため、例えば2時間の映画を5Gでは数秒でダウンロードできるようになります。この高速通信は、ストリーミングサービスやオンラインゲームなど、大容量データを扱うアプリケーションにおいて特に重要です。
● 低遅延
5Gは遅延が非常に短くなり、1ミリ秒以下になると期待されています。これに対し、4Gでは100ミリ秒程度の遅延です。この低遅延は、自動運転車や遠隔医療など、リアルタイムでの反応が求められる分野で重要になります。例えば、自動運転車では周囲の状況を即座に把握し、迅速な判断を下す必要がありますが、5Gであればこれが可能になります。
● 同時接続可能なデバイス数
5Gでは1平方キロメートルあたり約100万台のデバイスを同時に接続できるのに対し、4Gではその数は約10万台です。このため、IoT(モノのインターネット)技術が進化し、多数のセンサーやデバイスがネットワークに接続されることで、新たなサービスやビジネスモデルが生まれることが期待されています。
● SA(StandAlone)とNSA(Non-StandAlone)の違い
SA(スタンドアローン)とNSA(ノン・スタンドアローン)は、5Gネットワークの構成方式を示す用語で、それぞれ異なる技術的特性と運用戦略を持っています。SAは5G専用のコアネットワークと基地局を使用し、完全に独立した5Gネットワークを構築します。これにより、高速通信、低遅延、多数同時接続などの5Gの全機能を最大限に活かすことができます。また、ネットワークスライシング技術を利用することで、異なるサービス要求に応じた仮想的なネットワーク分割が可能です。
一方、NSAは既存の4G LTEインフラを利用し、4Gのコアネットワークと5Gの基地局を組み合わせたハイブリッド構成です。この方式は迅速な導入が可能で、既存のインフラを活用しながら5Gサービスを提供しますが、低遅延性や多接続性能ではSA方式に劣ります。
SAは新しいインフラ投資が必要で導入には時間がかかりますが、5Gの真価を発揮するためにはかかせません。NSAはコスト効率が良く迅速な展開が可能で、多くの通信事業者が初期段階でこの方式を採用しています。将来的には、多くの通信事業者がNSAからSAへ移行していくことが予想され、新たなビジネスモデルやサービスが生まれることが期待されています。
5Gの仕組み
5Gは、超高速な速度と低遅延の接続を実現するために、さまざまな無線スペクトル帯域と技術を使用しています。
● サブ6GHzとミリ波:5Gで使用される無線周波数には、サブ6GHz (6 GHz 未満) とミリ波(24-40GHz)があります。サブ6GHzは広範囲なカバレッジを提供し、ミリ波は超高速な速度を実現するための巨大な帯域幅を提供します。
● 高度なアンテナシステム:5Gは、複数のアンテナを通じて同時接続を可能にするMIMO(Multiple Input, Multiple Output= 多入力多出力)アンテナ技術を利用しています。これにより、容量と密度が向上します。
● スモールセルネットワーク:5Gは、電柱や屋上に設置できるコンパクトな基地局であるスモールセルネットワークを広く活用しています。これにより、局所的な容量の増加が実現します。
● 直交周波数分割多元アクセス (OFDMA):この変調技術により、スペクトラムを効率的に使用できるため、複数のユーザーが同時にネットワークにアクセスできます。
● ネットワークスライシング:モバイル事業者は共通の物理インフラ上で、複数の仮想ネットワークを作成し、特定のアプリケーションやクライアントに合わせて調整することができます。
● エッジコンピューティング:ユーザーの近くに小規模なデータセンターを設置して、データをその場で処理することで、レイテンシーを低減します。これは 5G の高速性を最大限に活かす技術です。
5Gの発明者
5G 技術の開発は、世界中の通信会社、学術機関、および技術標準化組織間の広範な協力によって推進されてきました。 「誰が5Gを発明したか」という問いに対する答えは、「一つの組織ではなく、多くの組織や個人の貢献によって5Gが誕生した」ということです。Ericsson、Nokia、Qualcomm、Samsung、Huawei、ZTE などの企業は、それぞれが5Gネットワークの重要なコンポーネントを開発・改良し、5G技術の開発に大きく貢献してきました。3GPPやITUなどの国際機関は、5G標準の策定において重要な役割を果たしてきました。
TDK では、5Gスモールセル基地局向けの超小型DC-DCコンバータや LTCC AiPデバイスなどの先進材料とコンポーネントの開発に注力しています。これらのイノベーションは、5G ネットワークの速度と接続性を向上させるために不可欠です。TDKは、「Beyond 5G」などのイニシアチブを通じて、5G技術の可能性を拡大し、その将来の発展に貢献することを目指しています。
5Gの高速性
5Gは、これまでのモバイルネットワーク技術から大きく飛躍しています。各世代は、順次高速化され、より大きな機能を提供してきました。5Gの優位性を理解するために、その進化を振り返ってみましょう。
● 1Gネットワーク:1980年代に導入された1Gネットワークは、主に音声通話を目的としたアナログシステムです。暗号化がなく、セキュリティは脆弱で、アップロード速度は事実上存在しませんでした。
● 2Gネットワーク:90年代に導入された2Gネットワークは、信号をデジタル化してセキュリティとテキストメッセージなどのデータサービスを向上させた最初のネットワークです。しかし、最大速度はわずか64kbpsで、3分間の曲をダウンロードするのに、20分以上かかることもありました!
● 3Gネットワーク:2000年代に導入された3Gは、モバイルインターネットを主流にしました。しかし、アクセス速度は、今日の基準ではまだかなり低速で、384kbpsから2Mbpsの範囲で、ビデオや音楽のストリーミングは現実的ではありません。
● 4G LTEネットワーク:2010年に初めて導入された4G LTEは、高度なアプリ、HDビデオストリーミング、大容量ファイルのダウンロードに対応する最初のネットワークです。理論上のピーク速度は100Mbps に達しましたが、実際には多くの場合、これよりもはるかに低速でした。
5Gの登場により、私たちは新しい時代に入りました。5Gは4Gよりどれほど速いのでしょうか? 5G は、はるかに多くのデータを伝送できる新しい無線周波数帯域で動作します。より短い伝送バーストを使用して、レイテンシーをわずか数ミリ秒に短縮できるので、スマートデバイスのリアルタイム通信が可能になります。
5GはLTEよりも明らかに優れています。5Gネットワークのメリットは、大幅に増加したデータ速度と低減されたレイテンシー、強化されたネットワーク信頼性と容量の向上など、幅広くあります。これは、医療、製造、輸送などの分野で革新的な進歩をもたらします。
また、5Gは4Gよりも確実に優れています。 5Gは、あらゆる指標において、4Gネットワークに対して10から100倍の改善をもたらし、根本的な進化を遂げています。
5Gネットワークの機能は、これまでの世代では実現できなかったシームレスな接続と、リアルタイムの自動化の世界を可能にします。5Gがなぜ重要なのかを考えると、次なる技術革新の波で5Gが果たす重要な役割が見えてきます。5Gは単に通信速度を高速化するだけでなく、リアルタイムのデータ処理や数十億ものデバイスの接続を可能にし、スマートシティや自律型テクノロジーといった新たな可能性を引き出します。過去の通信技術は人々を結びつけたのに対し、5Gは世界を結びつけるでしょう。
今後、5G によって築かれた基盤が6Gなどの未来の発展への道を切り開き、これらの機能と可能性をさらに拡大していくでしょう。
日本における5Gの普及状況
日本における5Gの普及状況は、急速に進展しています。2020年3月に商用サービスが開始されて以来、5Gネットワークの整備が進められ、2023年8月時点での全国の5G人口カバー率は96.6%に達しました。この数値は、政府が掲げた「デジタル田園都市国家インフラ計画」の目標を1年前倒しで達成したことを示しています。
5Gの普及は特に都市部で顕著であり、東京や大阪などの大都市圏では高いカバー率を維持しています。一方で、地方でもカバー率が向上しており、特に岩手県や島根県、高知県などでは約10%の増加が見られました(2022年度における前年比較)。これにより、全都道府県で80%以上の人口カバー率が確保されています。
日本政府は、5Gの基盤を強化するための施策を進めており、2024年度には小型無人機(ドローン)の5Gネットワーク利用を許可するなど、新たな技術の応用を推進しています。しかし、5Gの通信品質には課題も残っており、特にミリ波帯の利用が進んでいないため、超高速通信や低遅延通信の実現にはさらなる努力が必要です。
総じて、日本の5G普及状況は順調に進んでいるものの、通信品質やミリ波帯の活用といった課題も抱えている状況です。今後はこれらの課題を克服しつつ、更なる普及と利活用が期待されます。
5Gがもたらす未来:さまざまな分野への影響を探る
超高速の速度、低遅延、膨大なデバイスの接続をサポートする能力を備えた5Gは、ビジネス、政府、日常生活の多くの分野で高度な新しいアプリケーションを可能にします。
● ビジネスの世界では、5Gがスマートオフィス、リモートコラボレーション、ARを活用した作業員、リアルタイム分析の可能性を広げます。5Gのビジネス活用例には、コネクテッドロジスティクス、ロボティクス、機械や車両のリモートコントロールが含まれます。小売業、医療、金融などほとんどの業界が恩恵を受けるでしょう。
● 政府と自治体にとって、5Gは世界を変える技術でしょう。5Gはスマートグリッドからインテリジェントな交通システム、IoTセンサーによる環境モニタリングまで、スマートインフラの大規模な導入をサポートします。5Gの消費者向けの活用例には、家庭向けの超高速モバイルブロードバンド、より良いコミュニティサービス、新しい消費者向けアプリケーションといったものがあります。
● ヘルスケア分野では、5G は、遠隔患者モニタリング、オンライン診療、遠隔手術を可能にします。医師はリアルタイムで医療記録にアクセスしたり更新したりすることができます。ウェアラブルデバイスは、5Gを介して継続的に健康データをアップロードします。
● 製造業では、自動化、追跡、品質管理、およびグローバルサプライチェーン全体での調整に5Gを使用します。センサーは機器とインフラストラクチャを24時間365日監視し、生産性を最適化するのに役立ちます。
● 5Gは、小売、教育、デザイン、エンターテインメントなど、さまざまな分野に、非常に没入感のある拡張現実(AR)や仮想現実(VR)体験をもたらします。インタラクティブなARショッピング、バーチャルツアー、3D製品ビューが主流になるでしょう。
● 自動運転の技術は、ナビゲーション、障害物の検出、ルートの計画、他の車両との通信において、5G通信に大きく依存しています。5Gの導入により、自動運転車が実用的なものになるでしょう。
消費者は『5Gは自分にどのような影響を与えるのだろうか?』と疑問に思うでしょう。ほぼ瞬時のダウンロードが可能になり、どこでも8Kビデオをストリーミングでき、反応速度の高いオンラインゲームも楽しめるようになります。ARアプリによって、新たな方法での買い物や学習、探索が可能になります。ただし、セルタワーなどのインフラの増設の必要性、ネットワークのセキュリティ問題、5G対応デバイスの価格上昇など、潜在的な欠点があることも認識しておくことが重要です。さらに、5Gが世界中で完全に利用可能になるまでには時間がかかる可能性があり、初期段階では地域間の利用状況に格差が生じるかもしれません。
5Gは、ほぼすべての業界に影響を与え、私たちの生活、仕事、買い物、娯楽のあり方を変える革新的なテクノロジーです。スマートシティ、工場や職場での自動化、自動運転車、遠隔医療、そして私たちがまだ想像もできない無限のアプリケーションを可能にします。5Gは、まさに接続性における次の大きな飛躍を象徴しているのです。
結論
5G ネットワークの発展は、無線技術の大きな飛躍を表しています。超高速な速度、低遅延、そして何百万ものデバイスをサポートする能力を備えた5Gは新たな接続の時代を切り開くでしょう。この革命的な技術は、自動運転車、スマートシティ、遠隔医療、そして私たちがまだ想像もできないテクノロジーの新たなイノベーションの基盤となります。過去の世代は人々を結びつけたのに対し、5Gは世界を結びつけるでしょう。5Gの無限の可能性を受け入れ、共に努力することで、より効率的で力強く、自動化された未来を築くことができます。この新たなハイパーコネクテッド時代の先端に立つ我々の可能性は無限です。
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