じしゃく忍法帳

第117回「磁気治療器と磁石」の巻

強力磁石の磁界が血液をマッサージ

地磁気を利用したファラデーの実験

 コイルの中に棒磁石をすばやく抜き差しすると、コイルに電流が流れます。1831年、イギリスのファラデーが発見した電磁誘導現象です。ファラデーは磁石の磁界の中で回転する金属板には、定常的な電流が流れることも確認しました。これが世界初の発電機(手回し式ダイナモ)です。

 地球は巨大な1つの磁石となっていて、身の回りのものはすべて地磁気の磁束に貫かれています。であるならば地磁気による電磁誘導現象も起こるはずとファラデーは考えました。そこでループ状の導線を地磁気に対してすばやく動かしてみたところ、導線にはわずかながら電流が流れることが確かめられました。これは地磁気発電と呼ばれ、今日でも理科実験として行われています。

 偉大な実験家であったファラデーは、地磁気による電磁誘導を利用して、テームズ河の流量を測定するという破天荒な実験も行っています。磁界中で運動する導電性流体には、電磁誘導により磁界方向と流体の運動方向の双方に垂直な方向に起電力が発生して誘導電流が流れます。これをわかりやすくしたのがフレミングの右手の法則です(親指を運動方向、人差し指を磁束の方向とすると、中指が起電力=誘導電流の方向)。

 おそらくファラデーは、テームズ河がロンドン市街をほぼ西から東へ流れていることに着目したのでしょう。南北方向の地磁気の磁束とほぼ直交することになるので、実験にはつごうがよかったのです。そこでファラデーは導線につないだ銅板をテームズ河に沈め、水流によって発生する誘導電流を計測してみました。残念ながらノイズが大きくて実験は不成功に終わりましたが、のちにこの考え方は電磁流量計として実現されました。

イラスト

 

現代人の磁気欠乏症候群とは?

 導電性流体の流れるパイプ(非磁性体)をコイルではさみ、コイルから磁界を加えると、導電性流体および磁界の双方に対して垂直な方向に起電力が発生して誘導電流が流れます(フレミングの右手の法則)。この起電力は流体の流速に比例するので、誘導電流を測定することで流量が計算できます。これが電磁流量計の原理です。

 人体もまた地磁気の磁束によって貫かれており、導電性流体である血液には、電磁誘導による作用が起きていると考えられます。たとえば磁気あらしなどによる地磁気変化は、人体の生理機能にも影響を与えることが報告されています。また、地球の地磁気は過去400万年の間に10回ほど逆転していて、化石などから地磁気の逆転期には生物種が大量に消滅していることも明らかにされています。

 現在は地磁気の減少期です。19世紀以降、地磁気は約1割も弱まっており、このままの割合で推移すると1000〜2000年後には地磁気はゼロになるともいわれます。ただし、これは地球温暖化よりはるかにゆっくりとした変化なので、それほど心配するには及びません。地磁気逆転が起きるとしても遠い将来の話です。また、スーパーコンピュータを用いた最近の研究では、現在の地磁気減少は一時的なもので、いずれ増加に転じるとも報告されています。

 しかし、現代人にとって無視できないのは、身の回りの鉄構物による地磁気の減少です。鉄のような強磁性体はスポンジが水を吸い込むように、磁束をよく吸収します。鉄筋・鉄骨コンクリートのビルや集合住宅などで生活する時間が長くなっている現代人は、大量の鉄に地磁気が吸収され、慢性的な“磁気欠乏症候群”に陥っているというのです。
 

導電性流体と磁界の作用

図1 導電性流体と磁界の作用

強力な希土類磁石を利用した磁気ネックレス

 磁気を完全に遮断した空間に人体を一時的に置いても、目立った異変は現れません。人体には健康バランスを保つ機能があるからです。しかし、長年にわたって磁気が欠乏した環境で暮らすうちに、人体はじわじわとバランスを失い、知らず知らずに不健康な状態に陥っているのかもしれません。肩こりや腰痛といった現代人に多い症状も、慢性的な磁気欠乏が原因の1つとなっているとも考えられるのです。

 そこで人為的に磁界を加えることで、慢性的な磁気欠乏を補い、肩こりや腰痛などをやわらげようという考え方から生まれたのが磁気治療器です。

 磁気治療器は変動磁界を利用するものと、定常磁界(静磁界)を利用するものとに大別されます。変動磁界とは時間的に強さが変化する磁界のことです。永久磁石を何らかの方法で回転させるなどにより、回転磁界や交番磁界をつくりだせますが、一般には電磁石に交流電流を流すことで得られる交流磁界が利用されます。50/60ヘルツの交流周波数の変動磁界により、肩こりや腰痛などをやわらげる治療器は、交流磁気治療器とか交番磁気治療器、電気磁気治療器などと呼ばれます。患部にあてがうタイプのほか、ベッドに組み込んだタイプもあります。

 一方、磁気ネックレスや磁気ブレスレット、磁気ベルトといった磁気治療器は、永久磁石の定常磁界(静磁界)を利用する磁気治療器です。小さくても強い磁気パワーをもつ希土類磁石の開発により、デザイン性にもすぐれ、アクセサリ感覚で広く利用されるようになりました。
 

ストレス社会にうってつけの磁気治療器

 磁気ネックレスや磁気ブレスレット、磁気ベルトなどは、“おまじない”や“気休め”のようなものと考えている人もいます。しかし、医学的に確かな効果が認められ、薬事法によって家庭用永久磁石磁気治療器として登録されている医療器具です。

 磁気治療器の作用メカニズムは、およそ次のように説明されています。血液中の電解質成分はイオン(荷電粒子)の流れであり、電流と同じものとみなせます。ここに永久磁石の磁界を加えると、荷電粒子には電磁力が作用して(フレミングの左手の法則)、正負のイオンは互いに反対方向に移動します。この正負の荷電粒子の偏りにより、血液中に起電力が発生して電流が流れ、この電流は電解質の解離を促進し、血液中のイオンを増加させます。血液中のイオンの増加は神経系統に作用することがわかっており、その結果、肩こりや腰痛などがやわらぐと説明されています。

 磁気治療器の作用メカニズムは自律神経ともからんでいるため、きわめて複雑で十分には解明されていません。しかし、磁石の磁界と血流との電磁誘導が関係していることはほぼ確かなようです。永久磁石から出るのは定常磁場ですが、アクセサリのように身につけることで、人の動きとともに磁石も動いて、実際は変動磁場として作用します。いわば永久磁石の磁界の動きも加わって、血液はほどよくマッサージされるわけです。

 健康は一朝一夕に獲得できるものではなく、日々の積み重ねが大事です。健康法と呼ばれるものは数え切れないほどありますが、長続きのしない健康法は効果的ではありません。永久磁石を利用した磁気治療器は、交流磁気治療器のように電気エネルギーを供給する必要もなく、アクセサリ感覚で身につけるだけで健康を維持・増進できるのがメリット。時間に追われながらさまざまなストレスに悩まされる現代人にとって、まさにうってつけの健康法です。
 

磁気治療器(永久磁石式)の効果の説明

図2 磁気治療器(永久磁石式)の効果の説明

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