じしゃく忍法帳

第115回「手動発電機と磁石」の巻

理科実験や手づくり発電機にも利用できる手動式ダイナモ

環境にもやさしい便利グッズ

 遭難した登山者が携帯電話で救助を求めてくるケースが増えているそうです。携帯電話に利用されているマイクロ波は周波数が高くて直進性が強いため、谷あいや山かげでは通話が途切れたりしますが、見晴らしのよい山頂や尾根などでは、電波がかろうじて届いて通話できる場合があるのです。独立峰である富士山では周囲にさえぎるものがないため、かなりの高度まで電波が届きます。また、夏の登山シーズンにおいては富士山頂に臨時アンテナが立てられるので、日本一の高所と地上との通話も可能です。キャンプやハイキングなどのアウトドアばかりでなく、高山や冬山登山にも携帯電話は必携品のようです。

 とはいえバッテリが切れてしまっては、携帯電話も使いようがありません。そんなとき、とても便利なのが手動式ダイナモ(発電機)。手でグルグルとハンドルを回して発電し携帯電話などを充電する便利グッズです。

 AM/FMラジオや白色LEDライトなどとセットになっている手動式ダイナモは、家庭でも常備しておくと地震などの災害時に役立ちます。災害用の非常持ち出し袋に、懐中電灯やラジオは必需品ですが、いざというときに乾電池が消耗していたら大変です。しかし、手動式ダイナモなら乾電池交換の心配がいりません。2〜3分グルグルと回すだけで1時間ほどの連続点灯が可能です。

 また、従来の懐中電灯は使用済み乾電池がゴミとして廃棄されますが、手動式ダイナモは充電池を利用するため、省資源・環境保全の面からもすぐれています。

 
イラスト


白色LEDの量産化により懐中電灯も世代交代

 手動式ダイナモはいったいどのような仕組みで発電しているのでしょうか? いろんなタイプがありますが、最もオーソドックスな手回しタイプの1例を図1に示します。複数の歯車が連動したメカニズムとなっているのは、歯車によって増速して発電効率を高めるのが目的です。このため1秒間で2回転ほどの比較的ゆっくりした手回しでも、無理なく発電できるようになっています。

 ダイナモは連動歯車の最終段に置かれ、ここで発電された交流電流を整流回路で直流に変換して充電池に送り、蓄えられた電気エネルギーによってLEDを点灯したりラジオを受信したりします。充電池としてはニッケル水素電池などが使われています。

 LEDは発光ダイオードと呼ばれるように、n型半導体とp型半導体の間に発光層をはさんだサンドイッチ構造のダイオードです。電極から電流を流すと、n型半導体からマイナスの電荷をもつ電子が、p型半導体からはプラスの電荷をもつ正孔が移動し、発光層において再結合します。このときに発生するエネルギーが発光材料を励起させて光を放出します。

 LEDの光色は発光材料の種類によって決まります。青色LEDに続いて、白色LEDも開発され、安価に量産できるようになったため、身近な懐中電灯などにも利用されるようになりました。フィラメントを用いる豆電球とくらべて、低消費電力かつ長寿命なのも特長です。登山用品のヘッドライトも豆電球にかわって、LEDが主流になりつつあります。LEDは低消費電力なので小さな単4乾電池ですみ軽量化も図れます。近年、スマートなデザインのヘッドライトが登場したのも白色LEDに量産化によるものです。

手動式ダイナモを利用したLEDライトの内部構造例

図1 手動式ダイナモを利用したLEDライトの内部構造例

アウターロータ型の薄型ダイナモ

 発電機に電流を流せばモータとなり、モータを外力で回転させれば発電機となるように、発電機はモータと基本的に同じ構造になっています。中学校で学習するように、コイルに向かって磁石を出し入れすると、コイルに起電力が発生して電流が流れます。これはファラデーが発見した有名な電磁誘導現象です。

 手動式ダイナモに利用されているのは、アウターロータ型モータとほぼ同じ構造の薄い円盤のようなダイナモです。アウターロータ型モータでは、放射状に配置されたコイルの周囲をカップ状のマグネットロータが回転します。手動式ダイナモではハンドルの回転を歯車によって増速して、このマグネットロータを高速回転させ、コイルに起電力を生み出して発電します。

 磁石はカップ状ロータの内周にN極・S極が交互になるように貼り付けられています。インナーロータ型では遠心力によって磁石が飛散しないようにする工夫が必要です。多極着磁した一体型のフェライト磁石なら飛散の心配はありませんが、マグネットロータはずんぐりした形になって薄型化は困難です。一方、アウターロータ型では、磁石は回転するカップ状ロータの内周に貼り付けられているため、飛散するようなことがなく、また多極化や薄型化に有利なのです。

 図2に示すのは、手動式LEDライトに使われているアウターロータ型ダイナモの内部構造の1例です。コイルの巻かれたポールピースは9極、それらを取り巻くカップ状ロータに取り付けられた磁石は12極となっています。
 

アウターロータ型ダイナモと振るタイプのダイナモ


図2 アウターロータ型ダイナモと振るタイプのダイナモ

電磁誘導の原理が一目瞭然の振るタイプのダイナモ

 手動式ダイナモのLEDライトには、手回し式のほか握力計のようなグリップ式のものがあります。これは握力で歯車を回転させ、これをマグネットロータに伝える方式です。マグネットロータにははずみ車の機能ももたせてあるので、握るとしばらく回転が維持されます。

 このほか振るだけで発電できるLEDライトというのも市販されています。透明プラスチックの筒状のケースの中に、コイルと可動式の磁石が置かれていて、振ると磁石がコイルの中を往復して発電するという方式です。電磁誘導の原理が一目瞭然のダイナモです。

 手動式ダイナモやそれを利用したLEDライトは、ホームセンターや通販などで容易に入手でき、価格もそれほど高いものではありません。ドライバー1本で簡単に分解できるので、原理や内部構造を調べるのにもうってつけです。手作りの風車や水車などと連動させれば、簡単なミニ風力発電装置も可能です。家庭工作としてチャレンジしてみてはいかかでしょうか?

 ただし、手動式ダイナモといえど、発電にはある程度大きな風車が必要になります。風車の羽の回転などで怪我などしないように十分注意してください。歯車を利用して増速すればゆっくりとした回転でも発電は可能です。近くに小川などあればミニ水力発電の実験も面白いでしょう。

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