じしゃく忍法帳

第112回「地下資源と電磁気」の巻

温泉掘削にも利用されるハイテク探査

世界最古の地震計

 忍法のルーツは中国。『史記』や『三国志』などの史書には、忍者らしき間諜の暗躍がたくさん記されています。古代中国の神話でも、黄帝(こうてい)と豈尤(しゆう)が、タクロクの戦で、忍法合戦のようなものを繰り広げています。

 山国である日本と違って、広大な中国大陸では、進軍のようすが遠くの敵方に丸見えとなります。豈尤は霧を巻き起こして自軍の姿をくらます作戦をとったため、黄帝軍は目標を見失って進むべき方向を見失い、劣勢に立たされました。この豈尤の“霧隠れの術”に対して、黄帝が造ったというのが指南車(しなんしゃ)。いつも南の方角を指し示す装置で、これによって黄帝軍は豈尤軍を打ち破ったと伝えられます。

 この指南車とは方位磁石である“司南之杓(しなんのしゃく)”ではなく、機械的なナビゲーション装置と考えられています。のちに後漢の発明家・張衡(ちょうこう)は、実際に記里鼓車(きりこしゃ)という歯車仕掛けの指南車を作成したと伝えられています。

 張衡は「候風地動儀(こうふうちどうぎ)」という世界最古の地震計の発明でも知られています。この装置はなかなかユーモラスな装置です。青銅製の器の周囲の8方向に、口に玉をくわえた龍が取り付けられ、それぞれの龍の下にはヒキガエルの置物が口をあけて待ちかまえています。地震が起きると器の中の柱が倒れて震源地方向のレバーが押され、龍の口から玉が落ちてヒキガエルの口の中に収まるという仕組みです。アイデアだけでなく実際に製作され、隋・唐の時代まで地震観測に使われていたそうです。

 

世界最古の地震計

ネムノキは地震を予知する?

 地震発生に伴う地殻変動により、井戸水が濁ったり、水位が変化したりすることがよくあります。地震は火山活動と深い関係にあり、周期的に温水を噴出する間欠泉にも影響を与えます。熱海の大湯間欠泉は古くから観光名所として知られていましたが、関東大震災(1923年)の前日に著しく活発化したあと、地震後はしだいに衰えて、ついには噴出しなくなりました(現在の大湯間欠泉は人工的に再現したもの)。

 地震雲と呼ばれる異様な雲が現れたり、動物の異常行動が見られたりなど、地震にはさまざまな前兆現象が知られています。地震は地中から電磁波を発生させます。これは地中で大規模な岩盤が崩壊すると、透過していた磁束の変化が起きて誘導電流が流れるからとも説明されています。

 動物ばかりでなく植物と地震の関係も調べられています。有名なのはネムノキを対象とした研究です。

 指先で触れると葉を閉じてうなだれてしまうオジギソウという植物があります。ネムノキはこのオジギソウと同じマメ科植物で、ネムノキという名前も夜になるとまるで眠るかのように葉を閉じることに由来します。オジギソウもネムノキも環境変化にも非常に敏感な植物と考えられるので、地震を予知するのではないかと白羽の矢が立てられたのです。

 実際、ネムノキの幹の表皮に電極を刺し、地面との間の電位差を調べてみたところ、地震発生と相関があると考えられるデータが得られています。これは植物生体電位観測と呼ばれます。電位変化のメカニズムは詳しく解明されていませんが、地震発生にともなう地電流の変化を反映したものではないかと考えられています。
 

 

地電流の変化や電磁波発生の仕組み

図1 地震による地電流の変化や電磁波発生の仕組み

電気抵抗の違いから地中のようすを知る電気探査

 地電流というのは大地にたえず流れている電流のことです。19世紀に電信が生まれたとき、2本の信号線の1本をアースとすることで、信号線は1本ですむことが発見されました。現在でも感電事故を防ぐために電気機器にアースがとられるように、大地というのは電気を流しやすいのです。

 とはいえ、地電流はきわめて微弱なので電流計で直接測定することはできず、通常、離れた2地点の電位差を計測する方法がとられます。これはつまり大地の電位は一定ではなく、場所のちがいにより、アース間にもわずかな電位差があることを意味します。

 地電流を変動させる自然界の要因としては、地震のほかに落雷による電流、海流や潮の干満などがありますが、最も影響が大きいのは太陽活動です。太陽活動は地磁気変化を起こし、地磁気変化は地電流を変動させるからです。このため地電流は地磁気と呼応した日変化を示し、また磁気嵐などが起きたときは、きわめて顕著な変化を示します。

 地電流は地下資源の探査にも利用されていて、地下の岩盤や地下水の有無などを調べるのには、比抵抗法と呼ばれる電気探査が実施されます。これは探査対象となる地面に2対の電極を埋め込んで1対の電極に電流を流し、もう1対の電極で電位差を調べる方法です。岩石は種類によって電気抵抗が異なり、また地下水があるところでは電気は流れやすくなることを利用したものです。
 

 

地中を探る電気探査の原理と仕組み

図2 地中内部を探る電気探査の原理と仕組み

温泉掘削に利用されるCSAMT法

 ラジオやテレビなどの高周波の電波は大地で反射しますが、ごく低周波の電波(VLFやELF)は地中に浸透し、その深さは周波数と関係します。また、地球を一様な抵抗体と仮定すると、その比抵抗は電界や磁界の強さとも関係します。

 そこで、ある周波数における電界と磁界の変動を調べていくことで、地下の電気的構造を知ることが可能になります。これをMT法(マグネト・テルリーク法)といいます。地下水ばかりでなく、とくに金属分が多い箇所は極端に電気が流れやすくなるので、金属鉱床の探査にも利用されています。

 MT法は自然電磁波のほか、人工電磁波を用いる方法もあります。これはCSAMT法と呼ばれます。

 探査対象となる地中にアンテナから電波を放射し、地中内部を浸透して届く電波を受信機で測定して分析する方法です。近年、コンピュータによるデータ処理技術が向上し、地中内部の構造を3次元画像として描画することも可能になりました。

 このところ東京の都心部で温泉掘削がブームになっています。地下1000m以上もボーリングすると、そこに地下水脈があれば、温泉となって湧出するからです。温泉掘削には多額の費用がかかり、もし掘り当てられなかったら投資が無駄になりますが、CSAMT法などの地中探査法の進歩により、かなりの確率で地下水脈を探り当てられるようになっているのです。

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