じしゃく忍法帳
第73回「磁気による非破壊検査」の巻
磁石は名探偵?
地雷の発見にも利用されるダウジング・ロッドとは?
地下水脈や鉱脈を見つけるためのダウジング・ロッドという道具があります。Y字型やV字型に分かれた木の枝を利用したもので、これを両手ではさみながら歩くと、地下に目当てのものがある地点でロッドが動き出すといわれます。昔はハシバミ(カバノキ科の低木)やヤナギの枝が用いられましたが、現在では2つのL字型の針金を左右の手にもつ方法もとられます。ダウジングは日本では杖占(つえうら)と訳されることもあります。ただし、杖占とは立てた杖の倒れた方向で進路を決めたり、吉凶を予測する占いの1種で目的が違います。
ダウジングは西洋では数千年の歴史をもつといわれ、日本へは戦国時代に鉄砲や測量術など、ともに南蛮(ポルトガル)から渡来していたとも考えられますが、なぜかあまり知られていません。忍法にも地下水脈を知る術はあるもののダウジングのような道具は利用しないで、もっぱら観察を主体とします。砂漠地帯とちがって、河川の多い日本では、日照りのときでも飲料水に困るようなことがなかったからかもしれません。
とはいえ、ダウジングは占いでもなく単なる迷信でもありません。実際に試してみると、確かに意識しないのに、突然ロッドが動くことがあるのです。このため、地下水脈や鉱脈ばかりでなく、地雷探知にも利用されることがあるそうです。 ロッドが動くというとオカルトっぽく思えますが、もとよりロッドそのものが動くわけではありません。ロッドを支える腕の筋肉が何らかの原因で反応するのです。科学的に解明されているわけではありませんが、人体には金属探知機と似た未知の生理的メカニズムがあるともいわれています。
危険物持ち込み防止対策に使われる空港の金属探知機の原理
金属探知機は飛行機に搭乗する際、安全対策として乗客がくぐらされるセキュリティゲートでおなじみのもの。手荷物の中身はX線で透視できますが、X線は放射線障害を起こすおそれがあるので、乗客は金属探知機で調べられるのです。
金属探知機は渦電流という現象を利用した装置です(アラゴの円板、積算電力量計の円板の原理と同じ)。セキュリティゲートに設置されているサーチコイルに交流電流を流して磁束を発生させておき、もし金属類を身につけた人が通過すると、その金属の表面に渦電流が流れます(図1)。この渦電流はサーチコイルの磁束に反発するように、金属表面に別の反作用磁束が発生します。反作用磁束は、サーチコイルの起電力の変化をもたらすので、セキュリティゲートでは、これを信号としてチャイムを鳴らすのです。
同じ原理の金属探知機はCDショップなどの万引き防止装置にも用いられています。特殊な形状の金属がタグに取り付けられていて、商品をタグごと店外に持ち出そうとすると、店内の金属探知機が感知してブザーを鳴らしたりします。
金属探知機のように、対象物を切断したり分解したりしないで、内部のようすやキズの有無などを調べることを非破壊検査といいます。非破壊検査には対象物に現れる何らかの物理現象と、それを測定するための手段とによって成り立ちます。
いちばん簡単な非破壊検査は目で確認する目視です。しかし、この方法には限界があります。ハンマーで対象物(レールや缶詰など)を叩き、その音によって異常を調べたりするのは、音響という物理現象と耳という感覚器官を利用したもの。この方法もまた熟練を要するうえ、小さなキズまでは発見できず、また自動化も困難です。そこで、鋼管などの金属製品の非破壊検査には、さまざまな電気・磁気的現象が利用されます。
図1 金属探知機の原理
製品表面のキズを磁気を利用して検査
工場などに導入されている渦電流試験方法による非破壊検査というのは、金属探知器と同じ原理を利用したものです。金属製品に、コイルから磁束を加えると、製品表面に渦電流が流れます。このとき、製品表面にキズなどがあると、渦電流の流れが微妙に変化して、コイルの起電力の変化となって現れるので、これを電気信号として取り出します。ただし、原理は金属探知機と同じですが、それよりもはるかに鋭敏なセンサと信号処理技術が必要となります。
鉄などの磁性体を材料とする製品でも、磁気的方法による非破壊検査が行われます。主な検査対象となるのは鋼管やワイヤロープなどです。こうした鉄製品を磁界の中におくと、製品内部に磁束が貫通します。このとき、表面にキズがあると漏れ磁束が生じます。
漏れ磁束が生じるのはキズ口に小さな磁極が露出することになるからで、このため微細な鉄粉などをふりかけるとキズ口に集まります。これを利用したのが、磁粉探傷試験と呼ばれる非破壊検査です。原理そのものは簡単ですが、鉄粉が微細なので、鉄粉に蛍光塗料を付着させるといった手法がとられます。これを製品にふりかけ、紫外線光源などを照射すると、キズの有無が視覚的にはっきりとキャッチできるというしくみ。もちろん、CCDカメラやコンピュータと連動して検査を自動化することもできます。
鉄製品を磁化するとキズ口に磁極が現れる
磁気的な非破壊検査において、検査対象となる製品に磁気を加える装置を磁化器といいます。コイルの中に対象物を置く方法のほかに、電磁石の原理でヨークから発生する磁束を利用したり、製品そのものに電流を流すという方法もとられます。これは電流の磁気作用により、電流の周囲には右ネジの法則に従った磁束が生まれるからです。
表面から見えない内部の小さな空洞も、あまり深くない位置にあれば、磁気的な非破壊検査で調べることもできます。表面のキズ同様に、内部の空洞には磁極が露出して磁束漏れを起こし、これが表面に現れるからです(図2)。
X線と違って磁気は人体には無害です。磁気的な非破壊検査を人体に応用すれば、病気の診断にも利用できます。たとえば、臓器に蓄積した鉄分なども、磁気を利用して非侵入的に検出することができます。検出にはSQUIDなどの高感度な磁力計が用いられます。
地雷探知機も非破壊検査装置の1種です。最も一般的な地雷探知機は、サーチコイルの原理を利用した電気掃除機のような形状のもの。装置も小さくてすむところが利点ですが、地雷にかぎらず金属類すべてに敏感に反応してしまうため、かえってやっかいな面があります。地雷原には砲弾の破片や、鉄線、ネジ、クギなどが多数埋っているからです。また、金属容器ではなくプラスチック容器を用いた地雷には、金属探知機は有効ではありません。
そこで、最近では磁気共鳴映像法(MRI)を利用した地雷探知機も開発されています。これは金属ではなく火薬の構成分子そのものを磁気的に励起して、それが放出するエネルギーを検知するという方式です。世界各地に埋められている地雷は、実に6000万個〜1億個という途方もない数。磁気をうまく利用することで、さらに安全で確実、簡便な地雷探知機が開発できるかもしれません。
図2 磁気を用いた探傷装置
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