じしゃく忍法帳

第43回「メータ(計器)と磁石」の巻

メータの針は磁針がルーツ

電磁気の計測はクーロンの実験から

両手を左右に広げた長さは、ほぼその本人の身長に等しいそうです。覚えておくと モノサシがないときに意外と役立ちます。

昔の忍者は一定の歩幅で歩く訓練をしました。あらかじめ自分の歩幅を測っていれ ば、歩数から歩いた距離を計算できるからです。初の実測日本地図を作成した伊能忠 敬(いのうただたか)も、この方法で距離を計測しました。

直接測ることのできない物理量も、忍法のような工夫で、計測が可能になるもので す。たとえば、とらえどころのない時間の流れも、暦や時計の針の動きに置き換える ことで計測され、ハカリに乗せられない巨大な船舶も、浮かべたときの排水量で重量 を知ることができます。

では、目に見えない電磁気的な量は、いったいどのように計測されてきたのでしょ うか?

18世紀末にクーロンは、2つの樹脂球を帯電させたとき、両者に働く反発力を測定 する初の装置を考案しました。この装置は図1のように銀の糸に樹脂球をぶら下げた もので、もう一方の固定された樹脂球との静電気の反発力により、糸がねじれること を利用しています。糸には小さな鏡が取り付けられ、鏡の反射からねじれの角度を読 み取ります。

この実験装置により、クーロンは電荷の間に働く反発力(正負の電荷の場合は吸引 力)は、距離の2乗に逆比例するという法則を発見しました。彼はまた磁石を用いて 、磁気的な反発力・吸引力についても、同じ関係があることを確かめました。これが 有名な電気力・磁気力に関するクーロンの法則です。

あまり知られていない計器の3要素とは?

クーロンの実験装置の図1をもう一度ご覧ください。帯電した樹脂球とともに、円 板が糸でぶらさげられています。釣り合いを保つためのオモリとしての役目のほかに 、この円板は振動を減衰させる役目をもっています。摩擦電気の反発力によってねじ れた糸は、ねじれを戻そうとして、バネのように振動します。そこで円板の空気抵抗 を利用して、この振動を減衰させ、数値を読み取りやすくしているのです。

あまり知られていませんが、電磁気的な物理量を測定するための電気メータ(電気 計器)には、計器の3要素と呼ばれるものがあります。

第1の要素は、測定対象となる電磁気的な量を、何らかの駆動力(通常は回転トル ク)に変換する駆動装置。第2の要素は、駆動力と平衡させるための制御装置。そし て第3の要素は、可動部の運動をできるだけすみやかに静止させる制動装置です。

これをクーロンの実験装置でいえば、電気的・磁気的な反発力を、糸のねじれ運動 に置き換えた機構が駆動装置。また、糸のねじれはバネのように元に戻ろうとするの で、双方の力を均衡させる制御装置として働きます。さらに、糸のねじれの振動を減 衰させる空気ブレーキとなっているのが円板です。クーロンの実験装置は、簡単な構 造ながら、しっかりと計器の3要素を満たしているのです。

クーロンの実験装置
図1 クーロンの実験装置

テスターの原理はオームの法則

クーロンの時代は、電気といえばまだ、もっぱら摩擦電気のことを意味しました。 電流という概念が成立したのは、1800年ごろボルタによって初の電池が発明されてか らのことです。やがて1820年になると、エルステッドによって、電流を流した導線近 くで、磁針が振れることが発見されました(電流の磁気作用)。こうして、電流を物 理量として正確に計測する道が開かれました。電気メータの針のルーツは、エルステ ッドの実験装置の磁針です。

微小電流の測定器は検流計と呼ばれます。コイルの中に磁針を入れた初の検流計を 発明したのはポッケンドルフで、彼の同僚であるシュヴァイガーは検流計の感度を上 げる努力を重ねました。

シュヴァイガーはまた、コイルの磁界による磁針の振れは、電流が強いほど、また コイルの巻数が多いほど、大きくなることを発見しました。しかし、検流計が電流計 として利用されるようになったのは、オームの法則が発見されてからのことです。

電圧=抵抗×電流というオームの法則は、中学校で習う電気回路の基本法則です。 これは乾電池と抵抗器、電流計、電圧計によって、簡単に確かめることができます。 しかし、この単純明快なオームの法則は、発表された当初は、学会からなかなか容認 されませんでした。検流計の感度が低かったということもありますが、何よりも当時 はまだ、安定した電圧・電流を供給する電池がなかったからです。

そこでオームは、化学的な電池ではなく、ゼーベック効果を利用した実験装置を用 いました。ゼーベック効果とは異なる金属の両端を接合して回路にし、両接点に温度 差をつくると、回路に電流が流れる現象をいいます。温度差を一定に保つと、一定の 熱起電力が得られたので、オームの法則の検証に大きく寄与することになりました。

電気回路の電圧、電流、抵抗の測定に使われるテスターは、オームの法則を利用し た電気メータで、その駆動装置には磁石と可動コイルが使われます。

図2に示すのはテスターなどに使われる一般的な可動コイル型電流計の構造です。 磁石の中に置かれたコイルに針が取り付けられていて、コイルに電流を流すと磁界が 発生し、磁石との反発・吸引力で針が回転するというしくみです。針の駆動トルク( 回転力)は電流に比例するので、回転角によって電流の強さを知ることができます。
 

可動コイル型電流計の構造

図2 可動コイル型電流計の構造

積算電力量計の磁石は何のためにあるか?

家庭では使用電力を計測するためのメータとして、住宅に積算電力量計が取り付け られています。内部をのぞくとCDのようなアルミニウム円板が、クルクルと回転し ているのが分かります。

積算電力量計の構造を図3に示します。円板をくわえるように非接触で置かれたC 字型の鉄心には、コイルが巻かれています。このコイルに交流が流れると、円板に渦 電流と呼ばれる電流が発生し、これがつくる磁界とコイルの磁界との作用により、円 板がクルクルと回転します。

積算電力量計の原理は、アラゴの円板を利用したものです。1824年、アラゴは針で 支えた銅製円板の周囲で磁石を動かすと、磁石の動きに合わせて、円板が回転するこ とを発見しました。積算電力量計では永久磁石を動かすかわりに、コイルに流す電流 の位相をずらすことで回転磁界を発生させています。

積算電力量計には、永久磁石が制動装置として使われます。回転している物体は、 慣性の法則に従い、たとえ摩擦があってもすぐに止まりません。だからといって、電 気器具を使い終わったあとも、なお積算電力量計の円板が回転を続けているのでは… と、疑心暗鬼になる必要はありません。永久磁石がブレーキ役となって、ピタリと止 めてくれるからです。とはいえ、日頃から節電に努めないかぎり、電力消費量そのも のにブレーキをかけることはできません。
 

積算電力量計の構造

図3 積算電力量計の構造

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