じしゃく忍法帳

第13回「磁石のつくり方」の巻

セトモノが磁石となる不思議

忍者の五遁の術は独創的発想の指針

忍術が遁術(とんじゅつ)とも呼ばれるのは、敵と遭遇したとき、むやみに立ち向かうよりも、「遁」すなわち逃げることのほうを重んじたからです。中国の有名な兵法書にも、危機に陥ったときには、あれこれと計略をめぐらすより、「三十六計、逃げるにしかず」とあります。

木遁・火遁・土遁・金遁・水遁という忍者の「五遁の術」というのも、ひたすら逃げ切り、生き延びることを目的とした秘伝です。追っ手に囲まれて袋のネズミとなったときもあきらめてはならない、周囲をよく観察すれば、日ごろ修練を積んだ遁術の何かが、窮余の一策として必ず活用できるはずであると忍術書は教えています。

五遁の術は、自然界は木・火・土・金・水という5種の基本物質から成り立つという古代中国の「五行説」の影響を受けて考案されたものです。現代人にしてみれば、ずいぶん非科学的な理論に思えますが、五行説の主眼は5種の基本物質に分類することにあるのではなく、むしろそれらが相互に関係していることを洞察することにあります。つまり、「木が燃えて火となり、火が灰となって土となり、土の中で金(金属)が生じ…」という「相生(そうせい)」の関係、また、「土は水を奪い、水は火を消し、火は金を溶かし…」という「相克(そうこく)」の関係から、自然現象をとらえ直してみようという考え方です。

現代風にいえば五遁の術とは、独創力や逆転の発想を喚起するための指針やノウハウのことなのです。

フェライト磁石の登場は磁石の固定観念を打破

人間は誰しも知らず知らずのうちに、さまざまな固定観念にしばられてしまいます。いわば五行説・五遁の術というのは、人間の固定観念から脱却するための理論・方法でもあるわけで、科学研究やビジネスの世界、また、さまざまな人間関係において、現在でも十分に通用する考え方です。

こうした小型液体ポンプの駆動源として利用されるのは各種アクチュエータです。アクチュエータとは、電気・磁気エネルギーを機械エネルギーに変換する装置のことで、そのうちピストン運動のような直動を行うものをリニアアクチュエータといいます。

科学上の大発見・大発明というのも、固定観念の打破から生まれるものです。たとえば、長らく人間は磁石は金属という固定観念にしばられていました。したがって、19世紀に電磁気学が確立して、より強力な磁石が求められてきたときも、世界の冶金学者・金属学者が研究のターゲットとしたのは、従来の炭素鋼にかわる合金磁石の開発でした。

こうした背景のもとで、1917年に東北大学の本多光太郎が開発したのが、それまで使われてきた炭素鋼を大幅に上回る磁力で世界を驚嘆させたKS鋼(コバルト、タングステン、クロム、炭素を含む鉄の合金)です。ところが1930年代初め、東京工業大学の加藤与五郎と武井武は、硫化亜鉛鉱(亜鉛鉱石)の冶金法の改良をテーマとする研究の過程から、亜鉛フェライト(亜鉛と鉄とが互いに溶け合った固体)を急冷すると強磁性が現れることを発見しました。この発見をきっかけとして誕生したのがフェライト磁石の草分けとなったOP磁石(コバルトフェライト)です。

フェライトとはセラミックス製品つまりは一種のセトモノです。粘土をこねてセトモノをつくるのと同じような材料と工程で、磁石ができるとは思いも寄らなかったことでしたが、その磁力は当時最強の合金磁石をさらに上回るものでした。

考えてみれば天然磁石である磁鉄鉱は、もともと大地に生まれたものです。金属と土・石とは違う物質という固定観念にとらわれると、セトモノのようなものが磁石になることは不可解ということになってしまいます。

しかし、磁石の磁性のルーツは、強磁性元素(鉄、コバルト、ニッケル、希土類元素の一部)のもつ磁性電子にあるのですから、合金でも金属酸化物でもかまわなかったのです。また、強磁性元素に他の元素が加わることで強い磁性が発現するのが磁石の不思議なところで、単独の強磁性元素だけではすぐれた磁石にはなりません。

フェライト磁石の製造工程

粉末原料を成型・焼成最後に着磁して製造

フェライト磁石という言葉は知らなくても、それを見たことがないという人はまずいないでしょう。ボードや冷蔵庫などにペタンと吸いつけて紙押さえにするマグネット画鋲には、黒っぽい円板状の磁石がついていますが、あれがフェライト磁石です。子供に人気のミニ4駆のモータ、自転車の発電ランプ、スピーカーなど、家庭内でもフェライト磁石はさまざまなところで利用されています。しかし、現在の磁石の主流でありながら、フェライト磁石の製法はあまり知られていないようです。

フェライト磁石が黒っぽいのは、鉄酸化物を主成分とするからです。鉄酸化物とは早い話が鉄サビですが、フェライト磁石の主要な原料となっているのも、製鉄工場で鉄板の表面をきれいにするために除去された鉄サビです。もちろん、このままでは不純物が含まれているので、化学処理や炉で焼いたりして、高純度の鉄酸化物粉末とします。

こうして得られた主原料の鉄酸化物粉末に、バリウム、ストロンチウムといった微量添加物を加えて混合、仮焼成したものを粉砕して、1ミクロン(マイクロメートル)ほどのきわめて細かな微粒子にします。 フェライトはセラミックスとはいえ、偶然の要素には頼れない高度な制御技術を必要とするのは、陶磁器との大きな違いです。ただ、フェライト磁石が合金磁石とくらべて有利なのは、原料が粉末なので成型によっていろんな形の磁石がつくれるということです。といっても、これだけで磁石となるわけではありません。成型したのち焼結炉に入れ、最後に電磁石で外部磁界を加えて、初めてフェライト磁石ができあがります。原料を成型・焼成した段階では、いわば眠りのままにいる強磁性体であり、外部磁界によって磁石としての性質を目覚めさせてやるわけです。これを着磁といいます。

地球を利用した気宇壮大な実験     

指南魚の一例  

針を磁石でなぞると、針が磁化されますが、これも着磁現象です。誤解しないようにしたいのは、磁石鋼も磁石合金もそのままでは、磁石としての性質はないということです。磁石として完成させるには、やはり人工的な着磁が必要なのです。

しかし、電磁石もなかった時代から、羅針盤などには人工磁石である磁針が使われてきました。では、いったい、昔の人々は何によって磁針を着磁していたのでしょうか?

天然磁石を利用すれば簡単に着磁できますが、昔も今もそれほど容易に入手できません。最も簡便なのは地磁気を利用することです。忍者も逃走の道具として方位を知る磁気コンパスを利用したといわれ、忍術書には磁石の作り方が載っています。真っ赤に焼いた鉄を南北方向に置いて急冷するというもので、細長い針状のものほど着磁の効果が大きくなります。

これを木片などに乗せて水に浮かべれば、羅針盤のルーツである「指南魚(しなんぎょ)」となります。簡単な実験なので一度、試してみてはいかがでしょうか。身の回りに強力磁石がたくさんありますが、地球という巨大磁石を利用していると思えば、実に気宇壮大な着磁実験ということになります。

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