テクノ雑学

第192回 これからのエネルギー効率化のための超小型モビリティ

ガソリンの価格が高止まり傾向にあります。9月26日に資源エネルギー庁が発表した店頭小売価格週次調査によると、レギュラーガソリンの全国平均価格は9月24日時点で1リットル当たり149.2円となりました。2008年8月に記録した史上最高値の185.1円に比べるとまだ余裕があるようにも思えますが、現在(2012年10月)の外国為替レートは1ドル70円台で、2008年8月初頭は105円程度だったことを考えると、決して楽観できる状況ではありません。

 石油製品の価格決定メカニズムは非常に多くの要素が複雑に絡み合っており、話し始めるとキリがないので今回は詳しく触れませんが、日本全体でのエネルギー効率を高めるために、新たな試みが必要であることは間違いありません。今回は、そんな試みの一つとして期待できる「超小型モビリティ」を取り上げたいと思います。

モビリティってなに?

 「モビリティ」は本来「移動性」や「機動性」を示す言葉ですが、交通の分野では「空間的移動をする能力」や、そのための手段を指すものとしても使われています。 本稿においても、電車、自動車、オートバイ、自転車など、個人が自由な移動を実現するための道具、といった意味で「モビリティ」を使います。そして、「超小型モビリティ」の基礎となるものは、すでに生活の中に溶け込んでいます。具体的には、「軽自動車と自転車の間にある空白を埋める乗り物」のカタチを模索する試み、と言ってもいいでしょう。

モビリティに求められるカタチは、「国土」の構造によって決まる


 私たちは日常生活のさまざまなシーンで、数多くの交通手段を活用しています。物流の分野まで考えると、現状の生活様式を維持するために各種のモビリティは不可欠なものです。その中にあって解決するべき大きな問題の一つが、国土の多くにおいて、個人が所有し、自ら運転して移動する「パーソナル・モビリティ」なしには実質的に生活が成り立たないことです。

 正確にいえば、公共交通機関だけを使って生活することは、決して不可能ではありません。実際、そうやって生活している方々もいらっしゃることでしょう。しかし、そこには数多くの制約が生じてしまいがちです。ちょっと買い物に行こうと思っても、バスが1時間に1〜2本しかない……といった地域は想像以上に多いものです。また、買い物のついでに知り合いの家へ寄りたいけれども、終バスの時間が……といった制約も無視できません。行動の自由度を確保するためには、なんらかのパーソナル・モビリティを確保しておく必要があるわけです。

■ その土地に合った最適なモビリティ

 このような状況は、日本の国土デザインそのものに起因しているとも考えられます。たとえば、欧州では「都市」もしくは「村落」と「街道」が明確に分けられており、街道部には住居を建てることが禁止されていることが珍しくありません。このような構造なら、「都市(村落)内移動」と「都市(村落)間移動」の手段をはっきり分けられますし、それぞれの役割に応じて最適なモビリティを決めやすくなります。

 都市(村落)間の移動には、大型バスや鉄道など高速かつ大量輸送に向いたモビリティを使うことが基本となります。また、街道部に停車する必要がなければA地点からB地点への移動に特化すればいいので、運用上の効率も高まります。都市(村落)内の移動には、特定の区間を短い運行間隔で周回する路面電車やバス路線を整備し、そこに自転車などの、ミニマムなパーソナル・モビリティを組み合わせれば、ほとんどの要求が満たせるはずです。

 対して日本の場合は、街道沿いや山間部にも好き勝手に住居を立てることが許容されているので、長距離移動用のモビリティであってもA地点からB地点までの間に数多くの停留所が求められますし、パーソナル・モビリティにも都市(村落)内移動、都市(村落)間移動の両方に対応することが求められます。しかし、その要求自体が運用の効率を低下させてしまい、現状では地方ほど公共交通機関の整理統合が進められる傾向が強まっています。つまり、「移動の自由」「生活の自由度」を確保するためには、個人が何らかのモビリティを自ら所有し続けなければならない状況が続く、もしくは強まっていくわけです。

 昨今はエコ的な観点から、自転車の活用が提唱される機会が増えていますが、仮に自転車道の整備が進んだとしても、事態はあまり変わらないでしょう。なぜなら、自転車は移動のために相応の体力が要求され、また雨天時などには危険性が大きく高まるため、常用できる人はそう多くないと考えられるからです。オートバイも同様で、1〜2名が中距離を移動するための手段として最適といってよく、現状の道路インフラをそのまま使える点も魅力なのですが、操縦そのものにある程度の技量が求められること、雨天時の危険性、また衝突・転倒時の安全性確保の点でも一般的とは言えません。

■ ミニマムなパーソナル・モビリティの模索

 そのような背景から、日本において求められるパーソナル・モビリティへの要求を、最小限にしたものの代表と言えるのが軽自動車です。自転車やオートバイが抱える問題をクリアし、かつ4名まで乗車でき、車両価格や維持費の点で大きなメリットがあります。特に昨今は、経済性の高さで人気が高まっており、全国軽自動車協会連合会の発表によると、2012年度上半期(4〜9月)の新車販売台数は前年同期比41.4%増の97万8617台で、上期としては過去最高を記録したそうです。

 実際、地方では走っているクルマの過半数が軽自動車ですし、お年寄りが一人で運転している姿もよく見かけます。しかし、現状の軽自動車がミニマムなパーソナル・モビリティの理想像かといわれれば、異論は多々あるでしょう。まず、軽自動車は一般的に燃費性能が良好とは言えません。衝突安全基準に適合するため車体重量が1トン程度にまで増加しているにもかかわらず、エンジンの排気量は660ccのままなので、相対的に力不足となって実用燃費が悪化、1,300ccクラスのクルマと大差ないレベルであることも稀ではありません。
 

国土交通省が想定している超小型モビリティの範疇

 もう一つの問題は、軽自動車がミニマムなパーソナル・モビリティとしては「過剰」な性能を持っていることです。日本の道路を走っている自動車の平均乗員数は1.7人程度と言われます。仮に、2人が軽自動車に乗って15km移動する間の燃費が15km/Lだったとすると、1人頭500ccのガソリンを消費する計算になりますね。さて、同じく15kmの移動を、燃費のいいオートバイでこなしたとしましょう。筆者の経験上の話になりますが、ごく普通に運転していれば、実燃費で40km/L程度はマークしてくれますから、15kmの移動に使うガソリンは375cc、2人乗りなら1人頭約187ccで済むことになります。

 前述のようにオートバイは万人向けの移動手段とはいえませんが、「自転車より安全・快適」で、「性能も乗員も現状の軽自動車の半分、その代わりに燃料消費も維持費も半分」といった移動手段があれば、そちらに乗り換える人は少なくないはずなのです。そして「超小型モビリティ」は、その最適な姿を模索するための試み、というわけです。

■ 超小型モビリティに高まる期待

 現在、国土交通省では、超小型モビリティを「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人〜2人乗り程度の車両」と定義しています。また、導入・普及によるメリットに関しては、「CO2の削減のみならず、観光・地域振興、都市や地域の新たな交通手段、高齢者や子育て世代の移動支援等の多くの副次的便益が期待される」としています。

 具体的に想定されているカタチは、大別して4種類です。サイズの小さい方からいくと、まず、ミニマムな移動体として立ち乗り型などの「搭乗型移動支援ロボット」、次に、それが椅子型になったような「歩行補助用具(シニアカー)」があります。ここまでは運転免許証が不要な代わりに、通行できるのは歩道のみです。シニアカーに外皮を追加したような「ミニカー(第一種原動機付自転車)」になると、免許が必要な代わりに車道を走行できますが、乗車定員は1名のみです。それよりもう少し大きく、エンジンやモータの出力も高めて2名乗車を可能とし、ミニカーと軽自動車規格の間を埋めるものとして考えられているのが、「2人乗りの超小型モビリティ(第二種原動機付自転車)」となります。

超小型モビリティの利活用が想定される場面


 それぞれに求められる具体的なサイズや機能・性能、価格帯などは、今後の各メーカーの模索によって「落としどころ」が決まっていくはずです。これらのほとんどが、電動車両(EV)を前提にしている点については、昨今の電力事情からの批判もありますが、個別にエンジンを搭載して燃料を消費するより効率的であることは確かでしょう。

 「超小型モビリティ」の普及と活用を図る上で重要なのは、4種類それぞれの適材適所な使い分けを徹底し、行政サイドもそのためのインセンティブを用意しておくことと考えます。税制面だけでなく、たとえばミニカー以下は公共駐車場に無料で駐車できる、シニアカー以下は公共交通機関にそのまま乗り込める、購入者には太陽光発電設備の設置に対する助成金がふるまわれる……などなど、積極的に使いたくなるようなメリットをどれだけ多く用意できるかが、普及のためのポイントになるはずです。

 たとえば観光地では、指定の区域内に超小型モビリティ以外の乗り入れを禁止してもいいでしょう。都市部でも、「輸送」を伴わない単純な移動には超小型モビリティのみを認めるようにすれば、渋滞によるさまざまな損失が大きく改善されるはずです。

 また、ゴルフカートでは、GPSを利用した自律走行で無人のまま車庫まで戻って来るものが実用化されています。このような機能が付いた超小型モビリティが普及すれば、交通弱者の移動に際する肉体的・経済的負荷を軽減でき、事故なども減らせ、国全体でのエネルギー効率を大きく向上させることが期待できます。

 みなさんも「超小型モビリティ」の理想像について、アイディアを出してみませんか? 新しいスタンダードのカタチを考案できれば、歴史に名を刻める可能性も大ですよ。

【 参考情報 】

■国土交通省「環境対応車を活用したまちづくり」

■パーキングナビ「アキバUDX駐車場 無料駐車場ポーターサービス」

 

ここで活躍! TDKの製品

フェライトマグネット/ネオジムマグネット

■ フェライトマグネット/ネオジムマグネット

HEV/EV/PHEVといった環境対応車をはじめ、自動車の燃費向上や航続距離延長に大きく貢献しているのがTDKの磁石です。
自動車にはモータがたくさん使われていますが、そこには磁石が欠かせません。

フェライトマグネットはモータの小型・軽量化、高性能化を支えています。
ネオジムマグネットは駆動モータ用として活躍しています。レアアース(希土類元素)を大幅低減、さらには、まったく使用しない製品開発に、TDKは挑戦しています。

用途例:HEV/EV/PEVの駆動モータ、車載用小型DCモータなど




著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在は日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社) 「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

テクノ雑学

第193回 細胞の分化を「巻き戻す」技術〜 iPS細胞の持つ可能性

テクノ雑学

第194回 「テレビ放送塔」スカイツリーと光回線テレビ

テクノ雑学

第101回 雨を降らせて晴れを作る -人工降雨の技術-

PickUp Contents

PAGE TOP