テクノ雑学

第194回 「テレビ放送塔」スカイツリーと光回線テレビ

2012年5月22日に開業した東京スカイツリータウンは、新しい東京の観光スポットとしてすっかり定着した感があります。しかし、東京スカイツリー自体は、まだ本来の目的である「テレビ放送塔」としての役割を十分には果たしていません。11月時点でスカイツリーを利用しているのは、NHK東京FM(82.5MHz)などのFMラジオ放送、VICSのFM文字多重放送、タクシー無線、携帯端末向けマルチメディア放送(モバキャス)の「NOTTV」などで、地上デジタルテレビ放送を行っているのはTOKYO MX(東京タワーと併用)のみ。その他の在京テレビ局がスカイツリーからテレビ放送波を送信するのは、2013年5月ごろをメドとしています。

スカイツリー建造の目的とは

もともとスカイツリーは、都心部に増加した高さ200m級のビルによる各種電波の受信障害対策を目的に建造されたもので、放送アンテナは地上約600mに設置されています。これによって、より広範囲に良好な受信環境を実現するとともに、ワンセグ放送の受信エリアが拡大するといったメリットも得られます。しかし、電波を発信する場所が変わることで、今までとは異なる地域や場所で受信障害が起こる可能性があります。そのため、2012年12月22日から2013年1月下旬までの間、毎週土曜日の午前4時58分〜5時にスカイツリーからの試験放送を行うことになりました。この試験放送波が正常に受信できない場合は、「東京スカイツリー受信相談コールセンター(ナビダイヤル 0570-015-150)」に相談すると、無料訪問調査や放送局負担でのアンテナ交換といった対策が受けられます。

 とはいえ、現在、テレビ放送は自前でアンテナを設置しなくても視聴できます。もっとも一般的なのは、各地域のケーブルテレビサービスを利用することですが、サービス提供エリアから外れていた場合でも、インターネット接続に光回線を利用できるなら、それを使ったテレビ視聴サービスが利用できます。今回はその代表的なものとして、NTT東日本が提供している「フレッツ・テレビ」サービスと、NTTぷららが提供している「ひかりTV」サービスをとりあげてみたいと思います。
 

「共同受信アンテナ」で難視聴対策
 

■ ケーブルテレビって、再送信するサービス?

 ケーブルテレビとは、「運営側の設備から契約者までの間をなんらかの『線』で接続し、それを使ってテレビ放送波を『再送信』するサービス」と定義できます。古くから普及していた有線ラジオ放送のテレビ版と考えればいいでしょう。

 もともとはテレビ放送波が受信しにくい「難視聴地域」への対策として考案されたサービスですが、そのための設備を利用してBS、CSなど衛星放送の再送信サービスや、通販番組など独自コンテンツの送信も行っているのが一般的です。ちなみに、ケーブルテレビサービスを「CATV」と呼ぶことがありますが、このCAは本来Common(もしくはCommunity)Antennaの略、つまり「共同受信テレビ」の意味です。もともとは難視聴地域で共同受信アンテナを設置し、そこから各加盟者までの間を信号伝播用ケーブルでつないでいました。集合住宅などでは、各部屋ごとに受信用アンテナを設置することが困難なため、共同受信アンテナを使うことが一般化していますが、そのアンテナからテレビ受像機までの間が広範になったものがCATVの原型です。そしてケーブルテレビ局は、そのアンテナから配線までを代行して行うサービスであることから、慣習的にCATVと呼ばれ続けているわけです。

 難視聴地域という言葉から連想するのは、放送塔から遠く離れた山間地などですが、市街地でも高層ビルや送電線、線路(架線)などの影響でテレビ放送波がうまく受信できない地域が意外なほど多くあります。アンテナ調整や、テレビ放送波の信号を増幅する機材(ブースター)の追加といった対策で改善される場合もありますが、どうしてもうまく受信できない場合、放送波を正常に受信できる場所から難視聴地域まで、なんらかの手段で信号を送ることでテレビを視聴できるようにするわけです。

 さて、日本でインターネット接続が普及し始めた頃、ケーブルテレビ局でもインターネット接続サービスを提供するところが現れました。最初にサービスを始めたのは東京の武蔵野三鷹ケーブルテレビで、時期は1996年10月と、世間はまだダイヤルアップ接続が主流だった当時です。インターネット接続は、ISPの施設と契約者の間に信号を送受信できる「線」があれば可能となるので、既存のケーブルを利用できるケーブルテレビが、そこに目を付けるのはある意味で当然のことでした。ほぼ同時期に、ガス会社や電力会社などいわゆるライフライン系の企業も独自のインターネット接続サービスの提供に乗り出しましたが、これらも独自に張り巡らせていた設備管理用の回線網を利用して、新たなビジネス分野に乗り出したという意味では、ケーブルテレビと同じような経緯であったといえます。

■ インターネット回線で違ったアプローチ

 対して「フレッツ・テレビ」や「ひかりTV」は、もともとインターネット接続用に敷設した光回線をテレビ放送波の再送信に利用するものですから、ケーブルテレビやライフライン系企業とは正反対のアプローチといえるかもしれません。そして一見すると同じようなサービスに見える「フレッツ・テレビ」と「ひかりTV」ですが、実はその仕組みにはけっこうな違いがあるのです。

フレッツ・テレビのシステム構成


 フレッツ・テレビは、「RF(Radio Frequency)方式」によってテレビ放送波を光回線に乗せています。高周波の映像信号を光ファイバーで伝送できる形式に変調して送信するもので、信号そのものは通常のテレビ放送波に乗っているものとまったく同じです。また、映像信号の送信にはデータ通信とは異なる波長を使う「波長分割多重」を採用しているので、データ通信用の帯域を消費せずに済み、インターネット接続の速度が落ちるといった心配もありません。

 さらに、フレッツ・テレビは映像信号の伝送に「同一周波数パススルー方式」を用いていることもメリットとしてあげられます。「パススルー」とは、電波の変調方式を変えずに再送信する方式です。そのうえ、電波で伝送されている状態と同じ周波数を使っているので、受信側で信号を再変換する必要がありません。つまり、「セットトップボックス」の類は不要で、市販の地上デジタル放送対応テレビの内蔵チューナーを使って、そのままテレビ放送波を受信、視聴することができるのです。

 ちなみに、一般的なケーブルテレビも地上デジタル放送の部分には同一周波数パススルー方式の伝送を行っているところが大多数です。ケーブルテレビを導入している集合住宅で、BSやCSなどの有料チャンネル以外はごく普通にテレビが視聴できるのはそのためです。また、分配器(セパレーター)と増幅器(ブースター)を使うなどして信号の品質さえ確保すれば、3台以上のテレビで視聴することも可能です。

■ 双方向通信のメリット


ひかりTVのシステム構成


 対してひかりTVは「IPマルチキャスト」によるサービスです。映像信号をIP(インターネット・プロトコル)に変換した上で、複数の契約者に対して同時にパケット送信する(マルチキャスト)ことでテレビの視聴を可能にしています。わりと古くからある、インターネットを利用したビデオ・オン・デマンドサービスに、通常のテレビ放送を付加したものと考えていいでしょう。実際、ひかりTVは2008年3月、NTT関連企業が提供していたビデオ・オン・デマンドサービス「OCNシアター」、「オンデマンドTV」「4th MEDIA」を統合し、さらにIP放送としては初めて地上デジタル放送の再送信サービスを加えて誕生したものなのです。

 IP通信ですから、受信したパケットを元の形式に戻す仕組みが必要になり、そのためにセットトップボックスを設置しなければなりません。テレビ受像機1台につき1台のセットトップボックスが必要になり、現状のひかりTVでは2台目までしか対応していないので、一家で3台以上のテレビによる視聴はできません。また、IP通信なのでデータ通信の帯域を圧迫することになります。

 一方、双方向通信が可能なので、ビデオ・オン・デマンドサービス、カラオケサービスや、NHKオンデマンドなどのインターネット向けテレビ放送サービスが利用できることがメリットです。

 少し古い集合住宅では、地デジ用アンテナは立てているものの、CSやBSの受信設備がなかったり、設備が古く110度CS放送が使う2,150MHzの周波数帯に対応していないといったことがあります。ケーブルテレビも、意外な場所が非対応地域になっていたり、集合住宅の場合は導入が不可能なこともあります。そんな場合、インターネット接続に光回線を導入できるのであれば、フレッツ・テレビやひかりTVのようなサービスを利用することで、CSやBSを楽しむことができるわけです。

 また、ケーブルテレビ会社によっては、いくつかの有料放送チャンネルをセットにした「パッケージ購入」でしか契約できないこともありますが、フレッツ・テレビの場合は有料放送がチャンネルごとに契約できるので、特定のコンテンツだけ視聴したい場合には利用料金を節約することもできます。

 今回は例として、NTT関連企業によるサービスをあげましたが、KDDIでも「auひかり ビデオ・チャンネル」という同様のサービスを提供していますので、インターネット接続にKDDIの回線を利用している方は、そちらの利用をご検討ください。

ここで活躍! TDKの製品

 

■ 高速光通信ケーブル

高速光通信ケーブル

TDKでは、民生用高速データ伝送技術として注目されている「Thunderbolt」向けの高速光通信ケーブルを製品化。業務用にも同様の低消費電力などを特長としたデータセンターネットワーク向けにも最適な製品。光を使った高速大容量時代を支えます。

コネクタ内の電気/光変換部




著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在は日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)「図解雑学・量子コンピュータ」 「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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