テクノ雑学

第190回 クラウドコンピューティングで、スマートフォンやタブレットPCなどをもっと快適に!

日経BPコンサルティング社が7月25日に発表したリリースによると、2012年6月に行った調査の結果、調査期間中の日本国内でのスマートフォン普及率は約18.0%と推定され、前年同時期の9.5%に比べてほぼ倍増した、との結果が報告されました。この数値は、筆者が普段、移動中の街中や交通機関の中、携帯電話の販売拠点などで観察している印象ともほぼ合致しています。このままのペースで増えて行くと、2013年末ごろには普及率50%を超えるのではないでしょうか。
 

【 参考情報 】

■「携帯電話・スマートフォン“個人利用”実態調査2012」より スマートフォンの国内普及率は18.0%、1年でほぼ倍増(出典:日経BPコンサルティング)


 さて、スマートフォンやタブレットPCの普及が進むにつれて、「クラウドコンピューティング」系サービスの充実が期待されています。そこで今回は、スマートフォンやタブレットPCを使う上で、役立つクラウドサービス2種類の特徴点をまとめてみましょう。なお、クラウドコンピューティングそのものについては、2009年7月にも「テクの雑学」で取り上げていますので、そちらもぜひご参考いただければと思います。
 

【 参考情報 】

■テクの雑学>第121回 雲の向こうとつながるインターネット〜身近なクラウドコンピューティング〜

クラウドといっても意外と身近にある


 

「クラウドコンピューティング」を定義することは難しく、また、その名で呼ばれるようになる前から同様のサービスが提供されていた例は少なくありません。クラウドコンピューティングを構成する基盤技術としては、複数台のコンピュータを束ねて扱う「グリッドコンピューティング」や、一つの処理を複数のコンピュータに振り分けて同時進行させる「分散処理」による処理能力の高度化と、1台のサーバー(コンピュータ)やネットワーク機器を、あたかも複数が存在するように振舞わせる「仮想化」、アプリケーションソフトウエアをネットワーク上で提供するSaaS(Software as a Service)などによるサービスの多様化があげられます。ただし、これらはずっと以前から実用化されてきた技術です。ことさらに「クラウドコンピューティング」と呼ぶのは、それらの技術の普及によって提供可能となった各種のサービスの革新性を印象付けるための、いわゆる「バズワード」にすぎない、との見解もあります。

 そもそも「クラウド」の語源自体が、インターネット全体の構成を図示する際、ISP(Internet Services Provider)から先のインフラ全体を雲の形で示す慣習に由来していることも有名な事実です。実質的には、古くからある「ネットワークコンピューティング」という言葉を置き換えつつ、新たな技術分野をも統合し、より包括的な概念を示すための言葉がクラウドコンピューティングだと考えていいでしょう。

 クラウドコンピューティングのメリットは、サービス提供側を中心に語られることが多いものです。具体的にはサーバーの導入ならびに運営コストが安上がりで済む、サーバーの多重化・冗長化による運用の安定性と信頼性の向上、システムのスケーラビリティ(必要に応じてシステムの機能と性能を最適化すること)の柔軟性向上などがあげられます。また、本シリーズ第121回でも取り上げましたが、大規模サーバー環境を構築している企業が、その上で実行可能な各種のサービスを提供する「クラウドサービスプロバイダ」による、高機能なWebホスティングサービスも普及しています。

 その代表が、Amazonが提供するWeb環境構築サービス「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)に代表されるIaaS(Infrastructure as a Service)や、Googleが提供する「Google Cloud Platform」などの各種サービス提供用プラットフォームPaaS(Platform as a Service)です。クラウドを構成するサーバー全体が持つ非常に強大なリソースを、その時々の要求に応じて個々のサービスに対して柔軟に割り当てながら運用することで、さまざまなメリットをもたらすことが特徴です。サービス利用側にとっては、サーバー運用の基礎部分をアウトソーシングできる、ピーク時に要求される処理能力に対する初期導入費用が安上がりで済むといったメリットがあります。

 ここまでは、いわば「雲の上」の話ですが、では、「雲の下」にいるユーザーにとって、クラウドコンピューティングはそれ以前のサービスとどのように違い、どのようなメリットがあるのでしょうか? 「プライベートクラウド」などと呼ばれる個人ユーザー向けサービスのうち、「オンラインストレージサービス(以下、オンラインストレージ)」に分類されるものの代表であるDropboxとEvernoteを例に、クラウド化によるメリットを考えてみましょう。

■ ますます便利になるオンラインストレージ


 個人向けクラウドサービスとして真っ先に連想するのは、「Dropbox」に代表されるオンラインストレージではないでしょうか。「SugerSync」や「Googleドライブ」など同様のサービスも含めて、「YAHOO!ブリーフケース(現YAHOO!ボックス)」など従来型のオンラインストレージサービスとの違いは、複数のストレージ(デバイス)間で自動的にファイルの内容を同期させられることです。

 従来型オンラインストレージは、ローカルマシン上にあるファイルをネットワーク上のスペースにコピーもしくは移動して保存するだけのサービスでした。細かく言うと、特定のユーザーもしくは広く一般に向けてファイルを公開・共有することなども可能でしたが、ファイル自体の内容を最新に保つためには、ユーザーが自らの手でアップロードし直す必要がありました。「インターネットディスク」といった名称を採用しているサービスもありましたが、むしろそちらのほうがイメージしやすいものだったかもしれません。

 これに対してDropboxは、ローカルマシンに保存したファイルの内容を、クライアントソフト(アプリ)がサーバーならびに他のデバイスのストレージ上にあるファイルと同期してくれることが特徴です。ローカルマシン上のファイルに変更を加えると、Dropboxアプリを介して、ネットワーク上や他のデバイス上にあるファイルの内容も自動的に更新されるので、いちいちローカルマシンからアップロードしなくても、仕事場のPCで行っていた作業の続きを、出先からタブレットPCで行ったり、スマートフォンで確認するといったことが可能になります。

 従来のモバイル用デバイスでも、PCやオンラインストレージとの間でデータの同期が可能なものはありましたが、デスクトップPCに比べてストレージ容量の小さいネットブックやスマートフォンでは、なるべくローカルにファイルを持たず、しかし必要な時には操作できることが理想です。Dropboxはオンラインストレージを「経由点」として、クラウドサービスに登録されているデバイスすべてのローカルファイルを常に同期させることで、あたかもシームレスに「共有」しているかのような使い勝手を実現する点が新しかったわけです。データ(ファイル)を「雲の上」に置いておくことで、必要な時にはいつでも「雲の下」から操作できると言えば、よりイメージしやすいでしょうか。

 Appleが提供するiTunesサービスも、クラウドサービスに対応することで使い勝手を大きく向上させました。従来はPC上のiTunesソフトウエアを経由点として、そこに接続したデバイスの間でファイルの同期を行っていましたが、iCloudサービスと連携する「iTunes in the Cloud」に進化したことで、iTunesストアで購入した楽曲やファイルを、登録されているすべてのデバイスでいつでも楽しめるようになったのです。

 DropboxやiTunes in the Cloudは、必ずしもクラウドサービスでなければ実現できなかったものとは言えません。しかし、クラウド関連技術の普及によって、実現しやすくなったことは事実です。

■ クラウド時代のアプリの効率的な使い方


 

Dropboxと並んで多くのユーザーが利用しているクラウドサービスに、Evernoteがあります。Evernoteもオンラインストレージの一種なのですが、テキストや写真、音声、動画などを「メモ書き」のように気軽に保管できること、さらにそれらのファイルをユーザーが設定した「ノートブック」と称するサブジェクトごとに保存でき、自動的にインデックスが作られること、さらに各ファイル任意のタグを付けて分類でき、自在に検索できることが特徴です。これらの機能によって、単なるオンラインストレージではなく、個人向けドキュメント管理システム的な機能を果たしてくれます。

 Evernoteの便利さは、実際に使ってみないと今ひとつピンと来ない部分も多いかと思いますが、ストレージの容量を気にせず気軽かつ手軽に各種のファイルを保存しておけること、Dropbox同様に各デバイス間でデータを常に同期しておける(実際にローカルマシン上で更新されるのは、アプリ上での管理情報ですが)ことなどによって、新たな使い勝手を実現した点が支持されている理由です。また、これらの機能は強力な処理能力を持つサーバーがあってこそ実現できるもので、クラウドサービス環境が貢献している部分が大と言えるでしょう。

 出先でのファイル閲覧や「メモ」としての写真撮影ならびに録音録画は、スマートフォンやタブレットPCで手軽に行い、それらのファイルの本格的な編集作業はPCで行うという作業フローにおいて、DropboxやEvernoteにより同期は絶大な威力を発揮します。スマートフォン向けクラウドサービスにおいては、今後もこの「同期」という概念が大きなポイントになるはずです。

 思えば、日本国内でケータイ向けに初めて実用化されたオンラインストレージ&同期サービスは、NTTドコモが2009年冬モデルから提供を始めた「ケータイデータお預かりサービス」であったと記憶しています。任意に指定したデータ(電話帳やToDOなど)を、指定の時間帯(比較的通信回線の帯域に余裕がある深夜など)にサーバーへアップロードしてバックアップするというこのサービスは、まさにクラウドサービスのさきがけだったと言っていいでしょう。

ここで活躍! TDKの製品

 

■ HDD用磁気ヘッド

HDD用磁気ヘッド

クラウドコンピューテング時代に欠かせないオンラインストレージサービス。その要となるデータセンターでは、大量のデータを高速処理するために、サーバー用ハードディスクドライブ(HDD)の小型・大容量化が重要です。

このHDDの進化を支えるキーデバイスが磁気ヘッド。
磁気ディスク上でスイング走査して情報を読み書きします。TDKはHDDの小型・大容量化に貢献してきたHDD 用磁気ヘッドの世界的なリーディングカンパニーです。

用途例:ノートパソコン、デスクトップパソコンなどをはじめ、データセンターなどのサーバーに搭載されるHDD



著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

テクノ雑学

第191回 携帯電話から火星探査機まで、最新のソフトウェアを提供する仕組み

テクノ雑学

第192回 これからのエネルギー効率化のための超小型モビリティ

テクノロジーの進化:過去・現在・未来をつなぐ

AIの未来:ChatGPTはどのように世界を変えるのか?

PickUp Contents

PAGE TOP