テクノ雑学

第177回 「つながるスマートフォン」実現の切り札、オフロードって何?

急速に普及が進むスマートフォン。電車の中でも、ケータイをタッチパネルで操作している人が増えてきています。しかし、スマートフォンが増えることで、携帯電話会社が頭を悩ませているのが、データ通信量の増大による通信速度の低下。その解決のためのキーワードが「オフロード」です。
 

増えるスマートフォンで近づくネットワークの限界

スマートフォンの普及が加速しています。特に普及率の高い東京近辺では、販売される携帯電話の6割以上がすでにスマートフォンになっているというデータもあります(参考情報:WirelessWire News 2011年8月24日付)。

 携帯電話会社各社もスマートフォンに力を入れています。先日発表された新モデルの発表会では、各社ともスマートフォンのバリエーションを増やし、大々的に宣伝していました。

 スマートフォンはそのままインターネットに接続でき、ウェブや動画を楽しんだり、さまざまなサービスを利用できるのが大きな特徴です。そのため、一台あたりのデータ通信量は、従来の携帯電話の20倍程度になります。つまり、スマートフォンの普及にともなって、携帯電話会社が現在用意している通信用のネットワークが限界に近づきつつあります。

■ データ通信量が増えすぎると起こること

 データ通信量が増えすぎると起こる現象を、もう少し詳しく見てみましょう。

 現在日本で普及している携帯電話の通信方式は3G、あるいは3.5Gと呼ばれている方式(以下、まとめて「3G」と呼びます)で、音声通話もデータ通信も同じ周波数帯域を使っています。一つの基地局が単位時間あたりに送受信できるデータの量は一定です。つまり、接続しているユーザーが増えたり、データ通信量が増えると、ユーザー一人あたりの速度が低下します。

 たとえば、携帯電話のカタログなどに、通信速度が「7.2Mbps」などと書いてありますが、実際にそんな速さで通信できることはありません。通信速度には電波の状況なども影響しますが、ネットワーク全体のデータ通信量が多すぎることも、速度が出ない理由の一つです。

 さらに通信量が増えすぎると、基地局に接続されていてもデータが流れなかったり、さらにひどくなると、音声通話が切れてしまったり、SMS(ショートメッセージサービス)が届かないなどの障害も発生します。

 携帯電話会社では、解決のために、基地局一つあたりのエリアを狭くして高密度化するマイクロセル化などの対策をしてきましたが、それでも追いつかなくなってきているのが現状です。
 

【 参考情報 】

■第149回 小さく分けると使いやすい? —【小さな基地局】フェムトセルとは—|テクの雑学|TDK Techno Magazine

 

■ 他のネットワークにデータ通信を逃がす

 3Gモバイル通信ではなく、他の通信手段を使ってスマートフォンなどのモバイル端末のデータ通信を行うことを「オフロード」といいます。オフロード推進のために携帯電話会社はさまざまな施策をしています。

 現在、各社が力を入れているのが、スマートフォンのWi-Fi機能を使って、街中や店舗、駅などでWi-Fiに接続できるWi-Fiアクセスポイントの整備です。




 Wi-Fiは3Gモバイル通信に比べて通信速度が速いので、ユーザーにとっても「使えるところではWi-Fiを使う」ことで快適なネットワーク利用ができます。各社とも、自社ユーザーに対して原則無料での提供を打ち出し、利用を促進しています。

 もう一つの施策が、LTE、モバイルWiMAX、DC-HSDPAなどの、3.9Gデータ通信規格の利用です。3.9Gは、3Gに比べて高速なデータ通信が可能で、周波数利用効率が高いという特徴があります。3Gでは、最高でも下り14Mbps程度までの速度でしたが、現在日本で提供されている3.9Gサービスではおおむね40Mbps程度での通信が可能になっており、今後周波数の割り当てが進めば、技術的には300Mbps程度まで可能になると言われています。



 2011年秋に発表された各社の新モデルでは、3.9G対応のモバイルWi-Fiルーターやスマートフォンを発売しています。データ通信は3Gと3.9Gの両方に対応しており、3.9G対応のエリアでは3.9G、非対応のエリアでは3Gに接続します。各社では3.9Gのエリアをデータ通信量の多い都市部から整備しており、データ通信の分散をはかっています。

 従来のスマートフォンでも、モバイルWi-Fiルーターを利用してネットワークに接続することで、ユーザーは3Gより高速なネットワークを利用できますし、携帯電話会社は3Gの負荷を下げることができます。


 また、従来、携帯電話会社のほとんどは、スマートフォンをWi-Fiアクセスポイントとして、パソコンなど他の機器をインターネットに接続する「テザリング」は原則として認めない方針でした。しかし、3.9G対応のスマートフォンについては、テザリング機能を開放し、利用しやすいように料金体系も改訂しています。

【 参考情報 】

■第170回 スマートフォンが無線ルーターに変身! 〜テザリング機能〜|テクの雑学|TDK Techno Magazine


 スマートフォンでテザリングができれば、パソコンやタブレットPCなどでモバイルインターネットを利用したい人も、通話用の携帯電話と別にデータ通信用端末を契約する必要がないため、買い換えの大きな動機になります。

■ 「面倒はイヤ」を乗り越えるための技術も必要

 とはいっても、使い分けをユーザーが意識して行う仕組みでは、「面倒だから少しぐらい遅くてもどこでもつながる3Gのままでいいや」となってしまい、なかなかオフロードは実現しません。ユーザーが意識することなく、複数の通信手段の中から最適なものを端末が選んで接続する必要があります。

 シームレスに複数の通信形式を使い分けるのが、「コグニティブ端末」です。電波の状態に合わせて、端末が最適な回線を選択し、自動的に接続します。



 ユーザーは何も考えなくてもよいし、何も操作しなくてもよいのが利点です。オフロードを推進するためには、コグニティブ端末は必須の技術です。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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