テクノ雑学

第179回 節電でも暖かい冬を過ごそう 〜遠赤外線ヒーターの仕組み〜

いよいよ本格的な冬がやってきました。この冬の電力不足を乗り切るために、政府は「エアコンは20度に設定」とよびかけていますが、それだけではちょっと肌寒く感じてしまう人も多いと思います。そこで活用したいのが、小さくても暖かく感じるヒーター。今回のテクの雑学では、「遠赤外線ヒーター」で暖まる仕組みを見ていきます。
 

熱が伝わる時に起こっていること

 何かを暖める時には、温度が高いものから低いものに、熱を伝える必要があります。では、「熱が伝わる」とはどんな現象なのでしょうか。

 物質を構成している分子は、じっと1カ所にとどまっているわけではなく、小さく振動しています。振動の大きさは、物質の温度に応じて決まり、温度が高くなるほど振動は大きくなります。




 物質に熱が伝わるとは、すなわち、分子を振動させるためのエネルギーが伝わるということなのです。

■ 3種類ある熱の伝わり方

 熱の伝わり方には、「伝導」「対流」「放射(輻射)」の3種類があります。





●伝導
 温度の高い物質と低い物質が触れることで、温度が高い方から低い方へ、直接熱が移動する伝わり方をさします。床から足に熱が伝わる床暖房や、あんか、ゆたんぽなどは、「伝導」を利用して、身体を暖めます。





●対流
 空気や水などは、温度が高いと膨張して、体積あたりの重さ(密度)が小さくなります。また、逆に、温度が低いと収縮するので、体積あたりの重さは大きくなります。温度によって重さが異なる空気や水が、軽いものは上に、重いものは下に移動することで、熱が移動します。

 エアコンなどで空気を暖めると、より密度が小さい空気は上に、密度の大きい空気は下に移動します。空気の温度差により発生する移動で、部屋の空気がかき混ぜられるので、部屋全体の空気が暖まることになります。移動することで熱を伝える、気体や液体を「媒体」といいます。

 エアコンやファンヒーターなど、温風を生成して空気を動かすタイプの暖房器具は、対流を利用しています。また、床暖房も、床の近くの空気を伝導で暖めることで、上昇させる対流も利用して、部屋の空気を暖めています。


●放射(輻射)
 熱源から放出された電磁波が物質に届いて吸収されることで、吸収した側の物質の分子の振動が大きくなり、温度が上がります。ストーブ、遠赤外線セラミックヒーター、ハロゲンヒーター、こたつなどは、発熱体から放出される赤外線などの電磁波で、身体を暖めます。また、放射式の暖房でも、発熱体に触れている空気には伝導で熱が伝わって暖まるので、そこから対流が発生することで、部屋全体の空気もゆっくり暖まっていきます。

暖房器具が部屋の空気や私たちを暖める時の熱の伝わり方も、この中のいずれかの伝わり方を利用しており、どの伝わり方を利用しているのかは、電気器具の種類によって異なります。



■ 遠赤外線は身体の芯を暖めない?

 「遠赤外線」とは、電磁波の中でも、目に見える光(可視光)よりも波長が長い「赤外線」のうち、波長が3ミクロン〜1,000ミクロン程度のものをいいます。波長がそれよりも短い赤外線は、「近赤外線」といいます。



 「遠赤外線暖房器具は身体の芯まで暖まる」とよく言われますが、遠赤外線が身体の奥深くまで届くわけではありません。遠赤外線の波長は人の身体、特に皮膚の分子の振動の周波数に合っているため、身体の表面でよく吸収されるのです。だいたい200ミクロンの深さまででほとんど吸収されて熱に変わります。この熱が、体表面近くにある毛細血管を流れる血液などを通して身体の内部に効率よく伝わるので、身体の表面だけではなく、奥の方も暖まるのです。

■ ハロゲン・カーボン・セラミックスの違い

 「遠赤外線」をうたっているヒーターの中には、ハロゲンヒーター、カーボンヒーター、セラミックヒーターなどの種類がありますが、「ハロゲン」「カーボン」「セラミック」は、発熱体の種類を表しています。

 ハロゲンヒーターは、発熱体にハロゲンランプを使っており、カーボンヒーターは発熱体に炭素繊維を使っています。発熱体の種類によって放出される電磁波の波長のピークが異なっており、カーボンヒーターの方がハロゲンヒーターよりも放出される赤外線の波長が長めで、遠赤外線が多くなっています。

 セラミックヒーターは、発熱体自体がセラミックの場合もありますが、多くの場合は他の発熱体をセラミックで包んで加熱することで、遠赤外線を放出しています。セラミックは加熱すると、人の皮膚が吸収しやすい波長の遠赤外線をたくさん放出します。

 なお、「セラミックヒーター」と商品名についているものの中には、遠赤外線で直接暖房するのではなく、セラミックで暖めた空気をファンで放出して空気を動かし、室内の空気の温度を上げるしくみの暖房器具もあります。これは正しくは「セラミックファンヒーター」なので、購入する時にはどちらなのかよく確認しましょう。

■ どうやって暖房器具を使い分けるの?

 さまざまな暖房器具がありますが、「空気を暖めるのか、身体を暖めるのか」「全体を暖めるのか、局所的に暖めるのか」を意識することで、効果的に使い分けることができます。

 朝起きた時や、外出から戻ったときなど、室内が冷え切っている時に、部屋全体の空気を暖めるのは時間がかかります。手っ取り早く暖かくなるためには、身体を直接暖める「伝導」や「放射」を利用した暖房器具、具体的にはこたつやヒーターが効果的です。

 一方で、部屋全体を快適な温度にするためには、エアコンやファンヒーターを利用して空気を動かすのが効果的です。対流を効率的発生させるためには、サーキュレータをぜひ活用してください。
 

【 参考情報 】

■テクの雑学 第153回 扇風機とはここが違う! 〜サーキュレータを使って暖房費を節約〜


 部屋全体をエアコンで暖めつつ、身体を暖めるヒーターやこたつを併用するのが、快適と節電を両立するためのコツです。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
 

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