テクノ雑学

第173回 地下の熱を「汲み上げる」 地熱発電の仕組み

自然エネルギーへの注目が高まる中、特に火山国の日本では有望と注目されているのが、地熱発電です。今回のテクの雑学では、地熱とは何か、またどうやって取り出して利用するのかを見ていきましょう。

タービンを地熱の力で回す発電機

 以前、「テクの雑学」でとりあげた手回し発電機では、「電磁誘導」という現象を利用して、磁石の間に置いたコイルを回して発電していることを紹介しました。磁石とコイルの位置関係は相対的なので、コイルを固定して磁石を回転することでも同じように発電できます。私たちが日常使う電力を発電している発電所にある発電機は、コイルの中にある磁石に「タービン」という大きな羽根車を接続して回転させることで発電しているのです。
 

【 参考リンク 】

■テクの雑学 第163回 電池切れでも安心! 〜手回し式発電機の原理〜


 タービンを回転させるためには、流体(液体と気体の総称)を羽根車にぶつける必要があります。水をぶつけて回転するのが水車、風をぶつけて回転するのが風車、水などの液体を沸騰させた時の蒸気をぶつけて回転するのが蒸気タービン、石油などを燃焼させて生成したガスをぶつけて回転するのがガスタービンです。日本の発電所で、現在最も多く使われているのが蒸気タービンで、火力発電のほとんどや、原子力発電がこれにあたります。
 

 


 今回とりあげる「地熱発電」も、蒸気タービンを利用して発電します。蒸気を発生させるための熱として、地球内部にある「地熱」を利用するのです。

 世界で初めての地熱発電実験に成功したのはイタリアで、1904年のことでした。その後イタリアでは、1913年に商業発電所を完成し、運転を開始しています。日本でも、地熱発電の研究は戦前から行われており、1925年には試験発電に成功していました。わが国で最初に本格的な商業規模の地熱発電を行ったのは、1966年に完成した岩手県松尾村の松川地熱発電所です。

地熱はどこにあるの?

 地熱は地球内部にある熱ですが、地表近くでは火山のマグマや温泉として現れています。元になっているのはマグマの熱であり、地下水が熱せられて上昇することで、温泉や噴気地帯が発生します。


 地下深くに比べて地表近くは圧力が低く、温度も低いため、熱せられた地下水に溶けていた鉱物などが結晶化しやすくなります。時間が経つと、温水や蒸気が地表に吹き出していた岩の割れ目が詰まってしまい、地下から立ち上っていた蒸気や温泉が外に出られなくなってしまいます。

 その結果、地下数km程度の深さに、地表に出てこられない熱水や蒸気の「たまり」ができます。これを地熱貯留層といいます。



 現在の地熱発電の主流は、地熱貯留層の熱エネルギーを利用しています。地表から地熱貯留層に穴を通すと、蒸気や熱水を取り出すことができるので、これを利用してタービンを回すのです。タービンを回したあとの水は、地中に返します。

地熱発電の方式

 現在実用化されている地熱発電には、地熱貯留層から取り出す蒸気と熱水の状態によって、「ドライスチーム」「フラッシュサイクル」「バイナリーサイクル」の3つの方式があります。

<ドライスチーム>
 得られた蒸気がほとんど熱水を含まない場合、簡単に除湿してそのままタービンに誘導し、タービンを回します。

<フラッシュサイクル>
 得られた蒸気に多くの熱水が含まれている場合、汽水分離器で蒸気を取り分ける方式です。取り分けた蒸気でそのままタービンを回す方式をシングルフラッシュサイクル、蒸気を分離した後の熱水を減圧してさらに蒸気をとりだし、追加でタービンに投入する方式をダブルフラッシュサイクルといいます。シングルフラッシュサイクルの方が、構造が単純ですが、ダブルフラッシュサイクルの方が発電効率は良くなります。


 日本ではシングルフラッシュサイクルが主流ですが、ダブルフラッシュサイクルの発電所もいくつか存在しています。

<バイナリーサイクル>
 地下の温度や圧力が比較的弱く、熱水しか得られない場合には、アンモニア、フロンなどの水よりも沸点の低い媒体を熱水で加熱して沸騰させ、その蒸気でタービンを回します。


 そのまま使用するには温度が高い温泉のお湯を利用して、温度を下げる際の余剰エネルギーを発電に利用する「温泉発電」も、バイナリーサイクル方式の一つです。

岩を砕いて発電する?高温岩体発電

 地熱発電では、地熱を取り出すために、「水分」「岩の割れ目などの貯留層構造」「熱源」が必要です。地下水が入り込むような割れ目構造がないような場合は、マグマなどで熱せられた岩があっても、その熱を取り出すことができません。そのような場所の地熱を利用するための技術が、「高温岩体発電」です。

 熱い岩がある地下深くまで井戸を掘り、そこに高圧の水を注入することで岩盤に割れ目を生じさせ、人工的な貯留層を造成します。どこまで貯留層が広がっているかを破壊音の観測によって推定し、もう一つ井戸を掘って熱水や蒸気を取り出します。最初に掘る井戸を注入井、熱を取り出すための井戸を生産井といいます。地表に取り出した熱水は、発電に利用したあとに生産井から再度戻します。

 国内ではまだ実用化はされていませんが、すでに技術的課題は解決しているとされており、38GW以上(大型発電所40基弱に相当)におよぶ資源量が国内で利用可能と見られています。また、オーストラリアではこの方式による発電所の建設が進められています。

正しく「熱を戻す」ことが大事

 発電に利用した後の熱水や、タービンを回した後に発生する水(復水)を正しく地下に戻さなくては、地熱貯留層が枯れてしまい、地熱がうまく取り出せなくなります。温泉地などでは、今まで湧いていた温泉の水温が下がってしまったりといった悪影響が出てしまうことになります。

 とはいえ、CO2を排出せず、環境負荷が低いという点は、地熱発電の大きなメリットです。特に火山国の日本においては、国産エネルギー資源として、地熱は有望な選択肢の一つだと言えます。



著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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