テクノ雑学

第172回 コンパクトで高画質なレンズ交換式デジタルカメラ!〜ミラーレス一眼について知る〜

デジタルカメラ市場に変化が起こっています。従来は「一眼レフ」と「コンパクト型」で棲み分けていたデジタルカメラ市場ですが、ここ数年の間に登場した第三の勢力「ミラーレス一眼」型がシェアを伸ばしているのです。調査会社などの発表によると、2011年上半期の「レンズ交換式カメラ」のうち、約30%程度をミラーレス一眼が占めているようです。

 家電量販店などのデジタルカメラ売り場を覗いてみても、ソニーの「α NEX」シリーズ、パナソニックの「LUMIX DMC-G」シリーズ、オリンパスの「PEN」シリーズ、ペンタックスの「Q」といったミラーレス一眼製品を前面に押し出した展示が目立ち、お客さんの興味もそちらに向いている印象があります。今回は、そんなミラーレス一眼の構造について説明したいと思います。

そもそもカメラのルーツとは

ミラーレス一眼は、その名の通りにミラーレス=鏡を持たない構造の一眼カメラを指す言葉です。では、なぜカメラの中に鏡が入っていて、それがないと何が起こるのでしょうか。
 今日的な「カメラ」のルーツは、1839年にフランスで市販された「ジルー・ダゲレオタイプ」に求めることができます。ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが発明した「銀板写真」技術をもとに、ダゲールの義理の兄弟であるアルフォンソ・ジルーが開発した撮影器具がジルー・ダゲレオタイプです。レンズは固定式で、撮影しようとする像のピント調整は、入れ子構造になっているボディの後部箱部分を前後に動かし、後端部の「ピントグラス」に写る像で確認しながら行っていました。

二眼レフカメラの構造(断面図)


 この構造を改め、いわゆる「光学式ファインダー」を初めて搭載したカメラは、1886年にドイツのルドルフ・クリューゲナーが考案した「シンプレックス・マガジンカメラ」とされています。撮影用レンズに加えてもう一本のレンズを備え、レフレックスミラー(反射鏡)によって撮影しようとする像の範囲をカメラ上部に設けたピントグラス部分に投影、明確な像を確認しながら撮影ができるようにしたものです。その後、構造面に改良を加えて小型化した「ローライフレックス」が1929年に登場し、これが今日でも中判以上のカメラで用いられている「二眼レフ」のルーツとなりました。「二眼」はレンズが2本あること、「レフ」はレフレックスミラーを備えていることを指しているわけです。

■ 一つで二つのレンズ機能

一眼レフカメラの構造(断面図)


 これに対して、1本のレンズが撮影用とファインダーへの撮像用を兼ねる構造のものを「一眼レフ」カメラと呼んでいます。その原型は、1861年にイギリスのトーマス・サットンが考案したとされていますが、実用的な形としたのは、1885年にアメリカのカルビン・レイ・スミスが考案した「パテント・モノキュラー・デュプレックス」とされています。レンズが1本で済むので、ボディの小型化、軽量化の面で有利であり、後にロールフィルムや35ミリフィルムが開発されたことで、さらに小型化が進みます。
 そして、レフレックスミラーが撮影後すぐに元の位置に戻る「クイックリターンミラー」、鏡像=左右逆像だったファインダーの像を正像にする「ペンタプリズム」の採用によって、私たちが慣れ親しんでいる一眼レフカメラの基本構造が固まることになります。諸説あるところですが、このような一眼カメラの構造のルーツは、1949年に東ドイツ(当時)のツァイス・イコン社が発売した「コンタックスS」とする見解が主流となっています。

 余談ですが、フィルムカメラにも「ミラーレス」構造のものは存在していました。コンパクトカメラなどでは、小型化やコストの都合から、レフレックスミラーによる光学ファインダーを使わず、レンズから独立したファインダーを備えるものが主流となっていたのです。そのため、ファインダー越しに撮影したはずの光景と実際に撮影した像にズレが生じる「パララックス(視差)」という現象が付き物でした。
 その対策として、視野率(ファインダーに映る範囲と、実際に記録される範囲の比率)を小さめにしておき、被写体が切れてしまうことを避けるといった手法が使われていましたが、近くにあるものを撮影する際にはどうしてもズレが生じがちだったものです。

 

■ デジタルカメラも元々はアナログ?

 さて、デジタルスチルカメラ(以下、デジタルカメラ)、いわゆる「デジカメ」のルーツは、1975年にイーストマン・コダック社で試作されたものとされています。CCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)イメージセンサを使って光学情報を電気信号に変換し、カセットテープに記録するという構造のものでした。続いて1981年にはソニーが電子スチルビデオカメラ「マビカ」試作機を発表、同時に公開された規格に沿って、1986年にはキヤノンが「RC-701」を市販します。ただし、これらは記録媒体にフロッピーディスクを使うものの、記録はアナログ方式だったので、「デジカメ」とは呼びにくい感もあります。また、たいへん高価だったため、実質的に報道用などプロユーズ専用だった印象があります。

 記録までデジタル方式で行う「デジカメ」の元祖は、1988年に富士フイルムが発表した「FUJIX DS-1P」ですが、これは残念ながら市販には至りませんでした。また、1991年にはイーストマン・コダック社が、ニコンの一眼レフフィルムカメラをベースにCCDを組み込んだ、世界初のレンズ交換式デジタル一眼レフカメラ「プロフェッショナル・デジタルスチルカメラシステム DCS」を市販しましたが、これも実質的に報道などのプロ専用製品でした。

 デジタルカメラを広く一般ユーザーへ普及させるきっかけになったのは、1995年にカシオ計算機から市販された「QV-10」です。そしてこのQV-10が採用した「液晶モニタによるライブビュー」機構が、今日のコンパクトデジタルカメラの原型となったのです。

 QV-10は、開発工程で小型のテレビをファインダー代わりとしたところ、これが好評だったことから、撮影済み画像チェック用の液晶モニタをファインダー兼用とする構造に至ったと伝えられています。デジタルカメラのイメージセンサからは、常に撮像用の信号が送出されているので、それを液晶モニタなどに表示すれば、わざわざ光学ファインダーを使わなくても、撮影しようとしている像そのものが確認できます。光学ファインダーが不要ということは、すなわちレフレックスミラーも不要ですから、QV-10はミラーレス構造を実現していたわけです。さらに、レンズ部とモニタ部の角度を変えられる「スイベル構造」のボディを採用するなど、新しい写真の撮り方を提案したことが、デジタルカメラの普及を大きく促進することとなりました。

 ただし、当時はまだ液晶パネルの価格が高価で、QV-10のモニタも1.8型というサイズに留まっていたのが難点ではありました。その弱点を補うため、QV-10以降に登場したコンパクトデジタルカメラでは、独立式ファインダーを備えるものも少なくなかったのですが、液晶パネルの価格下落にともなってモニタの大型化が進んだことで、液晶のみとするものが主流となってきたわけです。
 

■ 一層進むデジタル化の波

一眼レフカメラとミラーレス一眼の構造の違い


 2000年代に入ると一眼レフの分野でもデジタル化が進められてきましたが、ユーザー層の指向から「光学ファインダーを覗きながらシャッターを切る」という昔ながらのスタイルが定着しているせいなのか、レフレックスミラーによる光学ファインダーを備えるものが主流を占めてきました。そこに一石を投じたのが、2008年に発表された「マイクロフォーサーズ」という、一眼レフ用レンズおよびレンズマウントの規格です。

 マイクロフォーサーズ規格は、先行して2002年に発表されていた「フォーサーズシステム」規格の拡張版にあたるものです。フォーサーズシステムは、カメラ本体やレンズの構造を、フィルムとは異なる特性を持つイメージセンサに最適化することを目的に提唱された規格です。そして、マイクロフォーサーズは、より一層の小型コンパクト化のための拡張規格と考えていいでしょう。

 マイクロフォーサーズでは、フランジバック距離(レンズマウント面からイメージセンサまでの距離)を大幅に縮小したため、実質的にミラーレス構造が前提となっています。いわば、コンパクトデジタルカメラの構造をベースとしながら、より大きなサイズのイメージセンサを搭載でき、かつレンズ交換を可能とするような構成が特徴です。この構造の利点をフルに活かす設計によって生み出されたのが、マイクロフォーサーズ規格による初の製品となったパナソニックの「LUMIX DMC-G1」であり、オリンパスの「PEN E-P1」なのです。
 ただし、ソニーのα NEXシリーズはマイクロフォーサーズ規格ではなく、デジタルビデオカメラと共通性を持つ「Eマウント」を採用し、イメージセンサもフォーサーズシステムが提唱する4/3型ではなく、APS-Cサイズを採用しています。また、ペンタックスの「Q」は、フォーサーズシステム提唱のものより小さい1/2.3型を採用し、コンパクトデジタルカメラと同等サイズのボディでレンズ交換を可能とするなど、各社とも特徴のある製品を送り出している点も、ミラーレス一眼に注目が集まっている理由の一つです。

 ミラーレス一眼の魅力をまとめると、従来の一眼レフに対しては大幅にコンパクト化されたボディ、コンパクト型に対してはレンズ交換が可能なこと、大型イメージセンサを搭載していることがアピール点となります。これらの特徴から「入門用一眼レフ」と「レンズ一体式ハイエンド品」の間に割って入るようなポジションを占めており、従来はそのいずれかを購入していた顧客層を確実に獲得しているようです。今後はコンパクト、ミラーレス、高級一眼レフ、という棲み分けが進むことになると予想しますが、レンズ交換が可能であるがゆえに、ホコリなどの異物浸入といったトラブルが起こる可能性があることなど、製品の特徴点は理解しておいていただきたく思います。そして最大の難点は、続々と登場してくる魅力的な交換用レンズが欲しくなってしまうことかもしれません。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

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