テクノ雑学

第171回 どんどん普及しているLED電球の「明るさ」について知る

東日本大震災以降の電力不足をきっかけに、家庭で利用している電球をLED電球にすでに買い換えたり、買い換えを検討している人も多いようです。2011年6月には、全国で販売された電球のうち、数量で43.5%をLED電球が占め、月間でははじめて白熱電球を上回りました(GfKジャパン調べ)。

 しかし、LED電球に交換すると「今まで使用していた電球と同じワット数相当のLEDに換えたのに、なぜか部屋が暗くなった」という人が多いのも事実。ずいぶん安くなったとはいえ、白熱電球に比べるとまだ高価なLED電球を買う時に失敗しないよう、「LED電球の明るさ」表示の意味と、正しいLED電球の選び方についてみてみましょう。

そもそも、LED電球の明るさ表示って?

ところで、LED電球の売り場に行った人が最初にとまどうのは、「ルーメン(lm)」という単位ではないでしょうか。従来の白熱電球では、明るさの目安として「ワット(W)」の数字が記載されていましたが、LED電球のパッケージに「明るさ」として大きくかかれている数字はルーメンです。「電球○W形相当」という表記も併記されているものもありますが、同じ「60W形相当」と書いてあっても、製品によってルーメンの表記がまちまちだったりで、いったい何を信じていいのか分からなくなってしまう人も多いと思います。

 「ルーメン」は、明るさの単位で、「光源から単位時間あたりに放射される光束(光の量)」を表します。明るさに関係する単位には他に「カンデラ(cd)」と「ルクス(lx)」がありますが、「カンデラ」は、特定の方向に向けて放射されている光束を表しています。照明器具の光束は、全方向に均一に放射されるわけではないので、カンデラの値も、どの方向から測定するかによって異なってきます。また、「ルクス」は、ある面に照射される光束を表しています。1ルーメンを1㎡に照射すると、その場所の平均光量は1ルクスになります。




 ワットは本来、消費電力を表す単位であり、明るさの単位ではありません。白熱電球の場合「ワット」が明るさの目安になるのは、電球の場合、1ワットあたりの発光量を表す「発光効率」がどのメーカーの製品でもほぼ一定なので、ワット数が分かればルーメンに換算できるからです。60Wの白熱電球の明るさをルーメンで表すと、約800ルーメン程度となります。

 LED電球と白熱電球の発光効率を比較すると、白熱電球がおおむね10〜20程度であるのに対し、LEDの場合は80〜100程度と高くなっています。発光効率100lm/WのLED電球で、60Wの白熱電球と同じ800ルーメンの明るさを実現するには、消費電力は計算上、8Wとなります。発光効率が高いので、LED電球は白熱電球に比べて、省電力で明るくなるのです。LED電球の発光効率は現在も技術開発によりまだ上がり続けているので、今後さらに省電力のLED電球が出てくると期待されます。

■ ではなぜ、LEDにすると暗く感じることがあるの?

 「だけど、白熱電球からLEDに変えると、同じワット数相当のものを選んだのに部屋が暗くなったり、なんとなく雰囲気が変わってしまう」と感じることはよくあります。その理由は、LED電球の構造にあります。

 LEDは「Light Emitting Diode」(発光ダイオード)の略で、通電すると光を発する半導体のことをさしています。LED素子が発した光を、光を広げるための特殊なレンズを通して拡散することで、電球面全体が明るく輝いて見えるのです。


 LED電球では、白熱電球のように可視光にならないエネルギーが赤外線などで放出されるわけではないので、通常の電球で熱くなる「光っている面」からの熱の放出はありません。しかし、LED素子を発光させるための電気回路からの発熱があり、図の下半分の「ヒートシンク」で熱を放出しています。

 電球の中にあるフィラメントが輝いて、その光をガラス越しに放射する白熱電灯に比べると、電球内にセットされたLED素子の光をレンズを通して見ているLEDとでは、光を放射する向きに偏りがでてきます。



 上図のように光が放射されるので、LED電球では通常、電球面の正面にあたる部分は明るくなり、側面や背面は暗くなります。すなわち、下向きに取り付ける照明の場合、真下は明るく、真下から離れると暗くなるのです。

 LED電球のパッケージには「直下照度」として、真下に一定距離離れた時の照度(ルクス)を元に、白熱電灯○W形相当という表記をしている商品があります。ダウンライトのように、電球の光をほぼ真下で受けるような照明であれば、その表記で問題ないのですが、電球そのものの明るさとしては、横や上に発する光束の分がないので、暗くなっています。つまり、「60W相当」のLED電球でも、実際の光束の量は、30Wの白熱電球と同じぐらいしかないということが起こるのです。

 また、相当するワット数を全光束の量(ルーメン)で表示していても、光の向きが白熱電球とLED電球では異なるため、LED電球に交換することで、電球からの方向によっては暗く感じる場所が出てきてしまうこともあります。

■ 配光特性に注意しよう

 「交換してみたけれど、思っていたより暗い」ということを避けるためには、LED電球を選ぶ時に、「実際にどの向きに光が強く放射されるのか」を表す「配光特性」を考慮することが重要になります。この“向き”による光の強さを表したのが「配光図」で、LED電球のカタログや、店頭に掲示している商品説明に記載されています。



 従来の一般的な白熱電球では、図の中の「全般配光」に近い形で光が放射されているのに対し、多くの照明用LED電球では、図の中の「準全般配光」に近い形で光が放射されています。また、製品によっては、さらに光の向きを絞り込んだ配光になっているものもあります。

 LED電球の配光特性はメーカーや製品によっても異なりますが、配光図を見て、実際の光り方のイメージをある程度は比較できます。店頭のサンプルで点灯してみても、直下の明るさは分かっても実際に部屋の明るさがどのようになるかは分かりにくいので、カタログやパッケージの情報をよく見て購入するよう心がけましょう。

■ その他のLED電球選びのポイント

 ここまでは明るさに着目して、LED電球の特性を見てきましたが、他にも以下のような点に注意する必要があります。

【色】
 蛍光灯の場合は、黄色がかった「電球色」、白に近い「昼日色」、青白い「昼光色」の3種類が用意されていることが多いですが、LED電球の場合、シリーズごとに「昼日色」または「昼光色」のいずれか一方と、「電球色」が用意されていることが多いです。同じ消費電力・発光効率なら、明るく感じるのは昼光色、昼日色、電球色の順になっています。

 照明は、光の色によってイメージが変わります。昼光色はシャープな感じ、電球色は柔らかい感じ、昼白色は自然な白い光となっています。よくある失敗が「明るく感じる方がよいと思ってダイニングルームに昼光色の照明を使ったら、青っぽい光で食べ物があまりおいしそうに見えない」というもの。明るさだけでなく色も考慮して、使用する場所によって使い分けるとよいでしょう。

【消費電力】
 LEDの場合、技術開発がまだ途上なので、製品によって発光効率が大きく異なっています。また、同じシリーズでも、発売時期によって発光効率が異なり、同じルーメンでも消費電力は大きく異なっています。長期間使うと電気料金の差も出てきますので、よく確認しましょう。

【重量】
 確認を忘れやすいのですが、重要な点です。LED電球は、電子回路が中に入っているので、白熱電球よりも重くなっています。白熱電球をLED電球に交換する場合、照明器具の重量上限や天井の荷重限界を超えないように注意しましょう。

 省電力で長寿命なLED電球ですが、それだけに、間違った選択をしてしまうと、買い換えるにしても「まだ使えるものをムダにしてしまう」ことになります。できるだけ失敗のないよう、選ぶ時の参考にしてください。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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