テクノ雑学

第168回 CMOSでデジタルカメラのトレンドを探る 〜夜景などの暗い場所でも高画質な映像の撮影が可能〜

デジタルカメラ関連の技術は、その進歩の早さに驚かされることが多いものです。最近のトピックスとしては、「ミラーレス一眼」と「裏面照射型CMOS」の普及があげられるでしょう。今回は、そのうちの裏面照射型CMOSについて取り上げたいと思います。

 デジタル撮影機器を使って「写真」や「動画」のデータを記録する上では、「撮像素子(イメージセンサ)」と呼ばれる半導体が重要な役割を果たしています。レンズに飛び込んできた光を「絞り」を通じて受け取り、「フォトダイオード」と「アンプ」によって電気信号に変換してから、画像処理用半導体へ転送するのが撮像素子の役割です。基本的な仕組みについては以前に解説したので、重複する部分も出てきますが、その点はお含みおきいただければと思います。

 

 

【 参考情報 】

 

 

■テクの雑学 第82回 「CCD or CMOS? −撮像素子の特長−」

CCDとCMOSの構造の違い

 

さて、ここ3年ほどの間で、撮像素子の主流はCCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)イメージセンサからCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサに切り替わってきました。「CCD」や「CMOS」は回路の構造を示す用語で、イメージセンサとして用いる場合、どちらも主要な構成要素は同じです。具体的には、光を集める「オンチップ集光レンズ」、受け取った光の特定の波長だけを通すことで色データに変換する「カラーフィルタ」、光の強弱を関知し、強さに応じた電荷を発生(光電変化)させる「フォトダイオード」、フォトダイオードが発生した電荷を増幅する「アンプ(増幅装置)」などで構成されています。また、信号線(伝送路)の配置が水平(行)方向と垂直(列)方向で構成されている点も同じです。

 CCDイメージセンサ(以下CCDと略)とCMOSイメージセンサ(以下CMOSと略)の最大の違いは、フォトダイオードで発生した電荷を増幅して電圧=電気信号に変換する工程です。CCDは、フォトダイオードで発生した電荷を各列同時に「垂直レジスタ」へ移動させた後、順番に送り出しながらアンプで増幅します。このことから、CCDの信号処理は「バケツリレー式」などと呼ばれます。これに対してCMOSは、フォトダイオード1個ごとに用意されたアンプで電荷を増幅してから転送し、さらにアンプで増幅してから画像処理用半導体へ送ります。

■ CCDとCMOSの特徴

 両者の構造的な特徴は、性能面での一長一短となって現れます。CMOSは、電荷をあらかじめアンプで増幅してから送るため、転送中の信号劣化が小さく、ノイズが乗りにくくなります。また、通常のLSIと同様の製造工程で作れ、アンプや転送用回路など、撮像のために用いるさまざまな仕組みをすべて1個の半導体チップの中に作り込む「システム・オン・チップ」化が可能なことも大きなメリットです。1個のチップで多くの処理が行えるので、半導体の集積度が高まるにつれて処理速度が高速化できますし、消費電力の点でも有利。新たな機能を盛り込むことも容易で、生産設備にも汎用性があるため、コスト面で有利になります。反面、各アンプとスイッチごとの特性のバラツキによる「固定パターンノイズ」や、フォトダイオードが受光を開始/終了するタイミングが個別にバラバラであるために起こる撮像の歪みといった弱点の克服が課題となっていました。  対するCCDは、すべてのフォトダイオードが同じタイミングで受光し、終了するので画像は歪みませんし、電荷を増幅するアンプが一つなので固定パターンノイズも生じません。デメリットとしては、処理速度を高めるために電源を複数用意し、さらに高い電圧での駆動が必要なので、消費電力が大きくなってしまうことがあげられます。また、製造工程が特殊なのでコストも高くなりがちです。

 このような一長一短な性能を持つことから、2005年ごろまでは、デジタルカメラなど画質が優先される機器にはCCD、携帯電話やインターネット電話用ビデオカメラなど、画質よりもサイズやコストが優先される機器にはCMOSが用いられることが一般的だったわけです。

■ デメリットを克服して進化するCMOS

 その後、新たな技術の導入によって、CMOSは着々と弱点を克服してきました。フォトダイオード間で受光/終了のタイミングがまちまちなことに起因する問題は、機械式シャッターを使うことで、すべてのフォトダイオードを同時に受光/終了させて解決しました。固定パターンノイズや「暗電流ノイズ」はやっかいな問題でしたが、これも撮像前にノイズ成分となる電荷を別の場所に追いやっておき、撮像分の電荷と分離してから伝送する、といった技術で解消にこぎつけました。

 こうしてデメリットを克服したCMOSは、システム・オン・チップ化による高速駆動とさまざまな機能の追加が可能で、かつ製造コストも抑えられる撮像素子として生まれ変わりました。とはいえ、当初は機械式シャッターやノイズ抑制用ロジックなどの導入によってコストが高くなってしまったため、まずは高級一眼レフタイプのデジタルカメラから導入が始まったわけです。

 ただし、さらに高画質な撮像を実現するための課題は残っていました。中でも大きかったのが、画素数を増やしたり、高速作動を実現しようとすると、構造的に光を集める効率が低下してしまいがち、という問題です。




■ ポイントは積層構造

 CMOSは、特定の機能を持つ「層」がいくつも積み重ねられた「積層構造」になっています。従来型CMOSを断面で見てみると、レンズ側から順に、オンチップ集光レンズ→カラーフィルタ→トランジスタや配線→フォトダイオード&アンプという具合に積層されていました。問題は、トランジスタや配線などの層が3〜4層も積み重なっていることです。この層には光を通すための穴が開けられているのですが、集光レンズに入ってきた光が配線にぶつかって遮られたり、層の表面で屈折したりするため、フォトダイオードに届く光の量が減ってしまうという問題がありました。さらに、画質向上のために画素数を増やすと、一画素あたりの面積が小さくなるので、問題がより顕著になりますし、処理速度を高めるために配線層を増やすと、ますます光が届かなくなってしまいます。これがCMOSの、いっそうの高画質化、高速化を阻む大きな課題となっていたのです。




 課題解決のためのブレイクスルーとなったのが、「裏面照射型」構造の採用です。SONYが2010年に量産を開始したCMOSイメージセンサ「Exmor R」は、従来の構造を大きく変更し、レンズ&フィルタの直下にフォトダイオードを配置しました。トランジスタや配線などの層は、その下側(画像処理用半導体側)に位置します。部品として見た場合、フォトダイオードは基板層の裏面に位置しているので「裏面照射型」と呼ばれます。このような構造とすることで、フォトダイオードに届く光の量が大幅に増え、デジタルカメラで言うなら同じ撮影シーンにおいてより速いシャッタースピードで、もしくは絞りをより絞った状態で撮影することが可能となりました。

 裏面照射型CMOSは、発想自体はわりと以前からあったのですが、このような構造とすることで新たに生じる問題も少なくなかったため、実用化が待たれていた技術です。たとえば、チップ上ではフォトダイオードが大半の面積を占めるため、他の部品や配線は非常に狭い場所にレイアウトする必要がありました。従来構造のままで裏面照射型にしてしまうと、従来とは異なる原因によるノイズの発生、暗電流の増大、カラーフィルタとの距離が近付くことで「混色」が生じるといった問題があったのです。
 そのような問題を解決するため、裏面照射型CMOSでは部品の配置や配線の方法から見直し、裏面照射型構造に最適化することで、実用化を達成したわけです。

 現在、裏面照射型CMOSは普及価格帯のデジタルカメラはもとより、携帯電話用カメラにも採用が進んでいます。「暗い場所でもはっきり撮れる」といったキャッチフレーズが付いているカメラなら、裏面照射型CMOSを搭載している可能性が高いと考えていいでしょう。特に室内で撮影する機会の多い方は、次のデジタルカメラには裏面照射型CMOS採用の機種を選ぶことをオススメしておきます。「ひょっとして、撮影の腕前が上がった?」と思えるような、シャープな写真が撮れるはずですよ。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

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