テクノ雑学

第167回 待機電力が発生する仕組みとは?

この夏、「家庭で手軽にできる節電」として推奨されているのが、使用していない電化製品が消費している「待機電力」を減らす節電です。節電のために主電源を切ろう、コンセントを抜こうといわれていますが、そもそもなぜコンセントをさしているだけで電気が消費されるのか、そして実際に、どのくらい節電できるのかを考えてみましょう。

そもそも待機電力ってどのくらい使っているの?

待機電力の正体に迫る前に、そもそも私たちは待機電力をどのくらい使っているのか、数字で見てみましょう。少し前のデータですが、平成20年度(2008年)に財団法人省エネルギーセンターが作成した「平成20年度待機時消費電力調査報告書」によると、家庭の年間消費量4,734kWhのうち、待機電力は約6%の年間285kWhを占めています。




 電気代に換算すると年間約6,877円(※東京電力・従量電灯B料金・第三段階単価を基に試算)となりますから、ちりも積もればで結構な金額になりますね。

 最も待機電力を使っているのはガス温水機。次いで、エアコン、電話機、HDD(ハードディスクドライブ)・DVDレコーダ/DVDプレーヤなどとなっています。


なぜ待機電力が発生するの?

 待機電力が発生する理由は、大きく3つに分けることができます。

【理由1:機能を維持するため】
 使用していない時の電気機器も、たとえば時計を液晶で表示している場合は、電気が必要になります。メモリの内容を保持して、次回起動時に以前と同じ状態から動作を開始したり、あるいは予約タイマーを動かしておくといった機能を利用するためにも電気が必要になります。

【理由2:指示待ちのための待機電力】
 代表的なのが、リモコンの受信機です。リモコンでスイッチを入れると電源が入るためには、受信部分は常に電源が入っていないといけません。

【理由3:接続するだけで電気を消費する仕組み】
 後で説明しますが、携帯電話のACアダプタなどは、コンセントに接続するだけで、常時小さな電力が消費される仕組みになっています。

 では、待機電力を減らすには、どうすればよいのでしょうか。まず、一番確実に減るのは、コンセントを抜いてしまうことです。次いで、リモコンで操作するものは主電源を切る、省エネモードを活用するといった対応が有効です。

 続いて、実際に待機電力を使用している電気機器は、それぞれどのようなことに電気を使っているのでしょうか。それによって、効果的な節電方法が変わってきます。

 

<ガス温水器の場合>

 「ガスで動くのに待機電力を一番使っている」ということで、ちょっと驚かれた方も多いかもしれません。ガス温水機でお湯を沸かすのにはガスを使いますが、湯沸かし器を操作するパネルや、センサ類の動作などさまざまなところで電力が必要なのです。

 ガス給湯器の多くは、電源が入っているときは、操作パネルに時計、湯温、設定などが常時液晶で表示されています。台所と風呂の両方に給湯しているような機種では、両方で液晶が付きっぱなしになります。また、機種によっては、電源が入っていると、お湯の温度センサが動作するため、電気が必要になります。さらにエアコンや床暖房などにもつながっている場合、もっと待機電力は大きくなります。

 ガス給湯器の場合、はめ込み式になっており、コンセントを抜くことはできません。使わないときは主電源を切って、液晶や不要なセンサの動作を止めることが節電につながります。

<エアコンの場合>

 エアコンの待機電力ですぐに減らせるのは、リモコンの待ち受けのための待機電力です。これは、主電源を切ることで節電できます。しかし、「主電源を切るよりもっと節電を」と、コンセントを抜いてしまうと、エアコンの場合にはトラブルの原因になることがあります。

 エアコンは、室外機と室内機の間を循環する「冷媒」と、室内外の空気が熱のやり取りをすることで空気の温度を調整します。冷房の場合は、室内の空気の熱を冷媒に移し、室外機でその熱を排出して冷媒を冷やします。冷たい冷媒を室内機に送り込むことで、再び室内の空気の熱を受け取るのです。

 効率よく冷暖房を動作するためには、冷媒が循環路の中に偏りなく存在してスムーズに循環していなくてはいけません。ところがエアコンで使用されている冷媒は、およそ30℃以下になると、熱容量の大きいコンプレッサや室外交換機といった部品に溜まりやすい性質があります。室外機の特定の部分に冷媒が溜まる現象を「冷媒寝込み」といいます。

 そのため、エアコンは、コンセントを差した状態で、冷媒を30℃以上に保つように、ヒータが仕掛けられています。したがって、コンセントを差してすぐに運転すると、冷媒がきちんと循環せず、機材を傷める可能性があります。そのため、説明書には、「運転時には、コンセントを差してから8時間から12時間程度放置してください」と書かれています。

 エアコンを普段使わないシーズンオフにコンセントを抜くのは待機電力の節約に有効ですが、毎日運転するような夏・冬の季節には、エアコンのコンセントは抜かない方が無難です。フィルタのこまめな掃除や設定温度の調整で、運転中の節電を心がける方がエアコンの場合は節電効果が大きいです。

<テレビ、DVDレコーダなどの場合>

 テレビやDVDレコーダなども、エアコンと同様に、リモコン操作の待ち受けに電力が発生します。また、時計などの液晶表示を行っている場合、これも電力が発生しています。

 内蔵時計の時刻や録画予約データなどの保持にも待機電力は使われています。コンセントを抜いても影響がない機種もありますが、これは、機器内にある内蔵電池で動いているからで、古くなって電池が消耗してくると、時刻情報などが保持できず、リセットされてしまう場合があります。

 また、最近は、データ通信機能がついた機器が増えており、テレビを見ていない間に通信を行って番組表などをダウンロードしている場合があります。こうした機種では、通信のために電力が必要で、主電源を切っている場合は通信されないものもあります。

 このように、テレビやDVDレコーダなどの場合は、主電源を切ったりコンセントを抜く前に、取扱説明書をよく読んで、必要な機能に支障がないか十分に確認しましょう。また、液晶ディスプレイ表示などを消す「省エネモード」を有効に使いましょう。

 ちなみに、昔のテレビはブラウン管式だったので、スイッチを入れてすぐに映るようにブラウン管を余熱しておく必要があり、待機電力増大の大きな要因となっていました。しかし、今は液晶式やプラズマ式のテレビが主流になり、余熱の必要がなくなったので、テレビの待機電力は大幅に下がっています。ぶん 



<パソコンの場合>

 パソコンも、内蔵時計や設定情報の保持に電力を使っています。加えて、スリープモードや、スタンバイモードなどを使用している場合は、その状態を保持するためにも電力を使っています。

 主電源を切ってコンセントを抜いた状態(ノートパソコンではバッテリもはずしているもしくは空の状態)になると、内蔵時計や設定情報などの保持に内蔵電池を使用します。したがって、古いパソコンなどで内蔵電池が消耗している場合は、コンセントを抜いたりバッテリが切れるたびに時刻設定などがリセットされる可能性があります。

<充電器の場合>

 携帯電話や電子機器の充電器の大半は、ACアダプタを通して、コンセントの交流電流を直流電流に変換して供給しています。このACアダプタの中には、ACアダプタを安定動作するための回路(ACアダプタに機器が接続されているかを定期的にチェックしたり、流す電流を安定化する)があり、コンセントにつながっている限り、この回路を動かすための電流が必要になっています。

 充電器を使っていないときは、抜いても何の問題もありません。これは、待機電力節約のために抜くべきです。

<温水洗浄暖房便座の場合>

 洗浄用のお湯を沸かすのと、便座の保温に電気が必要になります。コンセントを抜いてしまうと、使用時に差してもすぐにはお湯が出なくなりますので注意しましょう。最近は、省エネモードで夜間などあまり人が使わない時間帯には電源を自動で切って節電する機種もあります。また、節電に有効なのが、便器のふたを閉めることです。保温に大きな効果があります。

 常に温水を使いたい人は、コンセントを抜いてはいけません。水が冷たくてもよければ、暖房便座が不要なシーズンはコンセントを抜いても大丈夫です。旅行などで長期に留守にする場合は、抜いたほうがよいでしょう。

思わぬところでトラブルに注意

 なお、コンセントを頻繁に抜き差しすること自体が、プラグとコードに負担をかけ、トラブルの原因になることもあります。コンセントを抜き差しするよりは、プラグごとにスイッチで電源を切れる節電タップを活用するのがオススメです。

 また、どんな電化製品でもいえることですが、技術の進歩によって、最新機種は数年前の機種と比較してもぐっと待機電力が減っているケースが多いのです。最初に紹介した「待機時消費電力調査報告書」でも、平成17年度に実施した前回調査に比べると、家庭の年間電力消費量は4,209kWhから4,734kWhに増えているにもかかわらず、待機電力は309kWhから285kWhに減っているのです。家電製品をこの機会に再点検して、買い替え時期が近いものは、思い切って早めの買い換えを検討するのもオススメです。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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