テクノ雑学
第166回 梅雨時期の強い味方、ハイブリッド型も登場 〜進化する除湿機〜
5月27日、関東・甲信地方が梅雨入りしました。ここ10年ほどの平均と比べると、だいたい10日ほど早く梅雨入りしたことになります。そして、気になるのは梅雨の間と、その後にひかえる夏場の電力需要です。政府は、5月13日付で電力需給緊急対策本部の会合を開き、東京電力ならびに東北電力管内の企業や家庭に対して、一律15%の節電を求める呼びかけを行いました。これが達成できるか否かは、梅雨明けの時期と、その後に続く夏場の気候が大きく影響します。
気象そのものは人類の手でコントロールできませんが、いざという時のために「備えておく」ことはできるはずです。たとえば、10年以上前に製造されたエアコンを使っている方は、ぜひ、最新の省電力型機種への買い換えを検討していただきたく思います。うまくすると、それだけで15%以上の節電が達成できるかもしれません。そして、もう一つ検討していただきたいのが、今回取り上げる「除湿機」の導入です。
節電効果だけじゃない強い味方
梅雨時のジメジメ解消や、部屋干しする洗濯物をしっかり乾かすため、エアコンの除湿機能を使う方も多いと思います。しかし、「弱冷房除湿」では室温が低くなりすぎ、少し古いタイプの機種では「再熱除湿」にヒータを使うため消費電力が大きくなる、といった問題点がありました。最新の中級以上の機種では、そのような問題は解消されていると考えていいのですが、廉価帯製品では弱冷房除湿しかできないものも多いのです。
【 参考情報 】
■テクの雑学 第146回 ますます省エネ効果を発揮するエアコンの「冷房」「除湿」の仕組み
そんな問題を解消する上で、強い味方となってくれるのが除湿機です。空気中の水分だけを取り出し、室温はほとんど変化させないので、特に低温高湿な梅雨時を快適に過ごすためには持ってこい。湿度を抑制することで、カビの発生を抑えて健康被害を防ぐ効能もあります。また、梅雨時には洗濯物を外に干せなくて困りがちですが、除湿機を使えば室内干しでもしっかり乾いてくれます。現在、大手家電メーカーが販売する製品の多くが「除湿乾燥機」と称している理由がこれです。除湿機を使っての室内干しには、洗濯乾燥機に比べて電力消費が低減でき、洗濯乾燥機のようにドラム内で躍らせないので衣類の傷みが少なく、騒音もないので夜中の運用も可能というメリットがあります。
夏場に入っても、外気温が30度程度までなら、除湿機だけで意外と快適に過ごせると思います。湿度が高いと、汗をかいても気化しにくくなるので余計に暑く感じがちですが、逆に湿度を50%程度に保てれば気化が促進され、気温はある程度高くても不快に感じにくいものなのです。
そんな効能をもたらしてくれる除湿機には、空気から水分を取り出す仕組みによって、「コンプレッサ式」「デシカント式」「ハイブリッド式」の3方式があります。以下、それぞれの仕組みについて説明しましょう。
除湿機の種類と作動原理
コンプレッサ式が除湿を行う仕組みは、基本的にエアコンと同じです。主要な構成部品は「コンプレッサ(圧縮機)」「放熱器」「冷却器」で、圧力をかけると液化する性質を持つ物質を「冷媒」として使います。コンプレッサで圧力をかけて液化した冷媒を、大きな容積を持つ冷却器内部に放出すると、冷媒は気化しながら急激に体積を増やし、その過程を通じて急激に温度を下げます。少し大げさに表現すると、体積1cm3で温度100度の液体が気化して体積を100cm3に増やしたとすると、気体の体積1cm3あたりの温度は1度にまで下がるイメージです。この「断熱膨張」効果によって冷却器の温度を下げ、周辺の空気中に含まれている水分を凝集させて回収することで、除湿を実現します。
コンプレッサ式除湿機やエアコンの仕組みを、よく「冷たいコップの表面に水滴が付くのと同じ」とたとえますが、まさにその通り。ただし、エアコンと違って除湿機には「室外機」がなく、コンプレッサの駆動用モータと、冷媒そのものが液化する際に生じる熱は放熱器を通じて大気放出します。現行機種では、この熱を洗濯物の乾燥に利用しています。
デシカント式の「デシカント:desiccant」は「吸湿剤(もしくは乾燥剤)」という意味です。焼き菓子や海苔などのパッケージに同梱されている「シリカゲル」のように、周囲の水分を自然に内部へ吸着していく性質を持つ物質を指します。
デシカント式除湿機は、まず、その名の通りに空気中の水分を吸湿剤に吸わせます。次に、水分を含んだ吸湿剤をヒータで加熱し、吸湿剤が含んでいた水分を蒸発させて、再び積極的に水分を吸着できる状態に戻す……という行程を繰り返しています。現状のデシカント式除湿機は、ほぼすべてが吸湿剤に総称で「ゼオライト」と呼ばれる物質を使っています。結晶構造の中に大きな隙間を持ち、そこにさまざまな物質を吸着する性質を持つことが特徴です。この性質を利用し、ゼオライトはイオン交換材料や触媒として多くの分野で用いられ、現在、福島第一原子力発電所の事故処理で放射性物質を含む水の浄化にも活用されています。
方式別メリットとデメリット
コンプレッサ式とデシカント式、それぞれのメリットとデメリットをあげてみましょう。まず、純粋な除湿能力で比較すると、梅雨時から夏場の高温環境下ではコンプレッサ式が優位で、ヒータを使わないので消費電力の点でも優位と評価できます。特に、リビングなど広い室内全体を除湿することが目的なら、コンプレッサ式を選ぶべきでしょう。デメリットとしては、部品点数が多いためにサイズが大きく、重くなりがちで、価格帯も高めになりがちなこと、コンプレッサの作動音が気になる場合があることなどです。また、冷却器と周辺の空気の温度差を利用する原理上、室温が低下する冬場の除湿能力には期待できません。
一方のデシカント式は、可動部品が少ないので作動時の静粛性に優れ、構造が比較的簡便なので軽量コンパクトに仕立てやすく、低温環境下でも除湿能力が低下しないので、冬場に起こる窓ガラスや壁の結露にも対応できるといったメリットがあります。デメリットとしては、設置面積あたりの除湿能力ではコンプレッサ式に劣ること、ヒータを使うので消費電力が大きく、かつ室温を上昇させがち(3度〜8度程度と言われます)といった点があげられます。全般的に、梅雨時や冬場に6畳程度までの寝室などの除湿に使う、季節を問わずに室内干しする洗濯物の乾燥を促進させたい、クローゼットなどのカビ対策といった場合は、こちらを選ぶといいでしょう。
降雪地帯に住む筆者の知人は、「雪が降る日の洗濯物は、デシカント式除湿機を使ってバスルームで室内干しするのがベスト」と言います。入浴中に洗濯機を回しておき、お風呂上りに干すようにすれば、バスルーム全体のカビ防止にもなって一石二鳥、だそうです。
ハイブリッド式除湿機の登場
ちなみに、現在はもうひとつ「ハイブリッド式」と称する除湿機も販売されています。パナソニックが採用しているもので、一つのボディにコンプレッサ式とデシカント式、両方の機構を備えています。互いの方式が持つデメリットを相殺できるオールマイティな除湿機ですが、機構が複雑な分、大きく、重く、高価になりがちなのがネックと言えます。
「エアコンの除湿機能を使えば済むのに、わざわざ除湿機を導入する意味は?」と疑問に思うかもしれません。ここで除湿能力と消費電力の比較をしてみましょう。パナソニックの最新エアコンの場合、再熱除湿が可能で「ナノイー」機能を搭載する「Vシリーズ CS-V281C(冷房時おもに10畳用)」の除湿能力は1時間あたり約900cc*1で、消費電力は440W。それに対して、やはり「ナノイー」機能を搭載するハイブリッド式除湿乾燥機「F-YHGX120(50Hz地域で使用の場合、木造11畳、鉄筋23畳まで除湿可能)」は、除湿能力が9.0L/日*2で、消費電力は1時間あたり245Wです。
【 参考資料 】
■パナソニック WEBカタログページ
それぞれ異なる条件下の計測値なので、直接比較するのは難しいところですが、大くくりに「除湿機はエアコンの半分程度の除湿能力を、半分程度の消費電力で実現できる」と判断することができます。このことから、短時間に素早く除湿するならエアコンが有利ですが、長時間に渡って湿度を一定レベルに保っておきたいなら、除湿機のほうが消費電力を抑えられ、節電に貢献できるという結論が導き出せます。
さらに、洗濯物の乾燥については、干し場のすぐ近くに置き、風を直接当てて乾かせる点が除湿機の強みです。デシカント式のコンパクト低機能モデルなら6,000円程度、コンプレッサ式の上級製品でも3万円程度から購入できるので、梅雨時から夏場を快適に、かつ節電しながら乗り切るための投資として、ご検討いただければと思います。
*1:室温24度・湿度60%、室外24度・湿度80%において「パワフル」モードで風量と風向きは「自動」、吹き出し温度24度での値。
*2:「除湿・強」モードで、室温27度・相対湿度60%を維持した場合。
著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など
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