テクノ雑学
第137回 安全な水を美味しく飲もう 〜家庭用浄水器のフィルタの仕組み〜
水道水はそのままでも安全に飲めるけど、なんだかにおいが気になる、といった人にとっては欠かせないのが家庭用浄水器です。今回のテクの雑学では、家庭用浄水器の「肝」となるフィルタの仕組みを見てみましょう。
浄水器で何を取り除いているの?
川や池、地域によっては湧水などの自然の水は取水されて浄水場に運ばれ、ゴミの除去や塩素化合物の添加による殺菌が行われ、水道水となります。日本の水道水には、水質基準と水質管理目標設定項目があり、この基準をクリアしなくては水道水として利用することはできません。「日本の水道水はそのまま飲んでも大丈夫」と言われているのは、こうした基準をきちんと守った水質管理がされているからなのです。
とはいっても、水道水には、さまざまなものが含まれており、においの原因となっています。たとえば、一番気になる「水道水臭さ」「カルキ臭」の原因は、水道水に含まれる(塩素)次亜塩素酸です。バクテリア類の殺菌と発生防止のために添加されており、蛇口から出てくる水道水には、一定以上の濃度が残留していることが定められているのです。
さらに、残った塩素は不純物と反応して、トリハロメタンなどの発がん性物質になっている可能性があります(ただし、日本の水道水に含まれる残留トリハロメタン濃度は、WHO勧告による基準よりも厳しい水質基準が設けられており、取り除かなくても健康上問題ないといわれています)。
また、浄水場から供給される水には含まれていなくても、マンションの給水タンクや家庭内の配管などにサビや雑菌などが混入する可能性があります。
水道水中の不純物がフィルタで除去され、水だけを取り出す
つまり、家庭用浄水器の役割は、何種類かのフィルタを使って、これらの成分を、水道水から取り除くことなのです。
■ 家庭用浄水器のフィルタの種類
家庭用浄水器の宣伝を見ると、さまざまなフィルタがあります。大きなゴミを取り除く「ふるい」のようなものを除くと、原理は大きく2つに分けられます。ひとつは、活性炭フィルタ、中空糸膜フィルタなどの、取り除く成分をフィルタに吸着するタイプ、もうひとつは、RO膜フィルタなどの、浸透圧を利用して不純物を分離するタイプです。
○活性炭フィルタ
炭を顕微鏡で見ると、小さな孔(細孔)が無数にあり、また表面から内部にかけて網目状の構造を形成しています。活性炭は、炭をさらに1000℃近い高温で加熱処理することで、この孔がさらに細かくなったものです。網目状構造により、体積に比べて非常に大きな表面積を持つのが特徴です。
活性炭に水を通すと、活性炭の表面からの引力(ファン・デル・ワールス力)によって、水中の微粒子が活性炭の表面に引き付けられます。引き付けられた微粒子は、表面の細孔による毛管現象により孔に引き込まれ、出られなくなります。
界面現象で引き寄せられた微粒子が、表面の細孔による毛管現象で吸着される。これらの成分を取り除くことで、水道水はよりおいしくなります。家庭用浄水器の役割は、複数のフィルタを組み合わせて、これらの成分を水道水から除去し、おいしい水を作ることなのです。
孔の大きさを調整することで、効率的に吸着できる粒子の大きさが変わるため、さまざまなものを除去できます。耐炎繊維のフェルトや織物を高温で加工することで表面を活性炭化させた「活性炭素繊維」は、粒状の活性炭よりもさらに孔が細かいので、微小な粒子を除去することができます。
○中空糸膜フィルタ
細いストロー状のポリエチレン繊維を束ねたフィルタです。ストローには細かい孔が開いており、そこに不純物の粒子が吸着されます。原理は活性炭と同じですが、小さな容積の中により大きなろ過面積が得られるため、広く使われています。
○逆浸透膜(RO膜)フィルタ
一見孔が開いていないようにみえるが、ごく小さな粒子だけを通す微細な孔をもつ「半透膜」を使ったフィルタです。その原理になっているのは、容器内を半透膜で仕切り、その両側に濃度の違う溶液を同じ液面の高さになるように入れると、濃度が低い方から高い方へ溶媒の分子が移動する「浸透現象」です。浸透現象を起こす圧力を「浸透圧」といいます。逆に、浸透圧に相応する圧力を濃度が高い方にかけることで、濃度が低い方に溶媒の分子を利用させることができます。
逆浸透膜フィルタでは、不純物の入った水に圧力をかけることで、水の分子だけを半透膜の向こう側に移動させ、不純物の濃度が高い水と、不純物の入っていない水に分離するのです。
逆浸透膜フィルタで使用される半透膜に開いている孔は、おおむね直径2ナノメートル以下となっています。ウィルスやバクテリアなどは、最も小さなものでも直径20ナノメートル程度の大きさはあるので、逆浸透膜フィルタを通過した水からは病原菌やウィルスが全て除去されていると考えてよいのです。
また、食塩中に含まれるナトリウムイオンはこの孔よりも小さいですが、水和により水分子がイオンの周囲にくっついているので、この孔よりも大きな粒子のようにふるまうため、孔を通過することができません。この性質を利用して、海水淡水化プラントで、海水から塩分を除去するためにも、高性能なRO膜フィルタが使われています。
不純物濃度が高い水は、利用せず排出する必要があるため、フィルタ内を水が通過する吸着型フィルタと異なり、通した水を全て浄化することはできません。また、水温が下がるほど同じ圧力で逆浸透膜を通過できる水の量は減るので、冬には夏よりも得られる浄化水の量が減ります。
■ 実はいたみやすい浄水器を通した水
浄水器で除去される次亜塩素酸には殺菌効果があります。つまり、浄水器を通した水は、水道水に比べて雑菌などが繁殖しやすい環境になっているのです。水はすぐに使い切り、残った場合は冷蔵庫で保存してできるだけ早く使いましょう。
また、重要なのが、浄水器の手入れです。吸着タイプのフィルタは、不純物をフィルタに吸着しているのであり、不純物が分解されてなくなってしまうわけではありません。一定以上の不純物は吸着できないので、定期的に交換しなくてはいけません。逆浸透膜型のフィルタも、孔の目詰まりや汚れが生じるので、定期的な交換もしくは洗浄が必要です。
フィルタの交換や洗浄をしなくては、浄水器は効果がないどころか、かえって安全な水道水を汚してしまうことにもなりかねません。きちんと手入れして、美味しい水を楽しみましょう。
著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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