テクノ雑学
第138回 TVと連動して、常に進化しつづける周辺機器の配線
個人的な話で恐縮ですが、引越しをしました。転居先は建物にCATVの設備が入っています。これをフルに活用する方法を考えながら調べてみたところ、ある種のCATV用セットトップボックスは「HDMI」出力端子を備えているので、TVを購入しなくても、HDMI入力端子を備えているパソコン用のフルHD対応ディスプレイを用意すれば、フルHD画質で映像が楽しめることがわかりました。
そんな経緯から、今回は家庭用TVとディスプレイに関する周辺事情についてとりあげてみたいと思います。ビデオデッキが登場するまでの間、TVの「配線」は、いたってシンプルなものでした。
基本的なTV配線の仕組みとビデオデッキの登場
同軸ケーブルとは、アンテナが受信した電波をTV内部のチューナへ伝送するための電線です。「壁からTVまでをつないでいる、黒くて少し太めのケーブル」といえば、ピンとくるでしょうか。内部の構造は、中心部に信号を伝える内部導体(銅線)があって、その周囲を絶縁体(樹脂)で覆っています。
さらに、絶縁体の外周は外部導体(細かい編み込み状の銅線)で覆い、最も外側が保護用の外被(ビニール製)になります。アンテナが受信した電波は、アンテナが備えている「給電部」によって電気的な信号に変換され、ここに接続された同軸ケーブルによって、内部導体を伝わる電気信号としてTV側に送られていきます。絶縁体は、内部導体を物理的に保護する役割と、絶縁状態を保つことで信号を安定した状態に保つ役割を持っています。外部導体は、信号を外部に漏れ出させず、逆に外部からのノイズを進入させないためのものです。なお、ここから先に出てくる端子類の詳細については、第61回でとりあげていますので、そちらもご参照ください。
【 参考情報 】
■テクの雑学 第61回「もっともっと美しく−映像端子を知ろう−」
時代が下って、ビデオデッキが登場すると、TVとビデオデッキの「配線」は、以下のようになります。
「なんだか変だ」と思う方も多いかもしれませんが、最初期のTVとビデオデッキの接続はこのようなものでした。なぜなら、当時はTVに外部から映像や音声を入力して表示させるという習慣自体がなかったので、TVが外部入力端子を備えていなかったのです。そこでビデオデッキは、内部に信号の分配器を備えて、普段はビデオデッキ側のチューナを介さずにTV側に出力、ビデオを視聴するときは、TV側で使用していないチャンネル(関東圏なら2チャンネルなど)に信号を割り込ませることで表示していました。初めて外部入力端子を備えたTVが登場したのは、1980年です。これ以降は、TVとビデオデッキの配線は以下のようになります。
■ コンポジット映像信号による省スペース化
コンポジット映像信号とは、映像を構成する要素である「色(C)」、「輝度(Y)」、そして「同期」の3種類の信号を合成した複合同期信号です。合成することによって、1本のケーブルですべての情報を送受信できるわけです。そして、外部入力端子を備えたことで、TVは画面表示に「ビデオ」といったモードを持つことになり、また、複数のビデオ入力端子を備えることで、ビデオだけではなく、ゲーム機などの接続ならびに切り替えも容易になりました。
1987年になると、S-VHSの登場に合わせて「S端子」が登場します。Sは「Separate:分離」の頭文字を取ったもので、コンポジット映像信号を、「輝度同期」と「色」に分離して送信することで、画質の向上を図ったものです。ただし、基本はコンポジット信号ですから、配線そのものは、従来のコンポジット映像用ケーブル(プラグが黄色く着色されているもの)がS端子用ケーブルに置き換わっただけでした。
■ 高画質を可能にしたコンポーネント信号
もう少し時代が下ると、映像信号を輝度(Y)、青の色差(U)、赤の色差(V)の3つに分解することで、画質をより鮮明にする「コンポーネント信号」入出力端子が登場し、TV側もビデオデッキ側も対応製品が出回るようになります。コンポジット映像信号では、色信号と輝度信号が複合されているので、どちらか一方だけを変化させることはできません。しかし、人間の目は色よりも明るさの変化に対して敏感に反応することから、色信号と輝度信号を分離し、さらに輝度信号の帯域幅を大きめに取って変化の幅を広くしておくことで、画質の鮮明さを高めることがコンポーネント映像信号の特徴です。緑の色差については、UとVとの計算によって求めることができるので、信号に含まず、その分、全体の帯域を確保しています。
コンポーネント映像信号によって画像は鮮明になりましたが、映像用だけで3本のコネクタが必要など、取り扱いが少々面倒なのが難点でした。そこで、コンポーネント映像信号を1本のケーブルで伝送するとともに、さらに機能を追加した規格が考案されます。これが「D端子」です。D端子を使ったTVまわりの配線は、以下のようになります。
ところで、D端子のDは、コネクタ形状がアルファベットの「D」の字状であることからきていて、「デジタル」とは関係ありません。内部で伝送される映像信号はアナログです。そして、実は日本の独自規格なので、日本メーカーの製品でも、海外輸出用にはD端子を持たない製品が少なくありませんし、海外製品は基本的にD端子を持っていません。コンポーネント映像信号の伝送に加えて付加された機能は、走査線数(解像度の判別)、走査方式(インターレースとプログレッシブの判別)、画像のアスペクト比(16:9か4:3かの判別)などです。これらの信号をTV側が判断することで、さまざまなコンテンツが自動的に最適な状態で表示できるようになりました。
■ 高画質、省スペースの時代とワンポイントアドバイス
そして、2004年ごろから登場したのが「HDMI」と呼ばれる端子です。HDMIはHigh-Definition Multimedia Interfaceの頭文字を取った略称で、映像信号をデジタルのままで伝送できることと、音声信号も含めて1本のケーブルで接続できるようになったことが特徴です。また、D端子対応機器の場合、ほとんどはD4(720p まで対応)までしか対応しておらず、いわゆる「フルハイビジョン」である1080pの画像は表示できないという難点がありましたが、HDMIなら1080pにも対応しています。 録画機、TVともにHDMI端子を持っている場合、接続はこのようになります。
ちなみに筆者の場合は、ディスプレイがHDMI入力端子を2系統持っているので、以下のように設定しています。
ケーブルがたった3本だけという非常にシンプルな構成で、周囲にケーブルがのたうち回るようなこともなく、すっきりと配置できています。また、HDMIを使うことによって、「配線ができない、難しい」という悩みとも決別できるはずです。また、HDMIケーブルは12mといった長さのものも市販されていますから、「HDMIセレクター」などと呼ばれる製品を使うなどして環境を工夫すれば、ケーブル1本で別の部屋のディスプレイでもコンテンツを視聴、といった楽しみ方も可能になります。
春になって新生活が始まった今、AV機器や環境の見直しを考えている方も多いかと思います。そんなときは、HDMIをフルに活用できる構成を念頭においてみていただきたいものです。家電量販店などの店員さんにしっかり相談して、コストパフォーマンスのいいAV環境を目指してください。ただし、HDMIについて一点だけ注意していただきたいのは、ケーブルの品質です。価格的にピンからキリまでありますが、一部の製品では、画質や音質が著しく劣化するようなものも存在していて、特に長めのものを購入する際は注意が必要です。ケーブル自体の品質だけではなく、機器側との相性もあるようなので、購入する前にインターネットなどで十分に情報を集めておくことをオススメします。
著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など
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