テクノ雑学

第139回 携帯電話を替えても、情報をそのまま移動できるSIMカード

携帯電話といえば、携帯電話会社別に端末を開発し、販売しているものと思われがちです。ところが、ユーザーの情報を収めた「SIMカード」を交換することで、他の携帯電話会社の端末でも自由に利用できる可能性があり、総務省が音頭をとってガイドラインを策定しようとしています。最近何かと話題になるSIMカードとは、どのようなものなのでしょうか。

電話機の中に入っている小さなカード

SIMカードの「SIM」は、Subscriber Identity Moduleの略で、契約者の情報が記録された接触型ICカードです。カードには、契約者の固有IDと電話番号が記録されています。幅15mm×奥行き25mm×厚さ0.76mm程度のきわめて小さなカードです。最近の携帯電話の筐体にSIMカードを差すことで、携帯電話と電話番号が結びつけられ、通話ができるようになります。


端子の部分を携帯電話に内蔵されたICカードリーダに接触させ、電話番号やデータを読み取る。

SIMカードを携帯電話に差したところ。抜き差しする時に電源が入っていると、データが破損する可能性があるため、多くの機種ではバッテリをはずさないとSIMカードも抜き差しできないようになっている。


 元々のSIMカードの規格では、記録できるデータ容量は64KByteと大変小さかったのですが、現在のSIMカードの容量はもっと大きくなっており、電話帳やユーザーの撮影した写真などのデータが保存できるタイプもあります。

 なお、SIMカードは、携帯電話会社ごとに独自の呼び方をもっています。たとえば日本の場合、NTTドコモは「FOMAカード」、KDDIは「au ICカード」ソフトバンクは「SoftBank 3G USIMカード」と呼んでおり、それぞれの会社から利用者に「貸与」されるという形になっています。

■ なぜ、SIMカードを導入したの?

 最初にSIMカードを採用したのは、ヨーロッパのGSMという共通の通話方式の電話です。ヨーロッパは国が小さく、1つの電話会社あたりのユーザーの数が少ないため、1つの機種をさまざまな国で共通に使える方が、メーカーにとっても利用者にとっても都合がよかったのです。
 SIMカードには電話番号と契約情報が入っているので、端末があってもSIMカードがなくては使えません。逆に、SIMカードさえ差せば、規格に互換性がある端末なら同じ電話番号で使えるのです。端末の買い替え時にも、古い端末から新しい端末にカードを差し替えれば、すぐに新しい端末が使えます。

 


 これを利用して、1枚のSIMカードを差し替えることで、1つの番号で複数の携帯電話を使い分けることができます。通常は通話用に普通の携帯電話に差しておいて、データ通信に利用したい時は、通信用USBアダプタに同じカードを差す、といった使い方ができます。

 また、海外で借りた携帯端末に自分のSIMカードを差して利用することで、日本にいる時と同じ電話番号を利用する「ローミングサービス」を利用することも可能です。逆に、自分が普段使っている電話に、現地の通信会社で販売しているプリペイドSIMカードを差して、安い通信料で通話を行うことも可能です。

 便利な反面、海外で携帯電話を落とした人が「どうせ海外では使えない電話だし、悪用されることもないだろう」と放置していたら、SIMカードだけを抜き取って現地の携帯電話で使われ、後日高額なローミングサービス料を請求されたという話もあります。便利な反面、悪用されるととても怖い仕組みなので、気をつけなくてはいけません。

■ そのままでは使えないこともある?

 さて、「カードを差し替えることで、異なる携帯電話でも同じ番号で使える」と書きましたが、実際はもう少し話が複雑です。SIMカードを抜いた携帯電話端末は、アンテナや通信用の送受信装置、スピーカ、マイクなどの機能を持っています。


 現在の日本の主要な3つの携帯電話会社のうち、KDDI(au)は、他の2社とは異なり、「CDMA方式」という、主にアメリカで使われている通信の方式をとっています。NTTドコモとソフトバンクは、主にヨーロッパで使われている「W-CDMA」方式です。
 そして、CDMA方式とW-CDMA方式では、SIMカードに記録されている情報が異なります。そのため、違う通信方式の電話同士ではSIMカードを差し替えても使えません。

 また、iモードやおサイフケータイなどの各種サービスは、SIMカードではなく、携帯電話のソフトウェアとして本体側に入っています。したがって、同じW-CDMA同士でも、NTTドコモとソフトバンクでは、通話やショートメッセージはできてもメールやおサイフケータイなどのサービスは使えないのです。
 さらに、日本の場合、主要な携帯電話会社は、それぞれ自社から出す端末に「SIMロック」と呼ばれる仕組みを導入し、自社のSIMカード以外は使えなくする代わりに、メーカーに対して開発費の一部を負担しています。この仕組みにより、端末メーカーは安い費用で高機能な端末を開発できます。

 海外では、SIMロックがされていない(SIMロックフリー)端末が数多く売られており、ユーザーは購入した端末に自分のSIMカードを差すことで、同じ番号かつ、同じ携帯電話会社の回線でさまざまな端末を自由に利用できます。また、一定の通話量まで利用できる「プリペイドSIMカード」もよく利用されています。

 しかし、海外ではSIMロックフリーで売られている海外製の端末でも、国内の携帯電話会社が輸入して販売しているものは、ほとんどの場合SIMロックがかかっており、他の携帯電話会社の回線では使用することができません。SIMロックが導入された端末と、一定期間自社のSIMカードを使うと通話料金を割り引く契約を組み合わせることで、利用者に安く端末と通話サービスを提供できる、というのが携帯電話会社の言い分です。

■ 最近話題の「SIMロック解除」とは?

 ところが最近になって、日本の携帯電話の端末もSIMロックを「解除」することで、携帯電話を自由に選べるようにしようという動きが総務省などを中心に進んでいます。SIMロック解除により、端末メーカーと携帯電話会社を利用者が自由に選べるようになるため、競争が起こり、端末の高機能化や通信料金の値下げが期待できるというのがその理由です。

 これに対し、携帯電話会社や端末メーカーは、「全ての携帯電話会社の通話方式に対応することで端末が高価になる」、「ネットサービスなどの高機能なサービスは共通化されていないので使えず、ユーザーは統一を望んでいない」といった理由で、全ての端末のSIMロックを一斉に解除することには慎重な姿勢を見せています。一方で、通信会社の中には、SIMカードだけを単体で販売し、ユーザーが用意した端末で自由に利用できるような商品を提供している会社も出てきました。

 こうした環境の中、2010年4月2日に関係各社を対象に行われたヒアリングの結果、総務省が中心となってSIMロック解除に向けてガイドラインを作成することが決まりました。2010年後半には携帯電話会社各社から新たな通信方式を導入した次世代の端末が発売されることが予定されていますが、これらのSIMロックがどうなるのかが気にかかります。今後の動向に注目したいと思います。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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