テクノ雑学

第101回 雨を降らせて晴れを作る -人工降雨の技術-

雨を降らせて晴れを作る -人工降雨の技術-

天気といえば人の自由にならないものの代名詞にもなっていますが、人工的に雨や雪を降らせる「人工降雨」が実用化されつつあります。今回のテクの雑学では、人工降雨の技術についてみてみましょう。

雨はどうして降るのか

人工降雨の原理を理解するためには、まず、雲がどのようにできて、雨がなぜ降るのかを知る必要があります。

 雲は、空気中の水蒸気が冷えて細かい水の粒(雲粒)になり、白く見えているものです。寒い日に息を吐くと、体温の暖かい空気に含まれている水蒸気が、急に冷えることで細かい水の粒になって白くみえる現象と同じ理屈です。

 空気が冷えると水蒸気が水になるのは、空気の温度が下がるほど、一定の体積の空気の中に存在できる水蒸気の量(飽和水蒸気量)は少なくなるからです。温度が下がることで水蒸気として存在できなくなった水が、細かい水の粒になるのです。

 さて、地表に比べると、高度が高いところでは、気温が低くなっています。山肌沿いの地形や、上昇気流の発生など、なんらかの原因で地表近くの暖かい空気が高いところに上昇すると、温度が下がり、飽和水蒸気量が少なくなります。ここに、空気中のチリや煙などの微粒子があると、それが種になって雲粒ができるのです。空気中の水蒸気が細かい雲粒になります。


 雲粒の大きさは直径0.01ミリ程度と大変小さいもので、重力を受けて落下しようとしますが、この程度の重さのものでは落下の終端速度(空気抵抗とつりあう落下速度)は1cm/秒程度であり、雲ができる原因となる上昇気流の速さを超えることができません。

 逆にいえば、雲粒よりももっと重く、上昇気流よりも早い終端速度を持つ水の粒ができれば、地表に向かって落下していくことになります。これが、雨粒なのです。雨粒の大きさは直径0.1ミリ〜5ミリ程度で、雲の中を上下しながら成長し、上昇気流を超える終端速度を得られると、地表に向かって落下していくのです。
 

■ 冷たい雨と暖かい雨

 雨粒は、雲粒が集まってできますが、集まり方は雲の温度によって変わります。

 雲の温度が0度以下の「冷たい雲」では、雲粒の一部は凍って、氷粒になります。氷粒の周囲にある雲粒が氷粒にくっついて凍ることで氷粒が大きく成長していき、やがて重くなって落下していきます。大きくなった氷粒が氷のままで落下すると雪に、落下途中で温度が上がって溶けると雨になります。

 一方、雲の温度が0度以上の「暖かい雲」では、氷粒はできません。雲の中を動き回る雲粒同士が衝突した時にそのまま合体してだんだん大きくなっていき、やがて重くなると落下して雨になります。


 氷粒が芯となってできる雨を「冷たい雨」、雲粒が衝突してできる雨を「暖かい雨」といいます。日本近辺で降る雨はほとんどが「冷たい雨」です。

■ 人工的に雨を降らせる

 つまり、人工的に雨を降らせるためには「雨雲を作る」仕掛けか、もしくは「雨雲から任意に雨を降らせる」仕掛けを用意できればよいのです。現在主に研究されているのは、後者の「雨雲から雨を降らせる」仕組みです。雨粒の「種(シード)」になるものを雨雲の中に散布することで雲粒を雨粒に成長させるので、「シーディング」と呼ばれます。シーディング法で使う「種」は、冷たい雨雲と暖かい雨雲で異なります。

 冷たい雨雲では、ドライアイスやヨウ化銀が使われます。ドライアイスは、雲粒の温度を下げることで種となる氷粒を作り、雨粒の成長を促します。ヨウ化銀は、それ自体が氷の結晶とよく似た形と性質で、そのまま種となって雨粒が成長します。

 一方、暖かい雨雲では、雲粒を集めるために、塩などの吸湿性の高い粒子を散布します。種に吸着される水が集まることで衝突が促され、雨粒に成長するのです。


 最初にシーディングのアイデアを考えたのはアメリカの物理学者・化学者であるアーヴィング=ラングミューア博士で、1946年には最初の実験がおこなわれています。

■ 北京オリンピック開会式の天気予報は雨だった!

 雲粒が集まって雨粒として落下するということは、雨雲が雨になるということで、雨が降ってしまえば、雨雲は消えます。つまり、特定の場所に、特定の時間に雨を降らせたくなければ、雨雲がその場所に近づく前に雨を降らせて、雲を消してしまえばいいのです。

 この方法で「晴れ」を作り出したのが、先月開催された北京オリンピックの開会式です。天気予報では当日夜の北京市内の天気予報は「雷雨」でした。そこで、中国当局は、開会式の数時間前に北京市内や周辺都市から合計1000発以上のロケットを雨雲に打ち込み、ヨウ化銀を散布して北京市周辺で雨を降らせる「人工消雨」作戦を実施しました。その結果、開会式の時間帯の北京市内は見事に晴れたのです。

 中国やロシアでは、人工降雨を水不足や干ばつの対策技術としても利用しています。日本でも、2008年6月に、四国の早明浦ダム上空に雨を降らせる実験が行われ、実用化に向けての研究がはじまっています。雨だけではなく、冬に山間部に雪を降らせることで、雪解け水を農業用水として活用するなど、「必要な時に必要な場所に水を降らせる」ための技術として活用が期待されます。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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