テクノ雑学

第103回 IPTVに関する3つの疑問〜通信と放送の融合を家庭で楽しむ新しいサービス

家庭のネットワークのブロードバンド化が進み、新しいサービスとして話題になっているのが「IPTV」。でも「IPTVってパソコンで楽しめる動画サービスとどこが違うの?」「今契約しているプロバイダーでは、IPTVは見られないの?」「今売っているインターネット対応のテレビを買えばIPTVが楽しめるの?」など、たくさんの疑問が沸いてくるサービスでもあります。今回のテクの雑学では、IPTVの仕組みと楽しみ方についてみてみましょう。

インターネットの動画サイトとIPTVって違うもの?

はたして何をIPTVと呼ぶかについてはさまざまな定義があります。広い意味では、IPネットワークを利用した映像配信サービス全般をIPTVと呼ぶこともありますが、現在では、総務省「2010年代のケーブルテレビの在り方に関する研究会」において提出されている、以下の定義が定着しています。

IPTVの定義

(主としてブロードバンド・アクセス網上に設けられた)閉域IPネットワークを通じ、STB(Set Top Box)に接続した一般のテレビ受信機等に映像を配信するサービス
(2010年代のケーブルテレビの在り方に関する研究会 第4回配布資料「IPTVの動向について」より引用)

 では、IPTVとYouTUBEに代表されるインターネットによる動画配信サービスの違いは何でしょうか。それは、映像データの配信に「インターネット」を使用するかどうかという点にあります。




 IPTVでは、映像データはプロバイダー内部の閉じたネットワークを通ってユーザーのセットトップボックスに配信されますが、インターネットの動画配信サービスでは、映像データは配信サーバーからインターネットを経由してユーザーに届きます。

 インターネットは、「ネットワーク間のネットワーク」といわれる通り、複数のプロバイダーのネットワークを網の目のように接続してつながるネットワークです。プロバイダーは、自社のネットワークについては帯域(回線速度)や通信品質についてコントロールできますが、インターネットを介してつながるサーバーまでの経路すべてについての帯域や通信品質についてはコントロールができません。

 つまり、インターネットを経由する動画配信では、アクセスが集中して回線が混雑すると、映像が途切れ途切れになったり画質が低下するといった現象が発生します。このように、通信品質については保証されないネットワークを「ベストエフォート型ネットワーク」と言います。

IPTVでレンタルDVDはもう要らない?

 逆にいえば、自社内のネットワーク上にあるサーバーからの映像配信であれば、帯域や通信品質についてはプロバイダーがコントロールでき、一定以上の映像品質を保つことができます。光回線を利用したブロードバンド接続を提供するプロバイダーでは、「インターネット接続」「IP電話」に続く第3のサービスとして、IPSP仕様(※)による「IPTV」も同時に利用できる「トリプルプレイ」をうたったサービスを提供しています。
※注:Internet Protocol Service Project(NTT、KDDIと家電大手メーカーによる非公式のワーキンググループ)が策定したIPTVの仕様

 IPTVでは、従来ケーブルテレビなどで配信されていた多チャンネルテレビ放送と、VOD(ビデオオンデマンド、ユーザーの要求に応じて配信する)サービスが提供されています。また、プロバイダーによっては、地上波デジタル放送のIP再送信サービスにも対応しています。

 VODサービスは、見たいタイトルに料金を支払うことで、一定期間中もしくは一定回数の視聴が可能になります。借りる時は自宅からリモコンで申し込みができ、返却不要なレンタルDVDというイメージが近いサービスです。

 インターネットとテレビの接続は、映像データをIP信号から映像信号に変換するセットトップボックスを通して映像端子に接続します。「インターネット対応テレビ」となっていても、そのままではIPTVを見られません、セットトップボックスは、サービスプロバイダーから自社の方式に対応するものが提供されています。

 放送される映像コンテンツのハードディスクレコーダーなどへの録画は、可能な場合と不可能な場合があります。また、可能な場合でも、「コピーワンス」など、録画回数や再生機器に制約があることが多くなっています。自分の視聴スタイルに合わせて契約前によく確認しましょう。

「アクトビラ対応」テレビでIPTVは楽しめる?

 一方で、最近はインターネットに接続してデジタルコンテンツを楽しめる「アクトビラ対応」のテレビが増えています。ところで、アクトビラはIPTVなのでしょうか。結論からいうと、アクトビラは、IPネットワークを利用した映像配信サービスですが、冒頭に紹介した「IPTV」の定義にはあてはまらないサービスです。

 アクトビラは、大手テレビメーカー複数社が設立した株式会社アクトビラが提供する、テレビ用ポータルサービスです。インターネットに接続することで、ニュースや気象情報などの情報チャンネルや、映画や海外ドラマなどのビデオを楽しむことができます。仕組みそのものは、インターネットを経由してアクトビラのサーバーから映像データをオンデマンド配信するというシンプルなもので、YouTUBEなどの動画配信サイトと同じです。


 アクトビラは、対応テレビをブロードバンドルーターに接続するだけで利用できます。ある程度以上の回線帯域があれば、プロバイダーを選ばず利用できる点が特徴ですが、ネットワーク品質が保障されないので、映像が途中で途切れたりすることもあります。2007年6月のビデオ放送開始以来利用者が急増しており、提供される番組も増えています。

標準化の動き

 「インターネット上で流れる番組をテレビで楽しむ」といっても、現状では日本国内でもIPTVとアクトビラの2つの方式が存在します。IPTVの普及を進めていくためには、配信方式の標準化やコンテンツの著作権を守るための仕組み、課金を安全に行うためのセキュリティなど、さまざまな標準化が必要です。

 家電メーカーや通信事業者、放送局などは、2008年6月に「IPTVフォーラム」を結成し、IPSP方式とアクトビラ方式を統合する形での規格の標準化を進めており、2008年9月には技術仕様書を初公開しました。また、国際的にも、「国際電気通信連合(ITU)」が標準化を進めています。

 IPTVはサービスが開始されたばかりの技術で、完全な仕様の策定までにはまだもう少し時間がかかると思われます。しかし、家庭のネットワークのブロードバンド化が進展している昨今の状況から、放送と通信の融合の流れは止まらないと思われます。テレビの新しい楽しみ方として、今後の動向が注目される技術です。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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