テクノ雑学

第91回 「インターネットの住所変更」がやってくる! −IPv6とは何か−

世界中に広がるインターネットにつながる端末の数はどんどん増えていますが、現在のネットワークの仕組みをそのままにしておくと、近い将来接続に必要な「IPアドレス」の枯渇によりネットワークの拡大が止まってしまうと予想されています。この問題を解決するのが、「IPv6」という仕組みです。

IPアドレスは、インターネット上の「住所」

手紙を出す時にはあて先の住所を書かなくてはいけないのと同じで、ネットワーク上で2台のコンピューターが通信する時には、まず、通信の相手を特定しなくてはいけません。インターネット上では、「IPアドレス」という番号をネットワーク上にある全てのコンピューターに割り振って、互いに通信する時に相手を特定しています。

 とはいっても、人間がネットワークを扱う時に、世界中に無数にあるコンピューター一つひとつに割り振られたIPアドレスを直接指定するのは困難です。そのために考えられた仕組みが、DNS(Domain Name System)という仕組みです。

 インターネットは、会社、学校、インターネットプロバイダーなどの「ドメイン」が構成しているネットワークを互いにつなぐことで世界中のコンピューターをつなぐ「ネットワークのネットワーク」です。そのため、IPアドレスとコンピューター名の対応も、ドメインごとに管理するのが原則となっています。

 とはいっても、IPアドレスをそれぞれのドメインが勝手につけては、インターネット上に同じIPアドレスが複数存在することになってしまいます。そうならないように、ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という機関が頂点となって、全世界のIPアドレス割り当てを統括しています。ICANNの下に5つの「地域レジストリ」と呼ばれる管理機関があり、さらにその下にある国・地域別の管理機関がそれぞれの担当する地域のIPアドレスを管理します。

 日本国内で利用されるドメイン名やIPアドレスは、JPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)が管理しています(実際の運用管理業務は株式会社日本レジストリサービスに委託)。JPNICは、日本に割り当てられたIPアドレスについて、IPアドレス管理指定事業者(インターネットサービスプロバイダーなど)に対して管理を委託します。IPアドレス管理指定事業者は、ネットワーク利用を希望するドメインに対して、自社が委託を受けたIPアドレスの中から、そのドメインで使用する範囲のIPアドレスの番号を割り当てます。

 各ドメインは割り当てられたIPアドレスの範囲内で、自分の管理するコンピューターに自由にIPアドレスとの対応付けをします。ドメインごとにコンピューター名とIPアドレスの対応を登録した辞書の役割をするサーバーを「DNSサーバー」とよび、ドメインごとに設置する決まりになっています。コンピューターと相互に通信したい時は、まず最初にDNSサーバーに問い合わせることでIPアドレスを調べ、通信します。DNSサーバーに登録する名前は、ホスト名とドメイン名の組み合わせです。例えば、TDKのウェブサーバーの名前は「www.tdk.co.jp」ですが、この中で「www」はホスト名、「tdk.co.jp」はドメイン名です。

 また、DNSサーバーは、自分以外のドメインのDNSのIPアドレスの情報も持っており、他のドメインのコンピューターと通信したい時は、DNSサーバー同士の通信でIPアドレスを調べる役割もします。皆さんのパソコンからこのページを見るときには、まず、皆さんのコンピューターが接続されているネットワークのドメイン(会社やプロバイダー)のDNSサーバーが、いくつかのDNSサーバーを経由して最終的にtdk.co.jpのDNSに対して「www.tdk.co.jp」のIPアドレスを問い合わせてIPアドレスを特定し、通信をしているのです。

住所が足りなくなってきた!

 現在インターネットで使用されているIPアドレス「IPv4」(Internet Protocol version 4)では、IPアドレスを「192.168.0.1」のように、0〜255までの数字4つの間を3つのピリオドで区切って表記します。4つの数字の組み合わせに見えますが、その実態は32ビットの2進数(1または0を32個並べた数字)です。32ビットのアドレスは2つに区切られており、左側がドメインごとに固定の「ネットワークアドレス」、右側がコンピューターごとに割り当てられる「ホストアドレス」となっています。区切りの位置を変えることで、ホストアドレスに割り当てるコンピューターの台数を変えることができます。

 32ビットということは、2の32乗、約43億通りの数字の組み合わせがあるので、原理的にはインターネット全体で43億のコンピューターに別々のIPアドレスを割り当てることができるはずです。インターネットができた当初はこれだけあれば十分だと考えられていましたが、実際にネットワークが普及してくるととても足りないということが分かってきました。

 43億というと、とてつもない数に思えますが、世界の人口が現在56億人ですから、1人に1つもないわけです。会社や社会システムを支えるコンピューター、家電などがインターネットに接続されると、絶対に足りなくなることは想像がつくでしょう。この問題は1990年代前半には指摘されていましたが、当初の予想をはるかに超えた速度でIPアドレスの枯渇は進んでいます。JPNICが2007年12月に出した「IPv4アドレス在庫枯渇問題に関する検討報告書」によると、2010年末から2011年頃には日本も含むアジア・太平洋地域で、さらに2013年には世界全体でも、新たに使えるIPアドレスはなくなってしまうと予測されています。

IPv6の考え方「住所がなければ増やせばいい」

 「割り当てられるアドレスの数が足りない」という問題に対して、「足りないなら桁数を増やしてアドレスの数そのものを増やせばいい」というのがIPv6(Internet Protocol version 6)の考え方です。従来、32ビットだったIPアドレスを128ビットに拡張することで、2の128乗個(340兆の1兆倍の1兆倍)という事実上無限大のIPアドレスを利用できるようになります。

 IPv6では、128ビットのIPアドレスを「グローバルルーティングプリフィックス」「サブネットアドレス」「インターフェイスアドレス」の3つの部分に区分します。グローバルルーティングプリフィックスとサブネットアドレスをあわせた左側64ビットはドメインごとに固定となり、IPv4の「ネットワークアドレス」に相当します。インターフェイスアドレスの長さは64ビット固定で、こちらはドメイン内で自由に利用できます。

 IPv6アドレスの表記は、16ビットをひとまとめとして4桁の16進数にした数字8個を、コロンで区切って表記しますが、それでも長いので、さまざまな省略規則が決められています。

IPv6で何が変わるか

 IPv4がIPv6に変わることで、さまざまな機器がIPネットワークに接続できるようになります。その時大きな問題になるのが、「それぞれの機器が利用するIPアドレスを誰が管理するのか」ということです。IPv6では、「アドレス自動構成」という仕組みを用意しています。

 IPv6では、MACアドレス(工場出荷時にネットワークインターフェイスに付与される番号)にもとづいて、そのネットワーク内の通信でだけ使える「リンクローカルアドレス」を生成し、同じネットワーク上にいるコンピューター全部に対して自分のアドレスを送信します。リンクローカルアドレスと、インターネット上の通信で使用する「グローバルユニキャストアドレス」は、先頭の64ビットを見ることで区別できるようになっています。ネットワーク上に必ず存在するはずのIPv6ルーター(ネットワークから他のネットワークへの出口になっているコンピューター)、送信元になっている機器に対して、「ルーター通知」で64ビットのプリフィックス(そのネットワークに割り当てられたグローバルルーティングプリフィックスとサブネットIDをつなげたもの)を送信します。プリフィックス64ビットとリンクローカルアドレスの下64ビットをあわせて、「グローバルユニキャストアドレス」が自動的に構成されます。

 将来的にIPv6ネットワークが普及して、対応する機器が増えると、テレビ、ハードディスクレコーダー、エアコン、照明など家庭内のありとあらゆるものがインターネットにつながり、自由に通信できるようになります。エアコンのスイッチを入れたり、ハードディスクレコーダーに予約録画を入れたりといったことが、インターネットを通してどこからでもできるようになるのです。

 他にも、IPアドレスフォーマットの固定化によるルーティング処理(あて先の振り分け)の高速化や、セキュリティの向上など、さまざまなメリットがあります。

問題点と今後の普及の見込み

 ところで、いいことばかりに見えるIPv6ですが、既にIPv4でつながれたインターネットを一気にIPv6に置き換えることは容易ではありません。ハードウェアやソフトウェアのIPv6対応、DNSのIPv6アドレス登録など、さまざまな課題が山積みです。

 とはいってもIPv4アドレスの枯渇はもう数年後に迫っており、メーカーやインターネットサービスプロバイダーは、徐々に準備をはじめています。いくつかのインターネットサービスプロバイダーはIPv6による接続サービスを開始していますが、その多くはデュアルスタック(IPv6とIPv4両方に対応)です。最近発売されているコンピューターやネットワーク機器も、ほとんどが、デュアルスタック対応です。マイクロソフトの最新OS「Windows Vista」も、両方をサポートしています。

 財団法人電気通信端末機器審査協会(JATE)の調査によると、国内のインターネットサービスプロバイダーの多くが2011年頃をめどにIPv6接続サービスを開始したい意向を持っています。当分の間インターネット上ではIPv4とIPv6の両方が利用できると思われますが、ネットワーク全体の効率的な利用を考えると、いずれは企業や家庭のネットワークも全てIPv6に対応しなくてはいけません。今後数年間は、インターネット利用者としても、情報収集に努める必要があります。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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