テクノ雑学
第93回 ゲームは一人で遊ぶものじゃない -ゲームがネットワークでつながる仕組み-
コンピューターゲームといえば一人でコントローラーを握って遊ぶもの、というイメージがありますが、最近は、インターネットに接続したゲーム機で、画面の向こうにいる人と一緒に楽しむ方が増えています。今回の「テクの雑学」では、コンピューターゲームがつながる仕組みをみてみましょう。
「つないで一緒に遊ぶ」ゲームの歴史
コンピューターネットワークで接続されたパソコンで複数のユーザーと遊ぶ「オンラインゲーム」は1990年代前半からコアなゲームファンの中では知られていました。一般に認知度が高まったのは、1996年後半から1997年にかけて発売された「ディアブロ」と「ウルティマオンライン(UO)」のサービス開始です。
特にUOは、既に確立されていたゲームの「ウルティマシリーズ」の世界観に基づいて構築されたゲームシステムで、複数のプレイヤーが同時にひとつの世界に参加する「多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game:MMORPG)」という、インターネットで接続されたゲームならではの楽しみ方を可能にするゲームとして、大いに注目されました。日本ではちょうどインターネットが一般家庭に普及しはじめていた時期であり、NTTの「テレホーダイ」サービス(23時から8時までの間、あらかじめ指定した電話番号への通話料金が月額固定になるサービス)の開始に伴い、比較的年齢層の高いパソコンユーザーを中心に徐々に広まっていきました。
コンシューマーゲーム機で遊ぶオンラインゲームのパイオニアは、2000年12月に発売された、セガのドリームキャストをプラットフォームとする「ファンタシースターオンライン(PSO)」です。コンシューマー機で遊べる本格的なオンラインゲームということで、これまでパソコンやインターネットに縁のなかったゲームプレイヤーが、「ゲームの中で出会った人と一緒に遊ぶ」オンラインゲームの楽しさに触れた作品でした。
そして2002年5月、スクエア(現・スクエアエニックス)から、人気の「ファイナルファンタジーシリーズ」のオンラインタイトル「ファイナルファンタジーXI」が発売され、国産初のMMORPGとして多くのプレイヤーを獲得しました。当初のプラットフォームはプレイステーション2のみでしたが、その後Windows版、XBOX版が発売され、マルチプラットフォームのMMORPGとしてその基礎を築きました。また北米版、ヨーロッパ版も発売されており、海外のユーザーとも同じ世界で遊ぶことができます。
その後、ADSLやケーブルテレビなど、一般家庭にもブロードバンド常時接続が普及していくのに伴い、数多くのオンラインゲームタイトルが発売されています。
一方で、コンピューターネットワークを使わず、ゲーム機同士を接続して遊ぶゲームもありました。よく知られているものは、1996年に発売された「ポケットモンスター」です。携帯型ゲーム機同士を専用ケーブルで接続することで、育てたモンスターの交換や対戦ができます。モンスター集めの楽しさに、多くの子供たちが夢中になりました。
2004年に発売された携帯ゲーム機のニンテンドーDSとプレイステーションポータブル(PSP)では、ケーブルではなく無線による接続をサポートしています。「友達同士がゲーム機を持ち寄って一緒に遊ぶ」という以外にも、さまざまな接続が可能になりました。たとえば、2005年に発売されたニンテンドーDSの「nintendogs」では、ワイヤレス通信機能を利用した「すれ違い通信」により、道ですれ違った人のDSで育てている犬が自分のDSに遊びにくるというユニークな機能で、大人気となりました。
■ 接続形態でみたネットワークゲームの分類
ここまで見てきたとおり、複数のゲーム機をつないで遊ぶゲームには、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは、「ゲーム端末(パソコンやゲーム機)がネットワークを介してゲームサーバーと通信する形式(クライアント-サーバー型)」で、もうひとつは「ゲーム機同士が直接通信する形式(ピアツーピア・P2P型)」です。
現在サービスされているクライアント-サーバー型のゲームのほとんどは、インターネット上にあるゲームサーバーにゲーム端末が接続するタイプのものであり、インターネットを通した接続が大前提となります。
したがって、ゲーム端末にはインターネットに接続するためのネットワークカードやインターネットに接続するためのIPアドレスが必要になります。プレイヤーの操作はネットワークを経由してサーバーに伝わり、その結果がネットワーク経由で端末に戻ってきてゲーム画面に表示されます。
つまり、ゲームのシステムは、インターネット上にある「ゲームサーバー」とゲーム端末にインストールされた「クライアントソフト」が一体となって動作しているのです。サーバーの運営はゲーム運営会社に任されており、メンテナンスなどでサーバーが停止している時間は遊ぶことができません。
P2P型接続のゲームは、もともと専用ケーブルでゲーム機をつないでいた仕組みの延長であり、ゲーム機同士が一時的に通信(アドホックネットワーク)できれば遊べるようにできています。接続の形式はゲーム機によって異なり、特に規定はありません。ゲームのプログラムはゲーム機で動いているソフトで完結するので、接続さえできればいつでも遊べるのが、クライアント-サーバー型のゲームとの大きな違いです。
■ インターネットを通してP2P型ゲームがつながる
最近発売されている携帯ゲーム機では、接続用の無線通信の規格として、パソコンで使用するのと同じWi-Fi(無線LANの接続規格IEEE802.11bの愛称)を使用できるようになっています。任天堂では、公式のサービスとして、ニンテンドーDSやWiiで、Wi-Fiを使って離れたところにいる人とP2P接続型のゲームを遊ぶためのサービス(Wi-Fiコネクション)を提供しています。
無線LANが使える環境であれば直接、使えない環境であればパソコンの専用アダプタを通してインターネットに接続し、Wi-Fiコネクションサーバーを通して、同様に接続している他のプレイヤーのゲーム機と接続します。Wi-Fiコネクションサービスでは、接続だけでなく、同じぐらいのレベルの相手と対戦できるマッチングサービスや、「ともだちコード」で自分の知り合い(お互いの「ともだちコード」を教えあっているプレイヤー)とだけ接続できるサービスが用意されています。
「モンスターハンターポータブル」シリーズなどの、PSPのアドホック通信モードを使うP2P型のゲームは、そのままインターネット経由で接続することはできず、電波の届く距離でしか通信できません。Wi-Fiコネクションサービスのような公式の接続サービスは用意されていませんが、「XLink KAI」などのアドホック通信を中継する「トンネリングサービス」を利用することで、インターネットを通して離れたところにいる人と通信が可能になり、協力プレイや対戦プレイができます。
アドホック通信モードでゲーム機から発信されている信号をインターネットに接続されたパソコンで受信し、そのまま専用ソフトを通してインターネット上にあるトンネリングサーバーに中継します。トンネリングサーバー上では、互いにマッチする信号を中継しているパソコン同士の通信を接続することで、ゲーム機同士のP2P接続を確立します。
Wi-Fiコネクションやトンネリングサービスを利用することで、近くにいない人とも、P2P接続型のゲームを一緒に楽しむことができます。無線LAN技術で、ゲームの楽しみ方がまたひとつ増えました。
著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など
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