テクノ雑学

第90回 Webで動画を楽しもう! −Flashムービーとコーデック−

「YouTube」や「ニコニコ動画」など、「動画投稿サイト」がすっかり定着しました。ユーザが自由に動画を投稿でき、他のユーザがWWWブラウザで鑑賞できるタイプのWebサイトです。

手軽になったWeb動画の鑑賞

ネット経由の動画鑑賞をここまで一般化させた功労者は、やはりWebブラウザ用プラグインソフトの「Adobe Flash Player」でしょう。ネット上で動画を公開・閲覧するための仕組みは、WWWの普及期から数多く展開されてきましたが、YouTubeがここまでポピュラーな存在になった理由は、1)世界的にブロードバンド回線環境が整いつつあったこと 2)誰もが自由に投稿できる手軽さ 3)WWWブラウザにFlash Playerさえインストールしておけば、特別な設定なしで動画を楽しめる気軽さ によるところが大きいはずです。
 

■ Flashの登場

 「Adobe Flash」のルーツは、FutureWave Software社が1996年に発表したアニメーション作成ソフト「FutureSplash」にまでさかのぼります。1997年、マルチメディアコンテンツ用オーサリングツール「Director」で頭角を現していたMacromedia社がFutureWave社を買収。FutureSplashはMacromedia社のリッチコンテンツ用統合環境「Shockwave」の一部「Shockwave Flash」と位置付けられ、おもにWebブラウザ上でアニメーション環境を実現する技術として、Webブラウザ用プラグインソフト「Flash Player2」とともに公開されます。ちなみに「Flash」は「FutureSplash」が語源です。
 その後、1998年のバージョン3ではインタラクティブ・コンテンツに対応するなど、バージョンアップとともに機能を拡張。2005年にMacromedia社がAdobe Systems社に買収されてからは「Adobe Flash」として、Webアプリケーション統合環境にまで発展しています。
 その機能のひとつとして実現されたのが、通称で「Flashムービー」と呼ばれる動画ファイル環境です。Flashのバージョン6からサポートされ、代表的な拡張子から「FLV形式ムービー」とも呼ばれるこの動画ファイルフォーマットは、ファイルサイズに対する画質の良好さなどから、ネット上で公開される動画の事実上の標準の座に就きつつあるといっても過言ではありません。
 

■ コンテナ構造

 さて、FLV形式ファイルも、他の動画ファイルフォーマットと同様、「コンテナ構造」を採用しています。コンテナ構造とは、さまざまな種類・形式のデータをひとまとめにして格納でき、定義に沿ってプレーヤーで再生できる構造を指します。

 通常、動画ファイルを再生するためには「コーデック」と呼ばれるソフトウエアが必要になります。コーデックは「COmpressor DECompressor」の略で、動画や音声データのエンコード(符号化)とデコード(復号)を、双方向に行える装置やソフトウエアを指します。現在、デジタル動画の標準である「MPEG」も、音声ファイルの「mp3」も、コーデックの一種です。

 なぜ、コーデックが必要になるかといえば、多くの場合、動画ファイルの映像部分や音声部分は「圧縮」が行なわれているからです。

 

■ 動画圧縮の技術

 


デジタル動画ファイルも、構造的には映画のフィルムと同じく、「少しずつ変化する静止画の連続表示」によって実現されています。仮に静止画のサイズが320×240ドットで、色彩がRGB各8ビットのフルカラーだとすると、1枚あたりの容量は225キロバイト程度になる計算です。動画の場合、1秒間に約30フレーム、つまり静止画30枚を表示しますから、225キロバイトの30倍で1秒あたりの容量は約6.7メガバイトに。1分間ならさらに60倍で約400メガバイト、つまり3分間の動画で1.2ギガバイトものファイルサイズになってしまいます。このような容量のファイルは現実的ではないことから、動画ファイルはさまざまな方法でファイルサイズを節約する「圧縮」が用いられているのです。

【 参考リンク 】

■テクの雑学 第6回 精緻なる現代の“ぱらぱらマンガ” −デジタル放送のからくり−


 動画圧縮の方法には、「フレーム間予測」「動き補償」「両方向予測」「離散コサイン変換」「可変長符号化」などがあり、多くのコーデックは状況に応じて複数の手法を組み合わせて圧縮を行なっています。
 それらの基本になっているのは、動画を前後のフレーム間で「変化する部分」と「変化しない部分」に分け、変化しない部分は使い回してしまい、変化する部分、つまり差分だけを送信する、という考え方です。イラストの例でいうなら、背景も含めてすべての情報を持っているフレームと、差分である「動いている自転車+人物の部分」だけを情報として持つフレームとに分けて記録することで、「圧縮」を行なっているわけです。

 また、コーデックには非常に多くの種類があり、それぞれに対応するプレーヤーを開発するのは非効率です。そこで、データの符号化(圧縮)と復号に関する動作はコーデックに任せてしまい、ファイルの構造や再生などの動作に関するお約束だけを規格化したものが、コンテナ形式フォーマットの動画ファイルです。
 たとえば、Windowsの標準的な動画ファイルフォーマットであるAVI形式では、動画部分にWindows Media Videoだけでなく、DV、Motion JPEG、MPEG-4(DivX、Xvidなど派生版を含む)など、さまざまなコーデックを用いることができます。音声部分もリニアPCM、ドルビーAC3、mp3など、やはりさまざまなコーデックによるものが使用可能です。
 ちなみにMPEGやWindows Media Videoなど、符号/複合化の規格であると同時にコンテナの規格になっているものもあります。

 当然、圧縮のために使われているコーデックがパソコンにインストールされていないと、その動画ファイルは再生できません。そんな場合は、フリーソフトの「真空波動研」などを使うと、足りないコーデックを調べることができます。コーデックは1種類ずつインストールするのが基本ですが、複数をまとめてインストールできるパッケージも公開されているので、これを利用すれば手軽に多くの形式の動画を楽しむことができます。また、Generic社がフリーで公開している「GOM Player」のように、自身が主要なコーデックを内蔵することで、多くの動画形式を再生できるプレーヤーもあります。

 

■ FLV形式の動画を作成

 さて、FLV形式ファイルも動画・音声にコーデックを使っていますが、その仕様は公式には公開されていません。YouTubeやSMILEVIDEO(ニコニコ動画の標準アップロード先)は、手持ちの動画をサーバにアップロードすると自動的にFLV形式に変換してくれるのですが、その機能に頼らず、自分で高画質なFLV形式動画を作りたいと思った場合は、少々不自由してしまうものです。そこで、以前からネット上で有志が解析を行なってきた結果、だいたいの構造が判明してきたので、参考までに掲載しておきます。
 ただし、これらのコーデックをインストールしてあっても、通常のメディアプレーヤーではFLV形式動画ファイルを再生できない場合が多いのが難点。気に入ったFLV形式動画をローカルに保存して再生したい場合は、対応をうたっているプレーヤーか、Adobeが開発中のアプリケーション実行環境「AIR(Adobe Integrated Runtime)」を利用したツール類の利用、といった手があります。

 作成のためには、以下のようなツールも登場しました。もう1年も経てば、さらにさまざまな環境が整うことも期待できます。
 

【 参考リンク 】

■ニコニコムービーメーカー



著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」(ナツメ社)など

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