テクノ雑学

第74回 エアコンの友 −インバータの役割−

暦の上ではもう秋ですが、今年の猛暑はまだまだエアコンのお世話になる日が続いています。エアコンといえば、最近の機種には必ずといっていいほど内蔵されている「インバータ」。蛍光灯でもおなじみですが、どこがよいのか、なぜ省電力なのか、その仕組みをみてみましょう。

交流と直流

インバータとは「逆変換」という意味です。交流電流を直流電流に変換する装置を「コンバータ」といいますが、その逆の変換を行う装置です。インバータの説明の前に、交流と直流についておさらいをしておきましょう。

 電流とは文字通り「電子の流れ」ですが、常に一定の方向に流れている電流を直流、向きが交互に入れ替わっている電流を交流といいます。乾電池の電流は直流、家庭用コンセントの電流は交流です。

 発電所からの送電に交流電流が使われるのは、大電力を送るのに交流の方が都合がよいからです。電圧を高く、電流を低くすることで、送電線の抵抗で生じる発熱によるロスを減らすことができます。交流では、トランス(変圧器)というコイルを利用した装置で、電圧のコントロールが容易にできるため、高電圧の送電に適しているのです。

 家庭用電気製品には「50Hz」「60Hz」という記載がありますが、これは、対応した交流周波数(電流の向きが入れ替わる回数)をあらわしています。電力会社から供給されている交流電流は、東日本と西日本で周波数が異なっているのです。

 なぜそんなややこしいことになっているかというと、明治時代に輸入された発電機の仕様に由来しています。関東にはドイツ産の50Hzの発電機、関西にはアメリカ産の60Hzの発電機が輸入され、別々に普及していったからなのです。

 現在、富山県、長野県、富士川以西の静岡県から西は60Hz、新潟県、群馬県、富士川以東の静岡県から東は50Hzの電気が送られています(県境付近では一部異なる場合もあります)。最近の電気製品は両方の周波数に対応していますが、古いものではどちらか一方にしか対応しない場合もあるので、注意が必要です。
 

インバータの役割

 さて、本題に戻りましょう。直流の電流を交流の電流に変換する「インバータ」が、なぜ、快適・省電力なエアコンに欠かせないのでしょうか。

 インバータ導入前のエアコンは、温度センサとスイッチの組み合わせで、「設定した温度までは冷やす」「設定温度に達したら運転を止める」「温度が上がったらまた運転して冷やす」の繰り返しで温度を調整していました。そのため、気温が安定せず、また電力消費も多くなっていました。

 エアコンのコンプレッサで使われているモータは交流モータですが、交流モータは周波数によって回転数が変わります。つまり、モータに流す交流電流の周波数を連続的に変えることができれば、モータの回転速度を連続的に変えることができます。そのために利用されるのがインバータなのです。

 インバータを利用して周波数を変化させる事で、設定温度よりも気温が高いときは高速に回転し、設定温度に近づいたら回転数を落とすことで、早く気温を安定させ、なおかつ電力も節約できるのです。


■ 一度直流にしてから交流へ?

 実際には、家庭用コンセントから供給される電気は交流なので、インバータを利用するためには、「コンバータ」を使って交流を直流に変換し、再度「インバータ」で交流に戻す必要があります。少々ややこしいですが、家庭用電気器具に内蔵されている「インバータ」は、この2つを組み合わせて「家庭用電源の交流の周波数を任意に変化させる回路」という意味にとらえてよいでしょう。

インバータの全体図

コンバータの仕組み

 コンバータは、一方向にしか電流を流さない「ダイオード」を組みあわせた回路です。

 

コンバータの原理


 図の中の三角形と直線を組み合わせた記号がダイオードです。三角形の底辺から頂点に向かう方向には電流が流れますが、逆の電流は流れません。

 A→Bに電流が流れる時(オレンジの線)とB→Aに電流が流れる時(水色の線)では、ダイオードによって電流が通る経路が変化するので、結果として、接続された抵抗には常に同じ向きに電流が流れる、すなわち直流電流になります。
 

インバータの仕組み

 インバータの原理は、直流電流の流れる方向を「スイッチ」で切り替えることで、直流を交流に変換します。
 

インバータ回路の仕組み

 4つのスイッチを切り替える周期を変えることで、図の上半分の状態と下半分の状態が切り替わる周期、すなわち交流の周波数が変化します。

 また、電圧を変化させるためには、同じ組のスイッチのon/offの比率を変えます。


 

 こうして、スイッチのon/offで、「向き」と「電圧」の両方をコントロールできるのです。実際には、スイッチには高速に動作する半導体素子を利用します。

蛍光灯のちらつき防止にもインバータ

 家庭用電気器具で、エアコンと並んでインバータが多く利用されているのが、蛍光灯です。蛍光灯のインバータは、ちらつき防止と省電力のために導入されています。

 通常の家庭用電源でそのまま蛍光灯を点灯すると、蛍光灯は1秒間に50回または60回の振動にあわせてちらつくことになります。「インバータ蛍光灯」は、インバータを使って20000〜50000Hzという高い振動数の電気に変換することで、ちらつきを感じさせなくします。

 また、周波数が高くなる=光が消えている時間が短くなるので、同じ電力でも明るくなります。つまり、より少ない電力で同じ明るさの照明ができるので、節電にもなるのです。また、インバータ蛍光灯なら、周波数と電圧を連続的に変化させられるので、明るさを連続的に変える調光も可能になり、多彩な照明を楽しむことができます。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

 

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