テクノ雑学

第75回 地面の揺れを記録する −地震計の仕組み−

地震計の仕組み

日本は地震の多い国ですが、地震のメカニズムを知るために、また地震が発生した時の被害を少しでも小さくするための警報を出す目的で、地震計を使ったさまざまな観測が行われています。今回の「テクの雑学」では、地震計の仕組みをみてみましょう。

地震波の種類

地震といえば文字通り「地面が震える」現象なのですが、その正体は、地球の表面を覆っている「地殻」の内部になんらかの理由でたまったひずみのエネルギーが放出されるというものです。

 地震が発生すると震源で解放されたエネルギーが振動として伝わります。これが地震波です。地震波には、大きく分けて、音波などと同じ疎密波の「P波」、ねじれ波の「S波」、地表を伝わる表面波の3種類があります。地震計は、この地震波による地表の振動を観測するための計器です。

 P波は地震波の進行方向と同じ方向の振動なので「縦波」、S波は進行方向に対して垂直な方向の振動なので「横波」となります。最初にカタカタと小さく揺れはじめ、続いてゆさゆさという大きな揺れがきますが、最初の「カタカタ」がP波、「ゆさゆさ」がS波の揺れです。

 時々「P波は縦揺れ、S波は横揺れ」という表現をする人がいます。震源地は地下にあるため、実際にもP波が縦揺れ、S波が横揺れとして感じられることも多いですが、図でも分かるとおり、縦揺れと縦波、横揺れと横波は本来全く別のものです。


■ 地震計の原理

 地震計は地震の揺れを測定する装置です。とはいっても地面の上においた地震計は、地震がくると地面と一緒に動きます。そのままでは地面の動き(変位)は記録できないので、「慣性の法則」を利用します。

 振り子の上端を持った手を左右に速く振ると、慣性の法則によって、振り子の玉は静止したままでいようとします。振り子の玉にペンを結び付けておき、下に一定の速さで送られるロール紙を置いておくと、通常時は直線が描かれるだけですが、地震がくると、振り子を固定した支柱と紙は動きますが、振り子の玉についたペンは静止しようとします。結果、ロール紙には、地震の振動とは逆向きの軌跡が描かれます。これが、地震計の原理です。



 装置が1つだけでは、紙の動きと平行な揺れはうまく観測できないので、実際には上下・南北・東西の3成分で揺れを観測します。記録も、昔の地震計はロール紙を使っていましたが、最近のものはコイルと磁石を使って電気的な信号を記録するようになっています。


 さて、地震計に使う振り子はどんなものでもいいわけではありません。「揺らした時に振り子の玉が動かない」ためには、振り子の持つ固有周期(自然に振り子を振らせたときに長さによって決まる周期)が振動の周期よりも十分に長くなくてはいけません。逆にいえば、固有周期の長さを調整することで、さまざまな種類の地震波を測定することができるのです。例えば、微小地震を観測する高感度地震計では固有周期1秒程度、幅広い帯域の振動を観測する広帯域地震計では固有周期数十秒の振り子が使われています。

 また、固有周期よりも長い周期の振動に対しては、振り子の玉は静止することができず、地面と一緒に動くことになります。この時、記録紙には、振動の距離ではなく、振動の加速度が記録されます。この性質を利用したのが、「加速度計」と呼ばれる地震計です。「力=質量×加速度」という公式の通り、加速度が大きいということはそれによって生じる力も大きくなります。地震被害の大きさは加速度の大きさに左右されるのですから、加速度計による測定も重要です。「震度計」で測定しているのは加速度です。


■ 震源地の決め方

 地震の震源地の推定には、P波とS波の速度の違いを利用します。地殻中をP波は8km/秒、S波は4km秒で伝わるので、震源からの距離が遠くなればなるほど、P波到達からS波到達までの時間が長くなります。速度差と時間差が分かっているので、震源までの距離rが求められます。


 1つの観測地点だけでは、その地点から半径rの球面のどこかに震源がある、ということしかわかりませんが、3つの観測地点それぞれからの距離がわかれば、3つの球面の交点として震源が求められます。



 最近では、震央に近い観測地で、P波の到達した時点での振幅や波形などの特徴から、震央や地震の規模を推定できるシステムも開発されています。

■ 地震被害を未然に防ぐ緊急地震速報

 地震の発生から、主に被害をもたらすS波の到達までには距離によって数秒〜数分の時間があるので、その間に必要な対策を講じることで、被害を最小限におさえることができます。そのためのシステムが、地震警報システムです。

 JRの「ユレダス」では、震源近くのP波の観測結果から、震源と地震の規模を推定し、必要に応じて列車に対して警報を出します。2004年の新潟中越地震では、ユレダスの警報で上越新幹線が急ブレーキをかけ、脱線・停止しました。当時のニュースでは、「脱線」が大きく取り扱われたので事故の印象が強いですが、見方をかえれば「時速200kmで震度6の地震に見舞われるという被害を未然に防いだ」ともいえます。

 また、気象庁では、全国約1000箇所の地震計から常時リアルタイムで送信されるデータを元にして、緊急地震速報を発令しています。地震波到達まで数十秒程度の時間差でも、事前にガスの送出を止めるなどの処置で、被害を軽減できます。現在は試験運用中で、公共機関や自治体などでの利用にとどまっていますが、2007年10月1日から、NHKのテレビ・ラジオのすべてのチャンネルや民放キー局で緊急地震速報を伝える予定になっています。

図版出展:防災科学技術研究所のWebサイトを参考に作成


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

テクノ雑学

第76回 見える運転で安全に −自動車の最新認知機能−

テクノ雑学

第77回 これからの電気は貯めて使う! -ナトリウム硫黄電池の仕組み-

テクノロジーの進化:過去・現在・未来をつなぐ

AR・VRとは?エンターテインメントのあり方を変えるその魅力

PickUp Contents

PAGE TOP