テクノ雑学

第72回 パソコン購入の新たな決め手 −進化するチップセット−

パソコンを買うとき、みなさんはスペックのどんな部分に注目していますか? 今、パソコンを買う上で注目すべき点を筆者なりにアドバイスさせてもらうなら、

「チップセット」の種類は?

GPUは専用か? それともチップセット内蔵型か?

CPUはデュアルコアかシングルコアか?

メモリの搭載量は?

 になります。今回は、1. と 2. であげている「チップセット」について説明しましょう。

チップセットはパソコンの背骨

■ チップセットはパソコンの背骨

 チップセットは「コアロジックチップセット」の略称です。簡単に説明すると、パソコンの“主骨格”である『マザーボード』上の機能を実現する回路を、1つもしくは数個のLSIにまとめたもの、ということになります。

 よく言われる、「CPUはパソコンの頭脳、メモリは手足に該当する」といった比喩を用いるなら、チップセットは背骨と脊髄に該当するものと考えていいでしょう。

 「パソコン」を構成する要素を極限まで切り詰めると、「BIOS」と「CPU」「メインメモリ」、そして「CPUとメインメモリの間のコントローラ」になります。実際、大昔のマザーボードは、この程度の機能しか備えていませんでした。

 たとえば、そこにハードディスクを装着しようと思ったら、ハードディスクを制御するためのロジック(回路)を搭載したインターフェースボードを購入し、マザーボード上の拡張スロットに装着して、そこにハードディスクを装着する、という手続きが必要だったのです。

 そのうちハードディスクが普及し、一般ユーザー向けパソコンでもポピュラーなものになってくると、いちいち専用のインターフェースボードを用意しなくてもすむように、マザーボード自体にハードディスク制御用ロジックを搭載してしまうことが常識化してゆきます。制御用ロジックがマザーボードに搭載されていれば、BIOSで制御できるのでより安定した動作が見込めるといったメリットがありますし、製造側にとっても、部品点数が減るので組み立てやすくなり、コスト的な負担が減ります。

 同様に、音源、ビデオ表示機能、ネットワークインターフェース、果てはRAIDコントローラなどなど、マザーボードは搭載する機能をどんどんと増やしてゆきます。それらの機能自体は専用のLSIを搭載するとして、統合して制御するための仕組みはチップセットに委ねられます。

 このようにして内蔵する機能をどんどん増やし、かつ高性能化を追究してきたチップセットは、いまやパソコンの性能を最も大きく左右する存在であると言っても過言ではありません。


 AMDが2008年に投入を予定している、モバイルパソコン向け新アーキテクチャのシステム構成図。イラスト上部が新しいデュアルコアCPU(開発コードGriffin)。下部が対応するチップセット(開発コードPuma)の構成図だ。「RS780」がノースブリッジ、「SB700」がサウスブリッジに相当する。CPUとノースの間をつなぐシステムバスは、高速な転送速度を実現するハイパートランスポート3.0をベースに拡張し、システム負荷に応じてリンク速度を5段階に変更、省電力とパフォーマンスの両立を図っている。ノースブリッジにはGPU機能とPCI Express Generation 2コントローラを内蔵。GPU機能はDirectX 10に対応。また外部GPUを使う場合、AC電源駆動時は外部GPU、バッテリ駆動時は内蔵GPUへ自動的に切替える「PowerXPress」機能を備える。ディスプレイコントローラは2系統独立で、アナログディスプレイ端子、TV出力端子、DVI端子、HDMI端子(オーディオ出力対応)に加えて、新規格「DisplayPort」にも対応する。サウスブリッジは14個のUSB 2.0、6個のシリアルATA、パラレルATA、PCIインターフェースを内蔵。またフラッシュメモリ専用バスを備え、Windows VistaのReadyBoostやReadyDrive機能に対応する。ちなみにCPUは負荷に応じて2個のコアを別々に9段階の動作速度に調整する機能を備えている。

チップセットの役割

 チップセットが担っている役割は、まずパソコン内でやり取りされるデータの監視と制御です。パソコンが動作している間は、CPU、メモリ、ハードディスクなどの間を、データがひんぱんに行き交っています。これらのデータを監視し、うまくやり取りできるように制御しているのがチップセットなのです。

 次に、接続するパーツの制御です。マザーボードに装着できるメモリの種類と容量、許容できるアクセスタイミング、ハードディスクやデータバスの動作モード…といった要素は、チップセット自体の仕様で決まってしまいます。たとえば最新の規格で高速な転送速度を実現しているハードディスクを装着しても、チップセットがその規格に対応していないと、古い低速な規格でしか動作させることができません。

 現在のチップセットは、ほとんどが通称「ノースブリッジ」と「サウスブリッジ」の2個のLSIで構成されています。「ブリッジ」とは、CPUやメモリ、データバスなどの機構を統合的に制御する「橋渡し」の役割を果たすことからの通称です。

 一般的にはマザーボードの上=北側に位置するものをノースブリッジ、下=南側に位置するものをサウスブリッジと呼んでいます。このうち、ノースはデータバスやメインメモリとCPUの間のバスなど、システムの中核に関わる部分の制御を担当しています。サウスはATAやUSBなど、接続される各種デバイスとの間のインターフェース、規格の異なるバスを相互に接続するブリッジ回路などを内蔵し、それらを統合的にコントロールしています。

 ちなみにIntelは、ノースブリッジに該当するものをMCH(Memory Controller Hub)、サウスに該当するものをICH(I/O Controller Hub)と呼んでいますが、通称としては今でもノース/サウスと呼ばれています。またAMDの「AMD64」アーキテクチャでは、メモリを高速に動作させるため、メモリコントローラ機能をCPU自体に内蔵しています。ノースブリッジはシステムバスやビデオ表示用のバス、サウスブリッジとの連携の通過点的な立場になっていることから、「トンネルチップ」と呼ばれることもあります。

 チップセットの大きな役割のひとつが、メモリの制御です。最近のトレンドは、「デュアルチャンネル」動作への対応によるパフォーマンス向上と、新たに登場した高速メモリ「DDR3」規格への対応です。

 デュアルチャンネル動作とは、2枚のメモリモジュールを並列的に扱うことで、シングルチャンネルの2倍のメモリ帯域幅を実現する仕組みで、システムの高速化に大きく貢献します。少し前までは、まったく同じメモリモジュールを使う「対称型駆動」のみでしたが、最近は容量や搭載チップが異なるメモリモジュールの組み合わせでもデュアルチャンネル駆動できる「非対称型駆動」の対応製品も登場しています。メモリ帯域幅は対称型より小さくなりますが、シングルチャンネル駆動より高速化することに変わりはありません。

 現在の主要なチップセットは、ほぼすべてがデュアルチャンネル動作に対応しています。メモリ帯域幅の拡大は、あらゆる動作を高速化する効能を持つので、デュアルチャンネル駆動はぜひ実現したいところです。

さらに進化するチップセット

 チップセットの進化の方向性のひとつは、内蔵機能の充実です。その代表が、GPUの機能を内蔵する「ビデオ機能統合型チップセット」。ノースブリッジのLSIの中にGPU機能を集約してしまうことで、独立したGPUなしに画面表示を可能にしてしまうものです。
 チップセット統合のGPU機能は、ここ5年ほどの間で大きく性能を向上させました。チップセットメーカーがGPUメーカーを買収したり、逆にGPUメーカーがチップセット市場へ乗り出して来たりした結果、それまでハイエンド向けに使用されていたビデオチップがチップセットに統合されるようになったためです。

 最近の例で言えば、Intelの「G35」、NVIDIAの「nForce」シリーズ、AMDの「690」などが代表的なビデオ機能統合チップセットになります。これらのチップセットは非常に高いビデオパフォーマンスを誇り、Windows Vistaもオンボードビデオだけでそこそこ快適に動作することで、メーカー系パソコンで多く採用されています。

 サウンド機能やLAN機能などの標準搭載も常識化しています。少し前までは拡張スロットの数に余裕がない省スペースマシン向けに採用されることが多かったのですが、最近は通常のデスクトップマシン向けマザーボードでも、それらの機能を搭載するものが主流になっています。さらにIEEE1394コントローラ、USB 2.0コントローラ、RAIDコントローラなどを搭載するマザーボードも、もはや標準的な存在です。

 このように、チップセットはパソコンの“いでたち”を決めてしまう重要な部品です。しかし現状、特にサウスブリッジの安定度にはチップセットによってけっこうな差があるようですから、パソコンを購入する前に、目的のモデルが搭載しているチップセットの種類と、その性能/安定度に対する評判の情報をしっかり集めてから検討したいところです。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経デジタルARENAなどに執筆。
著書/共著書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」など(いずれも日経BP社)

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

TDKについて

PickUp Tagsよく見られているタグ

Recommendedこの記事を見た人はこちらも見ています

テクノ雑学

第73回 もっと安全に、もっと楽しく −DSRCで広がる移動体通信−

テクノ雑学

第74回 エアコンの友 −インバータの役割−

電気と磁気の?館

No.1 コイルと電磁石はいつ生まれたか?

PickUp Contents

PAGE TOP