テクノ雑学

第69回 お肌を守る微粒子達 - 日焼け止めのナノテクノロジー -

5月も半ばを過ぎ、夏に向けて日差しが強くなってくるのが感じられる季節になりました。夏の必需品といえば日焼け止めです。地上に降り注ぐ紫外線の量が最も多いのは、実は夏至の前後の5月〜7月にかけてなのです。今回のテクの雑学では、日焼け止めのテクノロジーについて紹介しましょう。

梅雨の晴れ間のこんな日も、紫外線はとっても多いんです!

日焼けの仕組み=日焼けを起こす紫外線には2種類ある

日焼けの原因は、太陽光線の中でも波長の短い「紫外線」です。目に見える光(可視光線)の中でも最も波長の短い紫よりもさらに短い波長の光なので、紫外線(Ultra Violet)と呼びます。

 紫外線は、さらに波長の長さによってUVA(400〜315nm)、UVB(315〜280nm)、UVC(280nm以下)の3種類に分類できます。そのうち、日焼けの原因になる紫外線はUVAとUVBです。UVCは上空のオゾン層で吸収されるため、地表には届きません。余談ですが、UVCは殺菌力が強く、長時間浴びると遺伝子を損傷する可能性があるなど非常に危険です。フロンガスによるオゾンホール(オゾン層の穴)の拡大が深刻な問題といわれるのは、そのためです。

 UVAとUVBは、肌への作用が異なります。日焼けといえばまず肌が赤くなり(サンバーン)、2〜3日で赤みが落ち着くと同時に黒くなって、数週間〜数ヶ月続きます(サンタン)。サンバーンはUVBの作用、サンタンはUVAの作用です。日焼け止め剤は、UVBとUVAの両方を防がなくてはいけません。

■ SPFとPAってどう違うの?

 市販されている日焼け止めには、強さを表す指標として、「SPF」と「PA」が表記されています。SPFはUVBを防ぐ度合い、PAはUVAを防ぐ度合いをそれぞれ表しています。

 SPFは、具体的には「何も塗らない肌と比べて、同じ強さの紫外線を当てたときに、赤くなるまで何倍の時間がかかるか」を測定し、数字で表したものです。例えば、何も塗らないで20分で肌が赤くなる時に、SPF15の日焼け止め剤を塗っていれば、赤くなるまでに20×15=300分かかる、という意味になります。数字が大きくなるほど赤くなるまでにかかる時間が長い=UVBの遮断効果が高い、ということになります。

 PAはUVAをどの程度防ぐかの目安となります。PA+、PA++、PA+++の3段階があり、+の数が多いほどUVAの遮断効果が高くなります。

■ 反射するか、吸収するか?

 日焼け止めに含まれる紫外線を防ぐ成分は、大きく2つに分けることができます。1つは、紫外線を反射する紫外線散乱剤であり、もう1つは紫外線そのものを吸収して化学反応で熱や赤外線に変える紫外線吸収剤です。

紫外線散乱剤と紫外線吸収剤


 紫外線反射剤は昔から白粉などに使われていた酸化亜鉛、酸化チタンなどが主成分で、安全性は比較的高いとされています。「ノンケミカル」などと表示されている日焼け止めは、紫外線反射剤だけを使用しています。肌にはやさしいのですが、微粉末を顔につけることになるので、色が白っぽくなることや、こまめな塗りなおしが必要になるという欠点があります。

 紫外線吸収剤は、メトキシケイヒ酸オクチル、オキシベンゾンなどの有機化合物で、化合物の種類によって吸収できる紫外線の種類が異なります。色がつかないこと、強力な紫外線カット効果が期待できる長所があります。しかし、皮膚表面での発熱や、発熱時の化学反応により紫外線吸収剤の分子が壊れることで肌に有害な物質が生じることもあり、肌のトラブルの原因になることもあります。

■ お肌にやさしい日焼け止めを実現するナノテクノロジー

 お肌に優しいけれど色が白っぽくなる、という紫外線反射剤の欠点を補うために活用されているのが、粒を小さくし、形を加工するナノテクノロジーです。紫外線反射剤の粒子を小さくして液体に混ぜることで、ノンケミカルでも無色透明な日焼け止めが実現できました。

 また、粒子の形自体を、球形ではなく、薄い花びら型や、表面に細かく起毛した形に加工することで、しっとりと肌になじみやすく、また皮脂を吸収しやすい製品もあります。

 紫外線吸収剤を利用するための技術で注目したいのが、カプセル化です。紫外線吸収剤を水とも油ともなじみやすい材質のカプセルの中に閉じ込めた微粒子にします。

紫外線吸収剤のカプセル化


 紫外線吸収反応はカプセル内で起こり、皮膚に直接紫外線吸収剤が触れることがないので、肌のトラブルを未然に防ぐことができます。

■ 日焼け止めは使い方が肝心!

 ナノテクノロジーを活用して進化してきた日焼け止めですが、使い方を間違うと、守るための肌をかえっていためてしまうこともあります。SPF、PAの高いものほど日焼け止め効果は確かに高いですが、必要以上に効果の高いものは肌に負担をかける可能性も高くなりがちです。

 環境省で発行している「紫外線保健指導マニュアル」では、「使用シーンに合わせたサンスクリーンの選び方」を紹介しています。日常生活の外出時に使うものであれば、SPF15〜20、PA+のものでも十分です。

使用シーンに合わせたサンスクリーンの選び方(SPFとPA)

 また、日焼け止めの効果を発揮するためには、塗りなおしが大事です。日焼け止め剤は肌の上にあってはじめて効果を発揮するので、汗をふきとったり手でこすったりして日焼け止め剤がおちてしまうと、その部分は塗っていないのと同じことになってしまいます。落ちたと思ったらすぐに重ね塗り、そうでなくても2〜3時間おきに塗りなおします。お化粧をしている時でも、ファンデーションの上から押さえるように塗りなおすだけで効果的です。

 また、日焼け止めだけにたよらず、光をできるだけ遮ることも効果的です。外出時には日傘や帽子なども併用するのがおすすめです。家の中でも窓ガラスを通してUVAは入ってきますから、皮膚の弱い人はUVAを遮断するフィルムをガラスに貼るのが効果的です。

 日焼けの原因となるUVBは波長が短いため、UVCほどではありませんがやはり遺伝子を損傷したり、皮膚がんや白内障の原因となる場合があります。またUVAは、表皮だけでなくその下の真皮まで浸透して、しみやしわなど、皮膚の老化の原因になります。美容だけでなく健康のためにも、焼きすぎには十分に注意して、これからはじまる夏の日差しを楽しみましょう。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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