テクノ雑学

第67回 てんぷら油で車が走る!−パリ・ダカールラリーを完走したバイオディーゼル燃料の実力−

この冬の日本は記録的な暖冬で、あらためて地球温暖化の影響が懸念されています。温暖化の原因となる温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)が増える大きな原因の一つが、車の燃料として使われるガソリンや軽油などの化石燃料です。これらの消費を抑えるための代替燃料として注目されているのが、バイオディーゼル燃料です。

バイオディーゼル燃料って何だろう?

バイオディーゼル燃料とは、ナタネ油、大豆油などの植物油を原料にしたディーゼル燃料です。油(油脂)とは、粘度の高いグリセリンに脂肪酸が3つ結合された形をしており、炭素・水素・酸素などを主な成分としています。この油脂をメタノール(メチルアルコール)と触媒を加えて化学反応させる(エステル化する)ことで、グリセリンと脂肪酸メチルエステルに分離します。さらに、蒸留処理をしてメタノールを除去することで、元の油の粘度を下げ、軽油と混合したり、あるいは軽油の代わりに使える液体燃料にしたものです。

バイオディーゼル燃料とは


 ディーゼルエンジンは、1892年にドイツ人のルドルフ・ディーゼル氏によって発明されましたが、はじめて実演された1900年のパリ万博で使われていたのはピーナッツ油、つまりバイオディーゼル燃料でした。最近注目されるようになった新しい燃料のように思えますが、実は昔から使われていたのです。

「カーボンニュートラル」だから環境にやさしい

 昔からあったバイオディーゼル燃料が今また注目されているのは、バイオディーゼル燃料は「カーボンニュートラル」な燃料だからです。
 石油や、石油を原料とする軽油は、化石燃料と呼ばれます。化石燃料を燃焼させて発生する二酸化炭素は、何万年もかけて地中に閉じ込められた炭素と酸素からできています。つまり、空気中の二酸化炭素の量が増えてしまいます。

 一方、バイオディーゼル燃料を燃焼させて発生する二酸化炭素は、原料となる植物が、成長する過程で空気中の二酸化炭素を体内に取り込んだものです。つまり、せいぜいここ数年以内に空気中に存在した二酸化炭素がまた戻されているものなので、空気中の二酸化炭素の量が増えることはありません。

 地球温暖化の大きな原因として二酸化炭素の増加が挙げられているのは皆さんご存知の通りです。バイオディーゼル燃料は、二酸化炭素を増やさない、すなわちカーボンニュートラルなエネルギーなのです。

使用済みてんぷら油がバイオディーゼル燃料になる

 植物油を燃料とするバイオディーゼル燃料の中でも、注目されているのが、家庭から出る使用済てんぷら油などの廃食用油を利用したバイオディーゼル燃料です。そのまま捨ててしまっては環境汚染の原因になるものが、カーボンニュートラルな地球環境にやさしいエネルギーに変わるのですから、まさに一石二鳥というわけです。

 廃食用油からバイオディーゼル燃料を作る時の手順を図解したのが以下の図です。

バイオディーゼル燃料の作り方
バイオディーゼル燃料の作り方


 できあがったバイオディーゼル燃料は、軽油よりも有害物質の含有量が少なく、硫黄酸化物(SOx)がほとんど排出されないという特長があります。そのままディーゼル燃料として利用もできますし、軽油と混合して利用することもできます。

 また、もう一つのバイオディーゼル燃料の原料として注目されるのが、とうもろこし、ナタネなどの植物油の原料になる「資源作物」です。農林水産省では、高齢化の進行や米の消費量の減少にともなって増えてきた休耕田を利用して資源作物を栽培し、バイオディーゼル燃料として活用することで、農地保全とエネルギー資源生産の両方が期待できることに着目して、次世代の日本の農業の柱とすべく研究に取り組んでいます。

全国で行われるさまざまな取り組み

 全国の自治体が中心となって、各地で廃食用油を回収してバイオディーゼル燃料として活用する取り組みが進められています。特に進んでいるのが京都市で、1997年からバイオディーゼル燃料を市内のゴミ収集車で利用すると同時に、市民コミュニティを活用した家庭からの廃食用油回収システムの構築に着手しています。2006年末の時点で市内の約1000拠点から年間13万キロリットルの廃食用油が回収されており、京都市廃食用油燃料化施設でディーゼル燃料化されています。

 現在、京都市で使用している220台のゴミ収集車は全て100%バイオディーゼル燃料を利用して運転しています。また、京都市バスのうち95台は、バイオディーゼルと軽油を混合した燃料を使用しています。その結果、年間4400トンのCO2排出量削減を実現しました。

 また、2007年1月6日から21日にかけて開催されたパリ・ダカールラリー(ユーロミルホー・ダカールラリー2007)では、「TeamUKYO」を率いる元F1レーサーの片山右京氏が、自ら運転する車に京都市の廃食用油から製造された100%バイオディーゼル燃料を使用し、完走しています。このレースには他にも、「チームランドクルーザー・トヨタオートボデー」の山田周生氏がバイオディーゼル混合燃料を使用した車で完走しており、過酷な環境でも使用できるバイオディーゼル燃料の品質の高さをアピールしました。

 バイオディーゼル燃料は、現在使用しているディーゼルエンジン車で使用できるため、燃料を安定して供給する仕組みさえ確立できれば、誰でも手軽に利用できるようになります。ますます深刻になりつつある地球温暖化を食い止めるためにも、これからの動向に注目していきたい技術です。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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