テクノ雑学

第59回 運動不足の解消にテレビゲームはいかが?−体の動きを検知する、リモコンの仕組み−

1年半以上前からゲームファンの間では話題になっていたPlayStation3と任天堂Wiiがいよいよ発売になりました。1年前に発売されたマイクロソフトのXbox360と合わせて、新世代ゲーム機3種類がいよいよ揃ったことになります。

 「Xbox Live」でネットワークを活用した対戦やコミュニケーションに重点を置くXbox、ブルーレイディスクや高性能のグラフィックチップの搭載でゲームに加えて高品質の映像コンテンツを楽しむことに重点を置いたPlayStation3、全く新しい形状の「Wiiリモコン」でゲームのプレイスタイルそのものを変えてしまう任天堂Wiiと、それぞれ違った特徴があります。
 今回のテクの雑学では、Wiiの大きな特徴である、リモコンの仕組みについてみてみましょう。

必要なのは「動きを検知する仕組み」と「位置を特定する仕組み」の2つ

Wiiといえば、テレビに向かってリモコンを持った人が体を動かしながらゲームを楽しんでいるテレビCMが印象的です(実際に遊んでみた人によると、「あそこまで激しく動かなくても大丈夫」だそうですが……)。

 ボタン操作だけではなく、リモコンを動かしてテレビ画面を見ながらゲームを操作するためには、「リモコンがどのような動きをしているのか」「リモコンが画面のどこを指しているのか」という2つの情報をリモコンからゲームシステムに伝える必要があります。

■ 動きを検知する「3次元加速度センサー」

 動きを検知するのは、リモコンに内蔵されている加速度センサーです。加速度センサーとは、文字通り加速度(速度の変化)を検出するためのセンサーで、古くから使われている技術です。例えば、車が急停車した時にエアバッグが自動的に膨らむ仕組みは、「急停車」という速度の急な変化を、加速度センサーで検知して、「エアバッグを膨らませる」という指令を出しています。Wiiのリモコンに搭載されているのは、前後、左右、上下の3次元それぞれの加速度を検知できる、3次元加速度センサーです。

 3次元加速度センサーの原理は、立方体の箱の中央に、前後、左右、上下の6方向からばねで支えてボールを静止させている仕組みをイメージしてもらうと分かりやすいと思います。箱を手で持って急速に動かすと、ボールには慣性の法則が働いて静止しようとするので、ボールを支えたばねが伸び縮みします。それぞれのばねの伸び縮みの様子を測定することで、箱がどの向きにどのくらいの加速度で動かされたかが分かります。

3次元加速度センサーの原理


 Wiiリモコンで使用している加速度センサーでは、ICチップの内部に厚さ15ミクロンほどのくし型の構造体を内蔵し、構造体が動くことによって発生する電気的な変化を検知しています。

加速度センサーの概念図


 このような小さいものを半導体チップの上に作る技術は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれています。

■ 赤外線で指している位置を特定

 コントローラーの動き、すなわち操作は3次元加速度センサーで検知できますが、実際にゲームをプレイするためには、その操作が画面のどこに対して行われているのかが分からなくてはいけません。つまり、コントローラーの向きを検出する必要があります。そのための仕組みが、付属品の「センサーバー」です。
 センサーバーには10個の赤外線LEDが内蔵されています。LEDから出る赤外線をリモコン先端に内蔵されたセンサーで検知することにより、リモコンが指している向きを検出できます。

 つまり、Wiiリモコンを正しく動作させるためには、センサーバーを正しく設置することがとても重要です。また、テレビの背後から太陽光線があたる場合や、テレビの近くに照明器具がある場合、センサーバー以外の赤外線をリモコンが検知してしまい、誤作動の原因になります。また、位置を正しく検知するためには、リモコンとセンサーバーの間に1m程度の距離が必要です。「目に悪いからあまりテレビに近づいてゲームしてはいけません」とよく言われていましたが、Wiiでは「リモコンがちゃんと動かないから近づけない」ことも増えそうです。

■ リモコンと本体の間は汎用規格「Bluetooth」で接続

 WiiリモコンとWii本体の間は、携帯情報機器用の無線接続規格である「Bluetooth」で接続されています。消費電力が小さく、間に障害物があっても通信できるという特徴があります。消費電力はリモコンの電池の寿命に直結するので重要なポイントですね。ちなみに、Wiiリモコンは、普通にゲームを遊ぶなら単3アルカリ乾電池2本で30時間程度動作可能だそうです。

 また、Bluetoothは汎用的な規格なので、Wiiリモコンを別のBluetooth対応機器に接続することも原理的には可能です。Bluetooth搭載のパソコンで、無線マウスとしてWiiリモコンを使用できるフリーソフトがインターネット上で公開されています。

 実際に発売日にWiiを入手して遊んでいる人の感想を聞くと、最初は従来の「両手でコントローラーを持って、テレビの前に同じ姿勢で座りながら遊ぶ」スタイルとの違いに戸惑ったけれど、慣れてくると新鮮で楽しいと言う人が多いようです。新しいコントローラーを活用した、斬新で楽しいゲームの登場に期待したいですね。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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