テクノ雑学

第58回 キャパシタとは?ハイブリッド車用の蓄電池の可能性

ハイブリッド車と呼ばれるクルマもずいぶん一般化してきました。しかし、その実態はさまざま。省燃費に徹したモノもあれば、モータを「電気ターボ」的に使うようなクルマもあります。また、初代トヨタ・プリウスが採用したことで主流となっていた「シリーズ+パラレル」型に加えて、「モータアシスト型」と呼ばれるタイプの機構を持つクルマも登場するなど、ハイブリッド車の世界は日々、進化を続けています。
 

ハイブリッド車の構造

 ハイブリッド車のルーツは電気自動車にあります。電気自動車の最大の弱点のひとつである航続距離を伸ばすために、発電装置としてのエンジンを搭載したことがすべてのスタートで、そこから徐々にエンジンとモータを動力源として並列的、もしくは相互補完的に使う、という発想に変貌して来ました。レシプロ/ディーゼルエンジンは、一般的な特性として、低回転時や高負荷時のトルクが小さいのです。モータは逆に低回転時から大きなトルクを発生し、高負荷時にも強い特性を持っています。これらがお互いに「不得意領域」を補い合うこと、またアイドリングストップを可能とすることで、ハイブリッド車は省燃費やドライバビリティの向上を実現しているのです。

モータアシスト型ハイブリッド車の構造

 ハイブリッド車の真価は、「状況に応じてエンジンを使わなくても走れる」ことだけではなく、従来はブレーキング時に発生し、そのまま無駄に捨てていたエネルギーを「回生ブレーキ」によって回収し、動力として再利用する点にあります。
 「回生ブレーキ」とは、駆動用に使っているモータを発電機として作動させ、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収、制動をかける電気ブレーキの一手法です。モータを通電させず、なんらかの力を使って通常とは逆方向に回転させると電力が発生することはご存じでしょう。簡単に言えば、その原理を利用したエネルギー回収の手法で、制動時だけではなく、発電時の回転抵抗によっても利用できます。

 ハイブリッド車を構成するキーデバイスは、「蓄電器」「モータ」「動力伝達機構」「インバータ」「制御」の5つと考えていいでしょう。このうち、今回は「蓄電器」に注目した話をしてみたいと思います。

■ 「電池」と「キャパシタ」 −蓄電器に注目−

 近い将来的な展望としては、「蓄電器」の進化と多様化が注目テーマです。同じくモータを動力源として使っている電車は、減速時にやはり「回生」を行ない、それによって得た電気エネルギーを架線に戻すということを行なっていますが、自動車には架線が無いので、回生によって得たエネルギーを電力として蓄えておく装置が必要になります。
 そのため、現在はいわゆる「電池」を使うものが主流になっています。現在は「ニッケル水素電池」が主流ですが、より小型軽量でエネルギー密度の高い「リチウムイオン電池」への転換が進みつつあります。

一般的なリチウムイオン電池の構造例

 もうひとつの流れが「キャパシタ」を使うタイプです。キャパシタとは、いわゆるコンデンサのことで、活性炭とチタン酸バリウムを主原料とした蓄電器です。さまざまな種類があり、蓄電用途だけではなく、電流の平滑化や安定化、対ノイズ性能向上などの目的でも用いられます。たとえば身近な機器では、携帯電話の基板上にも「チップタンタル型」や「セラミック型」と呼ばれるコンデンサが多用されています。
 

電気二重層キャパシタ(EDLC)の基本原理

 

TDK製電気二重層キャパシタ

 

【 参考リンク】

■テクマグ「電気と磁気の?館」No.6 ハイブリッド車などにも利用される電気二重層キャパシタ


 キャパシタの特長は、電気の「入り」が圧倒的に良いことです。電極材料の表面にしか電気が溜まらないので、回生によって得た電力を効率良く内部に蓄えられ、また放電時の効率も高いレベルにあります。電荷が表面にくっついているだけなので、電極材料の劣化もほとんどありません。
 電池の場合、電荷は電極材料の中にも潜り込ませる必要があります。ですから、蓄電する時には電極材料の内部に「押し込む」、放電時には「引っ張り出す」必要があって、電力の入りも出もキャパシタに劣ります。

 ハイブリッド車用の蓄電器として用いた場合、この特性の差が、クルマとしての“乗り味”の差を生みます。

 直接比較したデータがないので、あくまで筆者の感覚的なものになってしまいますが、ニッケル水素電池が回生エネルギーの60%程度しか回収できていないとすれば、キャパシタの回収率は90%以上になるように思えます。そのため、減速時に回収して、すぐに使って、また回収……といった用途にはキャパシタが向いています。これは、たとえば宅配便などに使われる小・中型トラックの走行パターンにうってつけの蓄電器と言えます。

 逆にキャパシタの弱点は、電極材料の表面にしか電荷を溜めておけないため、質量あたりの蓄電容量が電池に比べて劣っていることです。その点を改善するため、電極材料の内部にも少し電気を溜められる「ハイブリッド・キャパシタ」と呼ばれるタイプのものも開発されています。つまり、キャパシタと二次電池の境目は限りなく曖昧なものになりつつある、と見ることもできます。

 今後、キャパシタはハイブリッド車用蓄電器の主流になるのでしょうか? 先にも述べた通り、一口にハイブリッド車と言ってもモータを使う目的は車種ごとにさまざまです。ストップ&ゴーを繰り返すようなタイプの用途、また定常時はエンジンで走行し、瞬間的に大出力が要求される場合のみモータを補助的に使うようなタイプのクルマや、FCV(燃料電池車)には、キャパシタが向いていると考えます。逆に、可能な限りエンジンとモータを並列的に使うタイプのハイブリッド車には、二次電池が向いているでしょう。

 現時点では、蓄電器にキャパシタを使ったハイブリッド車はまだ1車種、しかも商用車にしか存在しません。しかし、今後は着実に増えて行くこと必至です。新型のハイブリッド車が登場したら、そのクルマが用いている蓄電器に注目すると、クルマ自体の性格を判断する目安になるかもしれません。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経デジタルARENA、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2006」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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