テクノ雑学

第34回 電化製品の「心臓」 — 電源ユニットが「縁の下」でやっていること —

電源ユニットが「縁の下」でやっていること

電化製品の「心臓」 — 電源ユニットが「縁の下」でやっていること —

 当り前の話ですが、家電製品やAVC機器は、なんらかの形で電気を内部に取り込む仕組みを持っています。多くの場合は、本体から伸びている電源コードの先にあるプラグを、壁にあるコンセントに挿し込むか、電池などを使って電力を得るわけです。

 ただし、実は家庭用のコンセントに供給されているAC(交流)100Vの電力をそのまま使って動いている製品はほとんどありません。多くの電化製品は、取り込んだAC100Vの電力を、自らが使いやすい形に変換し、整える仕組みを備えています。そのような仕組みを、一般的に「電源ユニット」と呼びます。

 電源ユニットは、家電製品の「血液」たる電力を確実に本体へ送り込むという、いわば「心臓」のような役割を果たしています。しかし、ほとんどの家電製品は電源ユニットを本体の内部に収納していて、外部にはコンセントへ接続するためのコードしか出ていないため、電源ユニットはその存在を意識させられません。

 ただし、ポータブルオーディオ機器やノートパソコンなどは、電源ユニットを「ACアダプター」として外部に出していることが多いものです。ACアダプターの多くはプラグ部分やコードの途中に「箱」を持っていますよね。あれが邪魔に感じることも多いと思いますが、あの箱があるからこそ、家電製品は安定して、安全に動作できるのです。

 今回は、筆者にとって比較的なじみが深い「デスクトップパソコン用電源モジュール」を例に、電化製品の「電源」がどんなことをやっているのかについてお話ししたいと思います。

 電源ユニットには回路構成や内部構造によってたいへん多くの方式がありますが、家電製品に使われるものは「直流安定化電源」に分類されます。読んで字のごとく、直流電力を安定的に供給するための仕組みです。また、直流安定化電源にも多くの種類があり、ポピュラーなのは「CVT方式」「リニア方式」「スイッチング方式」です。このうち、パソコン用電源は「スイッチング方式」が主流になっています。

 その仕事ぶりを、順にあげてみましょう。

1. コンセントからAC(交流)電力を取り込む

2. 「整流ブリッジ(ダイオード)」でAC電流をDC電流に「整流」する

3. 「電解コンデンサー」で電気を「平滑化」する

4. 「スイッチング」によって作り出したACの高周波を「高周波用絶縁トランス」を介して変圧し、パソコン側/出力側へ送り出す

5. ダイオードでAC→DCに「整流」し、さらに電解コンデンサーで「平滑化」する

6. 制御回路によってスイッチング動作を調整し、電圧を安定化させる

7. パソコンのマザーボードや内蔵デバイスが要求する種類の電力を作る

8. それぞれの部分へ電力を供給する

パソコン内部の電源と役割


 安定した電力を供給するためには、1〜9のいずれもが重要な要素なのですが、中でもキモになるのが「整流・平滑化」と「スイッチング」です。
 「整流」とは、電気が一方向にだけ流れるようにする作業です。この作業に持って来いの特性を持つ半導体がダイオードで、電源ユニットのほとんどがダイオードを使って電流をACからDCに変換しています。

 「平滑化」とは、電力の波形や電荷にムラが生じないよう、均す作業です。コンデンサーは、金属板の間に誘電体(絶縁体)を挟んだ電子部品で、電圧に応じて電荷を蓄える特性を持っています。電源ユニット上での働きとしては、電流に対して「漏斗」のような役割を果たすものと考えればいいでしょう。漏斗内部の水位がある程度以上あれば、瞬間的に水を注ぐのをやめても、大量に注ぎ込んでも、また水の注がれ方が乱暴でも、ていねいでも、注ぎ口から出る水の量や勢い、水流の整い具合はほぼ一定を保ちます。コンデンサーも電気に対して同様の役割を果たすことから、電子基板などの上で電気的な安定を実現する目的で多用されています。

 「スイッチング」は、上の回路図中で「スイッチング素子」〜「高周波トランス」の部分で行われます。ここにはスイッチング素子(レギュレーター)という、非常に高速にON/OFF動作を繰り返す事で高周波を作る電子部品が配されています。電流はスイッチングによって数十〜数百kHzという高周波となるのですが、一般的に周波数が高いほど変圧(電圧を変換すること。100Vを10Vにする場合は「降圧」、200Vにする場合は「昇圧」)用トランスは小型で済むので、電源ユニット全体を小型軽量化できることが、スイッチング方式の大きなメリットのひとつになっています。

 逆にデメリットは、高速でスイッチするためノイズの発生量が大きくなることですが、現在はシールド技術の進化などによって漏出ノイズが大幅に低減できるようになり、用途は大きく広がりました。

 パソコン用電源は、このような過程を通じ、AC100VからDC12V、5V、3.3Vの電力を作り出して各デバイスへ供給しているのです。

 パソコン用電源に限って言えば、安定した電力供給とともに、もうひとつ重要な働きがあります。それは「冷却」です。

パソコン内部の発熱と騒音


 最近のパソコンは、CPUやビデオチップなどの高性能化によって、内部の発熱がかなりのレベルに達することが珍しくありません。特にPentium 4やPentium Dの現行モデルは発熱量が大きく、動画エンコードなど負荷の高い作業を長時間続けていると、コア温度が80゚Cを超えてしまうこともあるようです。トラブル対策として、一定以上の温度になったらCPUに供給される電圧とクロック速度を落として冷やすといった機能も盛り込まれていますが、それではせっかく高性能で高価なCPUを購入する意味も半減です。

 現在の一般的なデスクトップパソコン用電源モジュールは、「ATX」という規格にのっとって作られていますが、ATX規格では、もともとパソコン内部全体の冷却は電源モジュールが内蔵する冷却ファンを活用することを想定していました。各デバイスの高性能化によって、それだけでは冷却性能が追いつかなくなって来たことで、ケースファンなどが追加されることが常態化してきました。

 しかし、今でも電源モジュールが重要な冷却用デバイスであることに変わりはありません。電源モジュールはそれ自身が内部でけっこうな熱を生じるもので、しっかり冷却しないとコンデンサー破裂といったトラブルに至ることさえあります。

 まず、自分自身をしっかりと冷やし、さらにパソコン全体の冷却にも貢献する。もちろん、電力は安定供給する。まったく目立たないパーツではありますが、電源モジュールは実はそんな重要な役割を黙々とこなしている、正に縁の下の力持ち的な存在なのです。

 メーカー製パソコンでは選択の余地はありませんが、もしパソコンを自作してみようと思った場合、電源モジュールは可能な限り高価で高品質なものを選んでください。他のパーツをいくら高性能なもので組んだとしても、電源が信頼できないものだと、実力が発揮させられないどころか、パーツ破損や発煙といったトラブルに見舞われかねないからです。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2006」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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