テクノ雑学

第32回 一次電池・二次電池とは?違いや構造を解説

一次電池・二次電池とは?違いや構造を解説

一次電池と二次電池の違い

未だ主役の身近なエネルギー源 — 一次電池と二次電池の違い —

 昨年の後半あたりから、日本各地で大きな地震が起こっています。首都圏直下型、東海、南海、東南海などの大規模地震も、いつ起こっても不思議ではないと言われています。

 ホームセンターなどでも、防災グッズのコーナーが常設されることが珍しくなくなりました。中でも、ラジオ、懐中電灯、携帯電話の充電機能をひとつにまとめ、しかも手回しなど人力で発電できる製品がよく売れているそうです。

 私もその手の製品を購入し、手回しで携帯電話を充電してみました。発電用のハンドルを1分間に120回転させるとラジオが60分聞け、携帯電話が通話3分、待ち受け90分可能な分の電力を発生するということなので、イザという時には頼りになりそうです。とはいえ、試しに発電してみながら、つくづく乾電池のありがたさが身に染みたことも事実ではあります(笑)。
 今回は、我々の生活にもはや欠かすことのできない存在である乾電池についての雑学をお届けしたいと思います。

 電池と呼ばれているものにはたいへん多くの種類がありますが、電力を生ずる原理によって大別すると、「化学電池」「物理電池」「生物電池」に分類できます。このうち、私たちが日常生活で多用している乾電池は「化学電池」に属するものです。
 化学電池は、電池の内部に充填された物質が「酸化」や「還元」といった化学反応によって他の物質へ変化する際に生じる電気エネルギーを利用する電池を指し、「燃料電池」も化学電池の仲間に分類されます。
 物理電池は、熱や光などのエネルギーを取り入れることで電力を取り出す(変換する)タイプの電池で、太陽電池がその代表です。生物電池は、微生物などが起こす生物化学反応を利用する電池で、光合成を利用した「生物太陽電池」などがあります。

 さて、乾電池と呼ばれているものは、さらに「一次電池」と「二次電池」に大別できます。一次電池は、一度完全に放電してしまったら捨ててしまうことになる、使い切りのタイプです。これに対して、充電して繰り返し使えるものが「二次電池」です。以前は、二次電池は少し特殊な用途に使われていましたが、ここ10年ほどの間でノートパソコンや携帯電話、デジタルカメラなどが普及したことにより、とても身近なものになりました。

 乾電池の仕組みと構造は、種類によらずほぼ同じです。内部では、「イオン化傾向(陽イオンとなって電解液へ溶け出そうとする傾向のこと)」の異なる2種類の金属系物質電解液に浸されています。イオン化傾向が大きい物質はしだいに電解液の中に溶け出してゆくのですが、この時、残された電子によってマイナス側に帯電することで「負極」としての役割を果たします。このイオンは「セパレーター」と呼ばれる仕組みによって、特定のものだけが移動するようになっています。一方、イオン化傾向が低い物質はほとんど電解液に溶けず、プラス側に帯電して「正極」になります。この正極と負極の間に生じる電流を、外部に取り出す仕組みと組み合わせたものが乾電池なのです。

一次電池の構造例


 最もオーソドックスな一次電池である「マンガン乾電池」は、正極側の材料(活物質)に「二酸化マンガン」、負極側に「亜鉛」を使い、電解液には弱酸性の「塩化亜鉛」や「塩化アンモニウム」を使います。ちなみに、電解液に塩化亜鉛を使うと、塩化アンモニウムを使う場合よりも大きな電流を連続して取り出せるのに加えて、化学反応によって電解液中の水分が消費されるので、液漏れが起こりにくくなります。ここ10年ほどの間で、マンガン乾電池の液漏れが非常に少なくなったのは、電解液を塩化亜鉛に切り替えて行ったためなのです。

 より長時間、大電流を取り出せる「アルカリ乾電池」も、活物質はマンガン乾電池とほぼ同じですが、内部の構造が異なります。マンガン乾電池は棒状の正極材を負極材で覆った構造になっていますが、アルカリ乾電池は亜鉛粉末の負極材を、二酸化マンガンと黒鉛による正極材で覆うという、正反対の構造になっています。また、電解液には「水酸化カリウム」を使います。アルカリ乾電池という名称は、水酸化カリウムがアルカリ性物質であることから来ています。
 最近登場した「オキシライド乾電池」は、アルカリ乾電池の正極材として、二次電池である「ニッケル・カドミウム電池」や「ニッケル・水素電池」で使われていた「オキシ水酸化ニッケル」を使ったものです。また、黒鉛や二酸化マンガンに材料レベルで改良を加えたことで、同じサイズのパッケージにより多くの活物質を充填できるようになり、瞬間的に取り出せる電流の強さと量を増やすことに成功しています。

 これらの一次電池が電力を生じるために用いる化学反応は、元の状態に戻ることのない「非可逆的反応」です。これに対し、放電した電池に電気エネルギーを与える=充電することで元の状態に戻る「可逆的反応」を実現できる物質を充填しているのが二次電池です。ちなみに、化学反応を起こすための物質をパッケージ化せず、外部から供給可能としたものが「燃料電池」ということになります。
 

二次電池の構造例

 二次電池の中では長い歴史を持つニッケル・カドミウム(略称で「ニッカド」と呼ばれることが多い)電池は、その名の通り正極材にニッケル系の酸化物質、負極材にカドミウム化合物を使い、電解液はおもに水酸化ナトリウムの水溶液を使います。また、単1型や単2型といった円筒形パッケージのものの内部構造は、薄いシート上の活材料によって、やはりシート状の電解液とセパレーターを互い違いにはさみ込んだスパイラル状となっています。それぞれの表面積を大きくすることで、充放電の効率を高めるための工夫です。

 携帯電話やノートパソコンなどの電源として、ここ数年の間で主流になっている二次電池が「リチウム・イオン電池」です。正極材に「コバルト酸リチウム」、負極材には黒鉛、電解液には有機系の液体を使います。コバルト酸リチウムの中に含まれるリチウムの正イオンの移動によって放充電を実現するのですが、電圧とエネルギー密度が高いことに加え、メモリー効果が発生せず、パッケージもコンパクトにできることなど、優れた点が多いことで、現在一般的な用途に使われる二次電池としては主流の座に着いています。

 乾電池には、他にも数多く種類があり、それぞれが特定の規格に沿ったパッケージに収められて活用されています。ポピュラーな単1、単2などの「円筒型」、小さな電池を直列につないだような構造の「積層型」、コンパクトな機器向けのボタン型、ガム型などのパッケージがありますが、これらはJISによって規格化されています。たとえばマンガン乾電池の単一型は「R20」、アルカリ乾電池の単3型は「LR6」、アルカリ電池のボタン型は「LR**」といったように、記号と数字の組み合わせによって定義されています。

一次・二次電池系の分類記号表

一次二次電池系の分類記号表

 また、携帯電話の電池は機種やメーカーごとに独自の形状をしていますが、実はこれも内部に収まっているのは半ば規格化された(たとえば「18650」なら、厚さ1mm×幅86mm×高さ50mm、といった具合)パッケージの電池を、専用のケースに納めたものなのです。

 さて、省資源&リサイクルが社会的テーマとなっている昨今、使い捨ての一次電池はとてもムダの多いものに感じられます。しかし、価格が安いこと、入手性の高さといったメリットは捨てがたいものがあります。そもそも、必要な時に、いつでも、どこででも容易に入手できることこそが乾電池の最大のメリットなのですから、あまりヒステリックに「一次電池はムダ」と言い続けて、もし使用が禁止されてしまったら、生活のあらゆるシーンで困った事態が生じることは想像に難くありません。リサイクル技術も日々進化していますから、日常的に多用する製品に対しては可能な限り二次電池を使うように心掛けつつ、困った時は一次電池、という使い分けに、徐々にシフトする、程度の気持ちを持っておくことが、今日的にリーズナブルな態度だと考えます。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2005」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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