テクノ雑学

第26回 汚さず燃やさず進みましょう −次世代の主流=代替燃料自動車−

次世代の主流=代替燃料自動車

第26回 汚さず燃やさず進みましょう − 次世代の主流=代替燃料自動車 −

 第18回『テクの雑学』でも少しだけ触れましたが、バッテリーとモーターだけで構成される、いわば「完全電気自動車」が、現状の内燃機関を動力源とする自動車に取って代わるまでには、まだまだ長い時間がかかりそうです。
 実は、完全に電気モーターだけで駆動する自動車もすでに各種が市販されているのですが、充電一回あたりの航続距離が短く、充電には相当の時間がかかるなど、まだまだ内燃機関自動車と同様の使い勝手は実現できていません。
 

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■Tech-Mag 2005年3月 / テクの雑学 /
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 イジワルな表現をすると、完全電気自動車が内燃機関自動車と同様の使い勝手を実現できる日がいつになるかわからないので、当座の「つなぎ」として、もしくは現実的な妥協点としてのハイブリッド型電気自動車が登場したとも言えます。また、航続距離に関する技術的な目処が立ったからといって、即座にすべての自動車を電気自動車に置き換えられるわけでもありません。その過程には、解決しなければならない数々の問題が残っています。
 たとえば、現在のクルマの車体構造は内燃機関エンジンを搭載することを前提に進化してきたものなので、それをそのまま電気自動車に流用してしまうと、様々なロスや不都合が生じ、電気自動車ならではのメリットがスポイルされかねません。電気自動車はボンネットにエンジンを搭載する必要がない代わりに、モーターとバッテリーを車体のどこかに搭載しなければならないわけですが、それらを搭載する最適な構造と配置はどのようなものか? については、まだまだ議論が続いているところです。

 早い話が、完全電気自動車が内燃機関自動車やハイブリッド型に取って代わる日は、文字通りに「遠い将来」になりそうなのです。しかし、資源・環境問題への対応は急を要する問題です。そこでクロースアップされつつあるのが、各種の「代替燃料」と、それによって動作できるエンジンです。実は今、全世界の自動車メーカーが全力をあげて開発競争を繰り広げているアイテムが、この代替燃料エンジンなのです。

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 ガソリン/軽油以外のものを燃料として動くエンジンには、すでに広く普及しているものもあります。その筆頭が、タクシーなどに使われているLPG(Liquefied Petroleum Gas)、いわゆるプロパンガスで動作するエンジンです。
 日本では約40年前からタクシー用車両に採用されはじめたそうですが、以降今日まで長年に渡って膨大な数が生産・運用されてきた実績を持ち、現在は日本国内で29万台、全世界では800万台以上も運用されているので、あらためて代替燃料車と言われてもピンと来ないかもしれません。エンジン自体の構造も、ガソリンや軽油を燃料に使う場合とほぼ同様のまま、高圧によって液化させたプロパンガスを貯蔵しておくための燃料タンクだけが相違点と言ってもいいほどです。
 燃料を補給するための設備も、日本国内に1900ヶ所ほど運営されていますから、ガソリン/軽油で走る自動車と同様とは言わないまでも、あまり遜色のない使い勝手は実現されていると言っていいでしょう。またLPGエンジンは、排気ガス成分中のCO2(二酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)、SPM(黒煙・煤塵)の含有量も、ガソリンエンジンや軽油エンジンに比べてクリーンだと言われています。

 こうなると、なぜLPG自動車がもっと一般に普及しないのかが不思議なほどですが、一説によると燃料を貯蔵しておく高圧タンクが諸事情によって低価格化できないことが最大のネックであると言われています。また、プロパンガスも石油から精製されるものなので、製造のためにエネルギーが必要な点はガソリンや軽油と同様です。クリーンではあるものの、資源のエネルギー効率の面では、ガソリンや軽油とあまり大きな差はないという説もあります。そこで登場するのが、すでに自然界に存在している天然ガスを燃料として使おう、という発想です。
 現在、車両への搭載方法によって圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas 天然ガスを200気圧に加圧・圧縮して搭載)自動車、液化天然ガス(Liquefied Natural Gas 天然ガスをマイナス160℃に冷却、液体化して搭載)自動車、吸蔵天然ガス(Adsorbed Natural Gas 天然ガスを吸蔵合金に蓄えて搭載)自動車があります。

 世界規模で見た場合、液化ガスと並んで普及しているのが、アルコール系物質などをベースとした「合成燃料」です。その筆頭は「エタノール(エチルアルコール)」と「メタノール(メチルアルコール)」でしょう。
 この手のアルコール系燃料を使って走る自動車が最も普及している国はブラジルです。なんと30年ほど前から、エタノールをガソリンに混ぜて10〜15%程度「カサ増し」した「ガソホール」を燃料に使う自動車がメジャーな存在でした。
 ブラジルで合成燃料車が普及した理由は、国内で大量に生産しているトウモロコシやサトウキビなどを原料にアルコールが製造できることと、エンジン本体にはほとんど変更を加えないで済む(ただし、ゴム製などの部品を侵す特性があるので、その点だけ対応が必要)ことなどです。
 現在のブラジルでは、ガソホールだけではなく、100%ガソリンでも100%アルコール系燃料でも走れる自動車も登場しています。また、国によってはわざわざガソホール等とは呼ばないものの、レギュラーガソリンに10%以下程度の割合でメタノールが混合されているケースもあります。
 日本でも先日、京都議定書に定められた温室効果ガス削減目標を達成するため、政府が年内にもバイオエタノール混合ガソリンの使用解禁や、 2010年を目標にすべてのレギュラーガソリンをメタノール混合燃料に切り替えられるよう、自動車メーカーに協力を求めるとの方針を発表しました。ちなみに、実は100%アルコール系燃料で走る自動車は日本でもすでに実用・市販化されていますが、あまり普及しているとは言えません。

 アルコール系の燃料は他にも多々あって、数年前に話題になった「ガイアックス」は天然ガスから作ったアルコール燃料です。また、使用済みの植物性食用油とメタノールや軽油などを混合して作る「軽油代替燃料」も実用化が進んでいます。
 また、天然ガスや石炭ガスを原料とする合成燃料「DME(ジメチルエーテル)」に関する研究も進んでいます。DMEは自己着火性が高く、常温下で約5気圧で液化するため、液体で貯蔵・利用しやすいなどメリットが多いことから、このところ注目を集めています。

 このように数ある代替燃料の中でも、究極の存在と言われているのが「水素」です。水素のいいところは、燃焼してもSOx(硫黄酸化物)やNOx、PMはもちろん、CO2すら発生しない、究極のクリーンエネルギーである点と、化石燃料と違って、人間自身の手によって様々な方法で作り出せるエネルギーである点です。

クルマによって排出される有害物質と地球環境との関連性


 水素エンジンも、エンジン本体自体はガソリンエンジンと大差なく作れます。一般的なガソリンエンジンとの違いは、燃料を空気と混合してからエンジンのシリンダー内部に送り込むのではなく、直接シリンダー内部に噴射する「ダイレクト・インジェクション」方式が主流になりそうなこと程度と言ってもいいですし、それもすでにガソリンエンジンやディーゼルエンジンで実用化されている技術にすぎません。
 対して問題点は、燃料である水素をどうやって安全に車両に搭載するか? です。これは、究極の電気自動車といわれる「燃料電池自動車」とまったく同じ悩みでもあります。常温・常圧のままの水素では、50リットル程度のタンクに充填してもあっという間に使い切ってしまいますから、なんらかの方法で水素を圧縮し、エネルギー密度を高める工夫が必要になるわけです。

 最も可搬性が良く、エネルギー密度も高まるのは液体化することですが、そのためには水素をマイナス253゚Cという極低温にまで冷やさなければなりません。もうひとつ有望視されている方法は、気体のまま圧縮するものです。すでに公道を走行している実験車両では、350気圧という高圧で圧縮した水素を使っていますが、やはり常温下で、ガソリンや軽油と同程度のコストとリスクで管理するためには、解決しなければならない関門が多いと言えます。
 日本でも、燃料電池自動車の実現と普及に向けた国家プロジェクトとして、全国に12ヶ所の実験用水素スタンドが建設され、現在も運用されているものもあります。これらの中には圧縮/液体、両方の水素を供給していたものもあるので、意外と早い時期に実用化されてしまうのかもしれません。

 もうひとつ研究が進められているのが、燃料タンクにはエタノールや天然ガスなどを充填し、車両に搭載した小型の「水蒸気改質装置」を介して水素を精製しながら走る、という方式です。さて、この話、どこかで聞いたことがありませんか? そう、これもまた、燃料電池自動車用に開発されている技術とほぼ同じなのです。

 現在、世界中の自動車メーカーが、燃料電池派と水素エンジン派に分かれて開発競争を展開しています。以前にも書きましたが、ガソリンエンジンはその黎明期にも電気自動車とのシェア競争を繰り広げた経緯を持っています。最終的にガソリンエンジンが勝利を収めた理由は、当時は原油の中のガソリンを精製する成分は使い道がなく、廃棄されていたものだったことだと言われています。一度は決着したエンジン対モーターの争いが、水素をテーマに再び展開されそうなことは、なにやら因縁めいていて面白い話ですね。
 とはいえ、水素の搭載 or 生成方法さえ確立してしまえば、通常はその水素でエンジンを駆動して走行、水素の一部は燃料電池に回して補助動力源としてのモーターを駆動したり、電気分解用の電力を得る……といった「水素ハイブリッド」自動車が登場して決着、というオチになりそうな気がしているのですが(笑)。

【 関連情報リンク 】

■Tech-Mag 2005年3月/テクの雑学 /
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著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2005」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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