テクノ雑学

第28回 パソコンを革命的に使いやすく — 接続規格「USB」の賢い工夫 —

接続規格「USB」の賢い工夫

パソコンを革命的に使いやすく — 接続規格「USB」の賢い工夫 —

 ほんの6〜7年ほど前まで、パソコンに何か周辺機器を接続するのはけっこう大変な作業でした。まず、接続の規格からして多数の種類があります。プリンタはセントロニクス、モデムはRS-232C、ハードディスクはE-IDEでスキャナやMOはSCSIでキーボードはPS/2で……さらに、規格によってはコネクタの形状が多数あったりもします。

 やっとの思いで正しいコネクタ/ケーブルを選び出せたら、それを使って接続する前に、パソコンに「ドライバーソフト」をインストールしておく必要があります。接続する端子の種類によっては、接続の終端であることを示すための「ターミネーター」をセットアップしたり、機器番号を割り当てたり……。その上、起動中のパソコンに何か新しい機器を接続して使おうと思ったら、いったんパソコンの電源を切って、先に周辺機器の電源を入れて、それから再度パソコンの電源を入れ直さなければならなかったのです。また周辺機器を使い終わっても、その電源だけを切ることはできず、パソコン自体の電源を切る時までそのままにしておかなければなりませんでした。

 当時はそれで当り前でしたから、慣れてしまえば「こんなものだ」としか思っていませんでしたが、今にして思えばものすごく面倒くさいことをやっていたものです。

 そんな状況を一変させ、パソコンと周辺機器をがぜん手軽に使えるようにしてくれた最大の功労者が、みなさんもご存じの「USB」という接続規格です。

 USBは「Universal Serial Bus」の略です。Universal=汎用という名の通り、パソコンを中心とする周辺機器の接続方法を統一することを目的に開発されました。主導役となったインテルの他に、コンパック(当時)、DEC(当時)、IBM、マイクロソフト、NEC、ノーザンテレコムの7社が中心メンバーとなってフォーラムを結成。1996年に正式な規格として公開しました。実際に対応製品が出まわりはじめたのは1998年ごろからですが、今では完全にパソコン周辺機器用端子の主流になっています。

 パソコンや電子機器の内部同士や、内部と外部でデータをやりとりする経路を「バス」と呼びます。バスは大別すると、データを1回あたりに1ビットずつやりとりする「シリアル転送方式」と、数ビットずつまとめてやりとりする「パラレル接続」に分類できます。古い接続の規格でいうと、シリアル接続はモデムなどに使われていて、パラレル接続はプリンタなどに使われていました。

 パソコンの黎明期から、マニアが使う趣味用品だった時代までは「接続できること」が優先され、使い勝手の面などはどうしても後回しになっていました。しかし90年代半ばになってパソコンが本格的な普及期を迎え、さまざまなスキルのユーザーがパソコンを使い始めると、やはりそれでは不便だ、との声が大きくなります。また、デジタルカメラなどの登場によって接続できる周辺機器の種類が一気に増大し、さらにパソコン内部のバスや周辺機器自体が性能をどんどん向上させてきたこともあって、昔ながらの接続規格の弱点が目立って来てしまいました。最初に述べたような接続自体の面倒くささのほかにも、接続できる機器の数がシリアルで1ポートあたり1台、パラレルが最大7台と少ないこと、OSのリソースを多く消費してしまいがちなことなどです。そんな問題の数々を一気に解消すべく開発されたのがUSB、というわけです。

USB接続の概要

 USBは、1つのコントローラーチップあたり127台までの機器が接続できます。また、「USBハブ」を使うことで、ツリー型の接続も可能になっています。さらにUSBが画期的だったのは、「バスパワード駆動」、そして「ホットプラグ」を実現したことです。
 バスパワード駆動とは、周辺機器を接続する際、機器が要求する電力をバス自身から供給できることを言います。接続する周辺機器の数が増えると、その分のコンセントを確保するのも大変ですよね。その点、バスパワードなら端子を接続するだけで機器も動作してしまうので、何かと重宝します。

 もちろん、プリンタやハードディスクなど消費電力の大きい周辺機器まではフォローできませんが、メモリー系やCCDカメラといった程度の消費電力ならバスパワードでまかなえてしまうので、USBケーブルを接続するだけで動作させられます。また、バスパワーで電力供給できることを利用し、パソコンの周りで使う様々なアイディア商品が生まれています。たとえば、ちょっとしたホコリなどを吸い取れる「USBミニ掃除機」や、コーヒーカップなどを載せておくと保温してくれる「USBカップウォーマー」などは、使ってみるとなかなか便利なものです。他にも「USB電気毛布」「USB卓上扇風機」などというものがあり、今後もアイディアしだいでアッと驚くような商品が出てくることでしょう。

 より革命的だったのは、パソコンや周辺機器の電源を入れたままの状態でコネクタを抜き挿しできる「ホットプラグ」と、そこから発展し、端子を接続したらそのまま、もしくはごく簡単な設定だけで使える「プラグ・アンド・プレイ」の実現です。

 ホットプラグを実現するため、USBのコネクタにはなかなか賢い工夫が盛り込まれています。USBコネクタには、長方形で平たい「シリーズA」タイプと、六角形でコンパクトな「シリーズB」タイプがありますが、いずれもコネクタの内部には4本の接続端子が収められています。このうち2本が電源供給用の端子、残りの2本がデータ用端子なのですが、よくコネクタ内部をよく観察してみると、2本だけが長いことに気付くはずです。
 

USBコネクタの構造


 この長さの違いこそが、ホットプラグを実現するミソです。コネクタを挿し込んで行くと、まず電源用端子が接触して通電することで周辺機器がパソコンから認識可能な状態になります。続いて、わずかな時間差でデータ通信用の端子が接触することでデータのやりとりが始まります。後は周辺機器側が自分自身の素性を表す情報をパソコン側に送り、パソコンのOSがその機器に対してデバイスドライバーの要不要を判断、必要な場合は自動的にインストール行程を開始…という流れでプラグ・アンド・プレイが実現しているのです。

 パソコンと周辺機器用のインターフェースとしてはすっかり主流となったUSBですが、昨今ではゲーム機やデジタル家電の類などにも普及が進んでいます。もはや「パソコン用」ではなく、デジタル機器用の標準インターフェースの座に就きつつある、と言ってもいいでしょう。

 そんな背景もあって、最近はパソコン等のホスト機器を介さず、USB機器同士を直接接続してデータをやりとりできる「USB On-The-Go(OTG)」規格に対応する機器も登場しています。これは、USB1.0とほぼ同時期に登場したもうひとつの新世代接続規格IEEE1394(i-LINK、FireWireなどとも呼ばれています)ではすでに実現されていた機能で、汎用デジタルインターフェースとしての使い勝手を大きく向上させるものです。また、USB機器間を無線で通信させる「ワイヤレスUSB」も規格の策定が進んでいます。

 これらが普及すれば、また一歩進んだユニークな商品が登場することは想像に難くありません。アッと驚かされるようなアイディア商品の登場にも期待が膨らみます。今後しばらくは、デジタル家電のUSB対応に注目してみたいと思います。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経ベストPCデジタル誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2005」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)

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