テクノ雑学

第25回 見えない、でもつながってる! −次世代無線ブロードバンド通信動向−

次世代無線ブロードバンド通信動向

見えない、でもつながってる! −次世代無線ブロードバンド通信動向−

 ADSL、FTTHの普及が進み、家庭のインターネット接続もブロードバンドが一般的になってきましたが、これからのインターネット接続はどう変わっていくのでしょうか。次世代のブロードバンドとして注目されている、無線ブロードバンド通信をとりあげてみましょう。

■ 無線ブロードバンドの本命・WiMAX

 通常のブロードバンド接続では、家庭内のルーターから最寄の電話局、ケーブルテレビ局などの間を電話線や光ファイバーで接続しています。ケーブル(線)を使って接続しているので「有線接続」ということになります。

 これに対して、無線ブロードバンドでは、家庭内のルーターと基地局の間を、ケーブルではなく無線で接続します。無線ブロードバンドにはいくつかの規格がありますが、その中でも本命と目されているのがWiMAX(World Interoperability for Microwave Access)です。

 WiMAXは、固定無線通信の標準規格IEEE802.16aの愛称です。通信には2〜11GHzの周波数帯を使用します。1台のアンテナで半径約50kmをカバーし、最大で70Mbpsの高速な通信が可能です。もっとも無線だからといって、携帯電話のように移動しながら通信できる規格というわけではありません。移動体通信の実現には、無線通信だけでなく、移動にともなって発生する通信の途切れの処理や、移動中に最も近い基地局に通信先を切り替えるハンドオーバーの仕様を実装する必要があります。こうした移動体通信での仕様を組み込んだ規格は、IEEE802.16eとして現在策定中です。
 

通信エリアの違い

 無線でのネット接続といえば、家庭内でも普及している無線LANがおなじみですが、無線LANは建物の中のネットワークで使用することを前提とした規格です。そのため、通信範囲は狭くなっています。これに対して、WiMAXでは、広い範囲で多数の接続を実現するための規格なので、1つの基地局で広い範囲をカバーでき、また多数の高速な接続をカバーできるようになっています。

■ ラストワンマイル問題解決の切り札になるか?

 では、有線接続を無線接続にすることでどのようなメリットがあるのでしょうか。一番大きなメリットは「接続のための配線工事が不要になる」ということです。

 ブロードバンド普及を考える時、必ず問題になるのは「ラストワンマイル」問題です。日本でいえば、電話局から家庭までの通信手段をどうするかという問題に相当します。この部分が高速化されなくては、ブロードバンドの恩恵を受けることはできません。

 また、世界的にみると、広い国土に人がまばらにすんでいるような国、地域では、通信のためにケーブルを引くことそのものが高いコストになってしまいます。WiMAXは、このような地域でも、ブロードバンド環境を比較的安価に構築することができます。日本でも、山間部など、ADSLの利用やFTTHの工事が困難な地域のラストワンマイル問題の解決策になる可能性があります。

ラストワンマイルとは


■ 家庭のインターネットがそのままモバイルに!

 また、IEEE802.16eが標準として策定されれば、移動しながら使える高速LAN通信のインフラとして大ブレイクする可能性があります。FOMAなどの第3世代携帯電話は音声中心の通信規格であり、データ通信は数100kbps程度と「メールや静止画のWebを見るには十分だが、動画通信には若干不満が残る」速度でした。無線ブロードバンドなら、現在一般家庭で使われているのと同程度の通信速度がモバイルでも実現できます。

 もう一つ、注目されている用途が、IP電話のインフラです。ADSLサービスの付加サービスとして普及が進んでいるIP電話ですが、無線ブロードバンドでも同じ仕組みで音声通話をすることができます。PHS事業を運営しているYOZANでは、定額制のIP携帯電話の実用化をめざし、2005年6月から実証実験を開始しました。2005年12月には、現在提供しているPHS網のバックボーンをIP通信に置き換えたIP携帯電話事業の開始を目指しており、注目されています。

 無線ブロードバンドの規格はWiMAXだけではありません。2005年6月はじめに、京セラが次世代無線ブロードバンド技術「iBurst」の公開実験を行いました。下り1Mbps、1つの基地局で同時24チャンネルの通信が可能で、基地局や通信機器については既に開発が完了しています。もう一つの特徴は、最初から時速100km程度での移動体からの通信も可能な規格として設計されていることです。WiMAXに比べると、移動体通信技術としては技術的な点では一歩リードしているという点で、注目しておきたい規格です。


著者プロフィール:板垣 朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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