テクノ雑学
第18回 クリーンな地球は、いかがですか? — 夢のある乗り物=電気自動車 —
夢のある乗り物=電気自動車
クリーンな地球は、いかがですか? — 夢のある乗り物=電気自動車 —
この2月16日、「京都議定書」が発効されました。
京都議定書とは、1997年12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締結国会議(COP3)」において採択されたもので、温室効果ガスの排出量について法的拘束力のある各国の数値約束を定めた議定書です。
もう少し簡単に言うと、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)など、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されている6種類の物質の大気中濃度を安定させるため、排出量削減義務などを定めた国際条約です。ここではその詳細には触れませんが、日本の場合は6%の削減が目標値とされています。
この目標を達成するためには、個人や家庭、職場レベルでできる省エネルギーのための努力を積み重ねていくことが重要です。小さなことから言えば、無駄な買い物をしない(工業製品を生産する過程と、それを廃棄して焼却処分する過程では、必ず温室効果ガスが発生します)、節電を心がけ、家電製品を買い替える場合には多少高価でも省電力タイプを選ぶ……といった心がけが推奨されます。あまり神経質になる必要もありませんが、個人個人が心がけなければならないことは確実なのです。
個人が日常生活の上でCO2排出量削減のためにできることについて、東京電力のサイトがたいへん興味深い形でまとめていますので、よろしければご参考ください。
【 関連情報リンク 】
■TEPCO : 暮らしのCO2ダイエット 東京電力株式会社
中でも、個人レベルで比較的大きな効果を得られるのが、自家用車をULEV(Ultra Low Emission Vehicle 超低排出ガス車)にすることではないでしょうか。
現在、「自動車」といえば、通常は「内燃機関」を搭載し、動力源とする乗り物を指します。内燃機関とは、読んで字のごとく内部で燃料を燃やしたエネルギーを運動エネルギーに変換する機関のことで、自動車が搭載しているのはガソリンを燃料に使うレシプロ・エンジン、軽油を燃料に使うディーゼル・エンジンなどです。
内燃機関は長い歴史を持ち、その間常に改良を積み重ねてきたことで、コスト、重量、取り扱いの容易さ、そして性能面で大きく進歩してきました。それでも克服できない難点が、燃料を燃やす構造上、必ず温室効果ガスや有害物質を発生してしまう点です。
ULEVとは、さまざまな工夫によってその排出量を低減したものを指します。各自動車メーカーは、生産する自動車のうちULEVが占める比率を徐々に高めていますが、世界規模での自動車生産台数は今後しばらくの間、増加する一方と考えられますから、ULEVの推進による低減努力が相殺されてしまうのは時間の問題という見方もあります。
そこで発想を転換し、内燃機関以外の動力源で走るクルマを作れないか? という方向性が出て来ます。その筆頭が、電気モーターを動力源とする「電気自動車(Electric Vehicle=EV)」でしょう。最もベーシックな構造のEVは、車体に搭載したバッテリーに貯えた電力によって直接モーターを駆動するので、それ自体からは温室効果ガスも有害物質も排出しません。そのため、LEVではなくZEV(Zero Emission Vehicle)と呼ばれることもあります。
実はEVの歴史は意外に古く、最初のものは1873年にイギリスで作られたというのが定説になっています。カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが、ガソリンを燃料にする自動車を公開したのが1886年ですから、EVのほうが長い歴史を持っているわけです。また、19世紀末から20世紀初頭にかけては、まだ内燃機関自動車の性能が低かったこともあり、EVは半数程度のシェアを持っていたともいわれています。日本でも、終戦直後はガソリン不足の影響でEVが持てはやされていたそうです。
ただし、EVも本当の意味でのZEVではありません。電気を作る過程で発生する温室効果ガスなどをカウントする必要があるからです。また、そのエネルギー効率についても論議があるところです。さまざまな機関で試算されているところでは、原油の持つエネルギーを100とした場合、内燃機関自動車では最終的な効率が9〜14%、バッテリー+モーター型EVでは16〜21%程度になるというのが定説になっているようです。これはあくまで現状でのものですから、電気自動車が普及してより大きな電力需要が生じた場合、それをまかなえるだけの発電設備を作り、運営する過程の環境負荷まで併せて考えると、最終的なエネルギー効率は予想外に低くなってしまう、との見解もあります。
現状のEVが抱える最大の問題は、バッテリーに関連する事柄です。まず「自動車」として見た場合、EVには「充電一回あたりの航続距離」という大きな弱点があります。内燃機関自動車は、燃料さえ補給すればいくらでも走り続けることができますし、燃料の補給も全国いたるところにあるガソリンスタンドへ立ち寄れば10分もかからずに満タンにできます。対してEVは満充電までに数時間程度が必要な上、一回あたりの走行距離は(搭載するバッテリーの容量にもよりますが)せいぜい100km程度である場合が多いのです。
充電一回あたりの航続距離を伸ばすためには、モーターの駆動効率、もしくはバッテリーの蓄電効率を向上させることがあげられますが、これらは物理・化学の問題になりますから、飛躍的な性能向上は期待薄なのです。かといってバッテリー容量を大きくすると、それだけ満充電までに時間がかかることになりますし、バッテリー自体の重量が増えることで燃費効率が低下するという矛盾も生じます。そもそも、出先で電池残量が残り少なくなってきた場合、どうやって充電するのか? という問題もあります。現在あるガソリンスタンドを有効利用するため、敷地内に充電器を設置することが考えられますが、数時間にも及ぶ充電中、ずっとクルマがそこに留まっているというのは現実的ではありません。
充電時間短縮化のため、バッテリー自体を共通規格の着脱式にして、満充電状態のものをスタンドに常備しておき、空になったら新しいバッテリーと次々に交換していくといった構想もありますが、それをやってしまうと大量のバッテリーを生産しなければならなくなるため、新たな環境負荷が生じることになります。なにより、EV用バッテリーの主軸である「鉛蓄電池」の廃棄処分に関する環境負荷も無視できない問題になってきます。
とはいえ、動力源としてモーターが魅力的なことは事実です。そこで、モーターを駆動するための電力をバッテリー以外からも供給する方式が考案されます。これが「ハイブリッド」型と呼ばれるEVです。
ハイブリッド型EVには、機構によっていくつかの種類があります。現時点で実用化されているものとしては、車両になんらかの発電機を搭載し、それによって発電した電力をバッテリーに貯えながら走行する「シリーズ・ハイブリッド式」。内燃機関とモーターが、お互いに不得手とする走行条件下で動力をアシストし合う「パラレル・ハイブリッド式」。内燃機関がモーターのアシストと充電の両方を行なう「シリーズ・パラレル・ハイブリッド式」があげられます。
たとえば、3リッター程度のエンジンを搭載していた大型車を、シリーズ・ハイブリッド式で走らせる場合に軽自動車用程度のエンジンで済むとしたら、排出する温室効果ガスや有害物質が大幅に低減できることになります。パラレル・ハイブリッドやシリーズ・パラレル・ハイブリッド方式の場合は、もう少し大きな排気量のエンジンが要求されることになりますが、それでも排気物質が大きく低減できることに代わりはありません。
ハイブリッド式なら航続距離の問題も一気に解決しますし、従来のガソリンスタンドがそのまま使えるので、新たなインフラ整備にともなう環境負荷も考えなくてすみます。
シリーズ・ハイブリッド型に関しては、内燃機関式発電機の代わりに燃料電池(水素と酸素の化学反応によって生じるエネルギーを利用し、電力を発生させる装置)を搭載するタイプも一部で実用化されており、将来的にはこれが本命になるのではないかと目されています。
ただし、ハイブリッド型の電気自動車でも、バッテリーの生産/廃棄処分における環境負荷増大の問題は残っていますが、完全EVに比べればその消耗度合いも低減できます。燃料電池型の場合は、危険物である水素を安全に携行できる燃料タンクの低コストでの量産が普及のカギを握っています。
おそらく、今後20年程度の間に、内燃機関自動車はEVとハイブリッド車に取って代わられて行くことは想像に難くありません。また、EVは限定的な地域内の移動用、現在の自動車のような使われ方をするものはハイブリッド(そして燃料電池)車という使い分けが進むはずです。
エンジンの持つ(野蛮な?)魅力を味わいながら育って来た世代の筆者としては、いささか寂しく感じられることですが、20世紀に人類が始めて手に入れた「個人が自動車を所有でき、自由に移動できる権利」を手放さないまま、地球全体の環境を悪化させないためには、その方向に進むのもしかたがないことと言えます。
【 関連情報リンク、ならびに上記イラストのモチーフ出典 】
■ハイブリッド自動車のメカニズム 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
*但し、上記リンクは今後、URLの変更がなされる場合がございます。ご了承下さい。
著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部私法学科卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。現在は日経WinPC誌、日経クリック誌などに執筆。
著書/共著書/監修書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「PC自作の鉄則!2005」「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」など(いずれも日経BP社)
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