テクの図鑑

vol.19 人間の視感度に近い特性を活用 アモルファスシリコン可視光センサ

人間の視感度に近い特性を活用 アモルファスシリコン可視光センサ

 

携帯電話ではLCD(液晶ディスプレイ)のバックライトに、通信と同程度の電力が消費されている。ゲームを楽しんだり、デジタルカメラがわりに多用したりしているとバッテリはみるみる減っていく。こうしたバッテリ問題の打開策として開発されたのが、TDKのアモルファスシリコン可視光センサだ。

多機能化が進む携帯電話に省電力対策は急務

人間の視覚は周囲の明るさに順応性をもつ。日常的によく経験するように、室内や夕暮れなど、多少暗いところでも、すぐに目が慣れてくる。このような環境では、携帯電話のLCDのバックライトは輝度を落としたほうがかえって見やすくなる。明るい日中の戸外などでは、キースイッチの照明などは不要だ。もし人間の目に近い視感度をもつセンサがあれば、バックライトの輝度をきめ細かに自動調整することが可能となり、携帯電話などのモバイル機器のバッテリセーブに大きく寄与する。そこで、アモルファスシリコン太陽電池の製造で培った半導体技術を駆使して、TDKが開発したのが可視光センサBCSシリーズである。  

TDKの可視光センサは、ガラス基板にアモルファスシリコン半導体や電極の薄膜を成膜し、さらに端子電極や絶縁樹脂などをほどこしたチップ部品だ。原理はアモルファスシリコン太陽電池と同じである。光が強ければ強いほど電気もたくさん流れる性質があり、電流値を検知することで、周辺環境の照度を検知できるのだ。太陽電池では多数のセルを集積しなければならないが、可視光センサは微弱な電流ですむため小型薄型のチップ化が可能となる。TDKの可視光センサは、従来以上の省電力化が求められる第3世代携帯電話などにすでに搭載されている。

アモルファスシリコンならではの優位性

単結晶シリコン半導体の太陽電池は発電効率にすぐれる。人間の視覚が感知できない赤外領域の光までエネルギー変換するからだ。しかし、これは可視光センサとしては弱点となる。人間の視感度に近づけるためには、赤外光を吸収する感度補正フィルタを搭載しなければならないため、小型化や低コスト化の障害になっていたのだ。  

一方、アモルファスシリコン半導体は、材料そのものの物性により赤外領域の光にほとんど感度がなく、人間の視感度にきわめて近い分光特性をもつ。また、太陽光や蛍光灯、白熱灯など、光源の違いによる出力電力のバラツキも少ない。このため可視光センサとして、まさにうってつけの素子となるのだ。  単結晶シリコンを用いた可視光センサでは、別の弱点もかかえている。受光素子であるフォトダイオードの面積が大きくできないため、出力電流をトランジスタやOPアンプを内蔵して増幅しているが、この増幅回路部分の影響で温度上昇とともに出力電流が低下してしまうことだ。この点でも、TDKの可視光センサは優位に立つ。  

アモルファスシリコン半導体の膜質や成膜条件の改善などにより、温度上昇に伴う出力変化を大幅に抑制する技術を投入したからだ。このため、地域や季節の違い、寒暖差の激しい環境下などでもきわめて安定した出力を維持する。

話題の可視光通信への応用にも期待がかかる

TDKの可視光センサは、アモルファスシリコン半導体を用いたチップタイプの光センサである。チップ部品は回路基板に実装されてはんだ付けされるため、センサ素子にはすぐれた耐熱性や強度が要求される。TDKではプラズマCVD法による高品位成膜技術をベースに、高速自動装着ラインにおけるさまざまな応力にも耐える強靭なアモルファスシリコンの成膜技術を確立。また、静電耐圧をさらに強化して、静電気放電による出力不良のリスクも大幅に低減した。曲げやねじれなどの応力にもフレキシブルに追随するプラスチック基板タイプもすでに開発。薄膜トランジスタで温度上昇の影響を抑制する工夫をしたアンプを内蔵した2015サイズ、1608サイズの開発も進めている。  

TDKの可視光センサは、LCD搭載のモバイル機器ばかりでなく、大画面液晶テレビやCRT式リアプロジェクションテレビの輝度調整用などにも採用されている。さらにはLED照明などに情報を乗せる最近話題の“可視光通信”のセンサとしての応用にも期待がかけられている。可視光センサの用途はかぎりなく広い。人間の視覚が関与するすべてのシステムが、TDK可視光センサの活躍の場なのだ。

TDKは磁性技術で世界をリードする総合電子部品メーカーです

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