テクの図鑑

vol.14 先進の材料技術とナノテクの結晶 有機ELディスプレイ

先進の材料技術とナノテクの結晶 有機ELディスプレイ

 

安全走行を追及する "ITS" と、情報通信技術と融合した "テレマティクス" が、これからの自動車のキーコンセプト。視野角が広く動画応答性にもすぐれた有機ELディスプレイは車載機器にうってつけ。ドアミラーをなくして、インパネ左右にバック確認用ディスプレイを配置しようという構想もある。

発光ダイオードと似た原理

有機ELディスプレイは有機物を発光材料とするフラットパネルディスプレイである。その発光原理は家電機器のパイロットランプや駅構内の行き先表示などに使われるLED(発光ダイオード)とほぼ同じもの。このため欧米ではOLED(有機LEDの意)と呼ばれている。

LEDは基本的にn型半導体とp型半導体の間に発光層をはさんだサンドイッチ構造となっている。電極から電流を流すと、n型半導体からマイナスの電荷をもつ電子が、p型半導体からはプラスの電荷をもつ正孔が移動し、発光層において再結合する。このときに生じるエネルギーが発光材料を励起させて光を放出するのだ。  

LEDの光の波長は発光材料の種類によって決まる。赤色や緑色などに続き、青色LEDも開発されたことにより、フルカラー表示のLEDパネルも可能になった。フィラメントを用いる電球とくらべて、低消費電力かつ長寿命なので、交通信号灯などにも使われはじめている。

ただしLEDは点発光なので、パネル化するには多数のLEDを敷き並べる必要がある。LEDとほぼ同じ原理で平面発光するのが有機EL素子である。しかも自発光タイプなので、液晶ディスプレイのようにバックライトを必要としないフラットパネディスプレイが実現する。

白色光とカラーフィルタを用いるTDK方式

有機ELディスプレイのカラー表示には、右表のように大きく3つの方式がある。TDKが採用しているのは、白色発光の有機EL素子にR(赤)・G(緑)・B(青)のカラーフィルタを重ねるという方式である。  

カラーフィルタ方式にはさまざまな利点がある。まず第一に液晶ディスプレイで使われている既存のカラーフィルタ技術をそのまま転用できることである。3色独立画素方式のように長時間使用によってカラーバランスが崩れるという心配もなく、発光は白色光だけですむので、製造工程をシンプルにでき、コストダウンも図れるのも利点だ。  

しかし、高輝度・長寿命の白色発光素子の開発は技術的に至難とされていた。また、カラーフィルタ方式では、光がカラーフィルタに吸収されて輝度が落ちるという短所もある。しかし、TDKの技術陣は、それを補うに十分なほど輝度を上げれば、この問題はクリアできると考えた。そこで、蓄積した材料技術とナノレベルの薄膜技術を駆使して、この技術課題にチャレンジ。1998年に独自の長寿命白色発光構造技術を確立し、2000年には白色発光素子とカラーフィルタを組み合わせた業界初の有機ELエリアカラーディスプレイ(パッシブマトリックス方式)を製品化した。

車載ディスプレイからモバイル機器まで

TDKの白色発光素子は、補色関係にある青色と黄色の混合によって白色発光を得ている。発光層である有機層の厚みはわずか0.1ミクロン(μm)。この有機層は複数の材料を精密制御しながら真空蒸着して積層される。発光材料にはTDK独自の分子設計が、また多層構造にも独自の薄膜プロセス技術が投入され、高輝度・長寿命の白色発光素子が実現している。また、有機EL素子は低温動作性にもすぐれるという特長がある。液晶ディスプレイが動作不能となる−30℃というような酷寒でも、有機ELディスプレイは正常に機能するのだ。  

テレマティクス時代の自動車は、走るエンターテイメント空間になるとも予測され、高精細で視認性のよいディスプレイが求められる。TDKでは2003年から4096色マルチカラーの有機ELディスプレイの量産を開始し、カーナビやカーオーディオなどの車載ディスプレイとして利用されはじめている。有機ELディスプレイは視野角が広いので自動車のどの座席からも見やすく、応答性にもすぐれるので動画表示にも最適のディスプレイなのだ。車載用で蓄積した高信頼性と低消費電力という利点を生かして、携帯電話での地上デジタル放送受信用ディスプレイとしても大きな期待が寄せられている。

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